10話 魔法少女になった日⑤
公園の木々が風に揺れ、足元の砂がさらさらと鳴る。
月菜は、肩で息をしながら女性を睨んだ。
「……で、なに? なんの用なの? お風呂に乱入した理由とセットで説明してよ……」
金髪の女性は胸に手を当て、深くうなずいた。
「まずは自己紹介としましょう。私はエヴァンジェ・ソトといいます。改めてご協力を頂きありがとうございます……古田雪奈さん」
「ふ……ふるたゆきな?」
「??? 日本で魔術を勉強している古田雪奈で間違いありません……よね?」
「いやいや、私の名前は京田月菜!! ただの小学生で魔術の事なんて勉強してないよ!!」
「えぇぇっ!!!!」
金髪の女性はひっくり返るが如く驚いていた。
「そ、そんな……でも……その年でそんな魔力を秘めているだなんて、陽菜ちゃんぐらいしか……」
そこでハッと気づいた。
「こ、こんな失敗陽菜ちゃんに知られてしまったら……絶対に怒られるっ!!」
(何か喜怒哀楽が激しい人だなぁ)
変わる変わる表情の金髪の女性の変化を眺めていたが、
「あのぉ……、つまり、お姉さんは一体何者なんですか?」
「はぁ…ここまできたら誤魔化しは効かないですよね……」
意を決したように金髪の女性は……
「先程の自己紹介の続きをしましょう。私の名前はエヴァンジェ・ソトーーー北欧のとある学院に通うソーサラーです」
「そ、ソーサラー?」
「失礼、この国では魔術師と呼んだ方がいいですね」
「いやいや、それでも意味が分からないよ!」
「ふむ…本当に何も知らない感じなのですね……。なら一体何故そんな魔力を秘めて……」
「魔力って何?」
「これの事です」
エヴァは一枚のカードを取り出した。
「……セット」
エヴァの言葉と共にカードが光り始めた。
「え、何? 手品?」
「違います、これが私の魔術です。ちなみにこれは“光”のカードを発動させています」
ふわり、と。
カードの周りに漂う光が淡く揺れて、公園の木々の影まで薄くなる。
月菜はごくりと喉を鳴らした。
「……ほんとに……魔法、みたい」
「魔法とはちょっと違いますね。これは特殊なこのカードに私の魔力を流して出来ているものなのですよ」
「ま、魔力を……流す?」
エヴァは光るカードをそっと消し、静かに言った。
「あなたの体から、常時とても強い魔力が放出されています。気付いていないのが逆に不思議なくらいです」
「え、でも……私、普通の小学生なんだけど……」
「もし本当に普通なら、私が遠く離れた国から反応を誤認するなんてあり得ません」
エヴァは真剣な目を月菜に向けた。
「月菜さん。あなたは――何か特別な素質を持っています」
「特別……?」
自分にはまったく身に覚えのない言葉だった。
するとエヴァは、なにか悩むように眉を寄せた。
「……しかし、おかしいのです。あなたから溢れる魔力はとても普通の小学生とは思えません。まるで……」
そこまで言いかけて、エヴァは口を閉じた。
「ごめんなさい。推測で不安にさせるのはよくありませんね」
「え、あ、うん……」
月菜が戸惑いながら返すと、エヴァは深く、丁寧に頭を下げた。
「重ねて謝罪します。あなたを別の人物だと誤認し、迷惑をかけました」
「それはもういいけど……」
月菜が苦笑すると、エヴァはわずかに肩の力を抜いた。
「……それでね、お姉さんはこれからどうするつもりなの?」
月菜の問いに、エヴァは少し困った顔をして答える。
「本来なら任務は古田雪奈と接触し、日本の魔術情報を共有することでしたが……」
「私は違うし」
「ええ。ですが――あなたの魔力は、放っておくと危険です」
エヴァはそう言うと、真剣な表情で続けた。
「私の学院を含め、世界中の魔術組織が異常な魔力反応を探知した時……何も起きないはずがありません」
「……つまり?」
「あなたの存在は、すでに誰かに見つかっている可能性があるということです」
月菜の背筋に、ふっと冷たい風が通り抜けた。
「……え、それって……危ないってこと?」
「危険ですね。あなただけではなく近しいの人々も」
エヴァは月菜の目をしっかりと見つめた。
「だから……月菜さん。もしよければ、私にあなたの魔力の調査を手伝わせてくれませんか?」
「……調査?」
「このまま放置していたらよからぬ事が起きるのは明白です。確かこの国にはあの方々が……」
公園の奥から、ぱきり、と枝の折れる音が響いた。
月菜もエヴァも、同時に振り返る。
「……誰?」




