10話 魔法少女になった日⑥
「エヴァ……やっぱり人違いだったんだね」
茂みからひょこっと現れたのは、月菜と同い年ほどの少女。
あきれたような、しかし落ち着いた顔つきだ。
「よ、陽菜ちゃん? なんでここに?」
「あの時、その子に魔具を渡した時から嫌な予感してたの。だって、そんな小学生が魔術の研究なんてしてるわけないもん」
「ち、小学生って……同い年でしょ!」
月菜は心の中でむきっとしながら抗議した。
エヴァは慌てた様子で必死に続ける。
「で、ですが! 魔力の質は本物です。年齢に関係なく、彼女は――」
「その話は帰ってから。ここで長話してる場合じゃないよ」
陽菜の声色が一瞬で鋭くなる。エヴァも表情を引き締めた。
「え、ちょっ、急にどうしたの?」
「来る――ニブラが」
その言葉に呼応するように、公園の奥の闇がぬるりと動いた。
黒い影の塊。輪郭は曖昧で、赤い目だけがぎらついている。
「ひ、ひぃぃ!? な、なんか出たぁーっ!!」
「月菜さん、落ち着いてください。あれはニブラ――人間の負の感情が具現化した存在です」
「落ち着けるわけないでしょ!? こんなの!!」
月菜が半分泣き声で叫ぶ中、陽菜はペンダントを、エヴァはカードを取り出していた。
「陽菜ちゃん、行きますよ」
「うん……いく」
陽菜はペンダントをぎゅっと握りしめ、低く呟く。
「シャイニーパワー…オン」
エヴァもカードを掲げた。
「セット……」
瞬間、まばゆい光が二人を包み込む。
光が収まると、エヴァは白と青の輝く衣装に、陽菜は太陽を象った紋章が輝くオレンジの衣装に変わっていた。
「す、すご……ほんとに変身してる……」
月菜が呆気に取られていると、ニブラが甲高い咆哮を上げた。
『ギャアアアアアッ!!』
黒い液体のような影が地面を侵食していく。
陽菜が一歩前に出て月菜を振り返った。
「そこの子。絶対に動かないで」
「そこの子っ!? ……わ、分かった!」
言い方にモヤっとしたが、今は従うしかない。
隣で、エヴァがカードを構える。
「《ルミナス・バインド》! 陽菜ちゃん、今!」
「了解!」
光の鎖がニブラを拘束する。
赤い目が怒り狂うように揺らいだが、鎖はびくともしない。
陽菜は地面を蹴り、空へ跳び上がった。
剣に宿る太陽紋章がオレンジ色の光を帯びる。
(陽菜ちゃん……すごすぎる……!)
月菜の目には、夜空に昇る一筋の太陽のように見えた。
「――《サンバースト・スラッシュ》!!」
灼熱の光線が一直線に走り、ニブラの胸部を貫いた。
『ギャアアアアアァァァッ!!』
黒い影は焼き払われ、煙のように空へ散って消えていく。
影が侵食していた地面も、跡形もなく元に戻った。
「……た、倒したんだよね?」
月菜が震える声で尋ねると、陽菜はこくりと頷いた。
「うん。あれくらいなら大丈夫」
「大丈夫じゃないよ! 何あの化け物!? ていうか陽菜ちゃん何者なの!?」
月菜の怒涛の質問に、エヴァが変身を解きながら苦笑した。
「説明は家でゆっくり……。月菜さんが無事でよかったです」
陽菜も変身を解き、静かに言う。
「怖かったよね。でも、もう安心して」
「いや……怖いに決まってるでしょ!!」
月菜の叫びは、静まり返った夜の公園に空しく響き渡った。




