10話 魔法少女になった日⑦
――――――
「えーと、まずはどこから話せばいいですかね……」
場所は変わりここは高層マンションのとある一室。
エヴァと陽菜のアジト……もとい家である。
「コーヒーは飲める?」
「ううん、飲めないよ」
「じゃあ、オレンジジュースで」
陽菜は三人分の飲み物を用意した。
「エヴァは紅茶でよかったよね?」
「えぇ。ありがとうございます」
注がれた紅茶を一口飲む。
「やっぱり、陽菜ちゃんが淹れてくれる紅茶は美味しいですね」
「お世辞を言われても、この件はまた別だよ」
少し不機嫌そうに陽菜はコーヒー(ブラック)を飲んだ。
(陽菜ちゃん、コーヒーブラックで飲めるんだ……)
「さて、どこから話をしましょうか……」
月菜が陽菜に気を取られいると本題に入った。
「まずはこの子の紹介をしましょうか。彼女の名前は桑原陽菜。私の弟子にあたる子です」
「弟子……? 陽菜ちゃん、その…魔術師って事なの?」
「……まぁ、そういうこと」
「じゃあ、さっきの剣とか、変身とか……あれって全部――」
「そう、魔術だよ。ちょっと着ているものは恥ずかしいけど」
陽菜は視線をそらしながら答えた。さっきまでニブラを相手にしていたとは思えない、年相応の恥ずかしそうな態度に月菜は逆に戸惑う。
(あの姿、恥ずかしいんだ……)
「そんな事ないですよ。魔装姿の陽菜ちゃんも可愛いです!」
「あ、ありがとうね……」
それを見てエヴァは苦笑混じりに、だがどこか真剣な目で話し始めた。
「まず改めて謝らなければいけません。――私はあなたを“古田雪奈”という魔術研究者だと誤認していました」
「うん、もう分かってる……というか、なんで間違えたの?」
月菜が尋ねると、エヴァは少し言いづらそうに眉を寄せた。
「魔力です」
「魔力……」
「あなたから検知された魔力の波長が、非常に珍しいのです。これ程の魔力を持っているのは陽菜ちゃん以外ありません。だからこそ、あなたと勘違いしてしまいました」
「そんなに私の魔力って凄いんだ……」
驚き呟く月菜を見てエヴァは苦笑いをしていた。
「エヴァは反省した方がいい。関係のない一般の子を巻き込んでいる」
「……申し訳ありません」
本気で謝るエヴァに、月菜は慌てて両手を振った。
「い、いいよ! もう大丈夫だから!」
「ともかく、あなたの魔力については、今後もう少し慎重に調査する必要があります。ですが――」
「……ですが?」
「今日のところは、とにかく休んでください。本当に怖い思いをしましたからね」
「あ……うん」
言われてみれば、月菜の心臓はまだ少し早く鼓動している。
家の浴槽での混乱、公園でのニブラ、変身した陽菜とエヴァ――
どれも現実感が薄い。
ひと呼吸置いて、陽菜がそっと口を開いた。
「月菜ちゃん……今日はうちに泊まってもいいよ。送り届けるより安全だし……」
「と、泊まる!?」
予想外の提案に月菜は思わず身を乗り出した。
「う、うちに帰ったらまた変なの来るかもしれないし……。エヴァもなんだかんだで心配するだろうし……」
「もちろん、あなたに危険が及ばないよう守ります。――兄さんには、状況をぼかして私が説明を入れておきます」
「そ、そんな…大丈夫だよ!?」
「もちろんです」
エヴァはふっと柔らかく微笑んだ。
その時だった。
――――バチッ。
どこかで小さな火花が散るような音がした。
「……え?」
月菜の胸元で、あの時エヴァから渡されたあの“魔具”が微かに光を放った。
「ちょ、ちょっと待って! これって――」
「まずい……」
陽菜が青ざめた。
「月菜ちゃん、その魔具……完全に反応しちゃってますね」
「反応ってなに!!?」
月菜の叫びが、マンションの静かな部屋に響いた――。




