10話 魔法少女になった日②
半年前のクリスマスを控えた日
冬将軍が到来し寒さが吹く商店街を、月菜はたい焼きの袋を抱えて歩いていた。
「お兄ちゃん、あと五分で来なかったら、たい焼き全部わたしが食べるからね」
月菜とタクローは商店街にたい焼きを買いに来ていた。
しかし、タクローはトイレに行ったきり帰ってきていないのだ。
「……失礼。そこの子、ちょっといいですか?」
流れるような日本語で、金髪の女性が声をかけてきた。
異国の雰囲気。姿勢の良さ。整った顔立ち。
しかし、何よりも視線が鋭い。
月菜を一目で値踏みするように見つめた。
「……あの、はい?」
「アンブラ……」
「はい???」
月菜は金髪の女性の言葉にきょとんとしていた。
(え……今の何? 意味が分からないけど……)
「……? アンブラ」
今度ははっきり聞こえるぐらいの声で伝えてきた。
(な、何、アンブラって? 何処か外国の挨拶なのかな?)
「ア…アンブラ……?」
「……???」
金髪の女性も月菜の言葉に目を丸くしていた。
「ま、まぁ、それだけの魔力があれば本人で間違いないですよね。この間の手紙を拝見しました。ご協力ありがとうございます。」
「え、それ、どういう……」
月菜が金髪の女性に尋ねようとしたところ……
「アンブラ……」
月菜の背後から同い年ぐらいの女の子が先程の謎の言葉を発していた。
「ルミナ。陽菜ちゃん、どうでした?」
「色々監視網がある。何とか巻く事が出来たけど時間の問題かも……」
「ほとぼりが覚めるまではあまり表には出ない方がいいですね」
(何の事を話しているんだろう?)
二人で真剣な話をしているようであるが、月菜はさっぱり分からなかった。
「これを……約束の物です」
金髪の女性は月菜に月の模様が彫られているペンダントを押し付けた。
「エヴァっ、そろそろ不味い」
「では、また会いましょう…」
二人はそそくさとその場を離れていった。
「あ、ちょっと……行っちゃった……」
月菜は押し付けたペンダントをじっと見た。
(あ、何だか綺麗なペンダントだな)
ペンダントを眺めていたら、息を切らしたタクローが駆けてくる。
「お兄ちゃん、遅いよ!」
「悪い月菜! 犬に追いかけられてた!」
「もぅ…そんな嘘をつかなくても」
月菜は持っていたペンダントをポケットにしまった。
「いや、ほんとに怖かったんだって……!」
「もぅ…たい焼き冷えちゃうよ」
ぷぅ…っと月菜は頬を膨らませ、ポケットにそっとペンダントをしまった。
「ほらほら、怒るなって。帰ったらレンジで温めてやるからさ」
「うー……お兄ちゃんが遅いからだもん」
文句を言いつつも、タクローの歩幅に合わせて月菜は並んで歩く。
商店街のイルミネーションが、夕暮れの空に白と赤を揺らめかせていた。
クリスマス前らしく、家族連れや買い物客が多い。
けれど――月菜の心は、どこか落ち着かなかった。
(さっきの人……ほんとに何だったんだろう)
「ん? 月菜、どうした? さっきから静かだぞ」
「えっ!? べ、別に。寒さで頭が凍ってただけ!」
「そんなわけあるか」
タクローが覗き込むように顔を寄せてくる。
月菜は慌てて視線をそらし、ポケットの中のペンダントを握りしめた。
(これ……見せたら、絶対変に思われるよね……)
兄には何でも話す。
でも――これは、なんとなく言えなかった。
「ほら、手袋ちゃんとはめろよ。手が冷えてるぞ」
タクローはいつもの調子で月菜の手を覆い、手袋をきゅっと直してくれた。
「……ありがと」
「はいはい、妹の世話は兄の仕事だ」
その軽い言葉に、月菜は小さく笑う。
(……怖いことがあっても、お兄ちゃんがそばにいると安心するなぁ)
「よし、さっさと帰って風呂入って、たい焼き食べようぜ」
「うん!」
二人の影が路地の灯りに伸びる。
その胸ポケットの奥で――
月のペンダントが、誰にも気づかれないほど微かに震えた。




