9話 オカ研と日文研⑦
部長の雄叫びが廊下に響き渡った。
「ちょ、ちょっと部長!? 本当に殴り込みは……!」
「安心しろタクロー、物理的な殴り込みではない。精神的殴り込みである」
「意味わかんねぇよ!!」
なぜか堂々と胸を張る部長を先頭に、
オカ研+日本文研の混成七名はぞろぞろと新聞部室へ向かう。
途中すれ違った教師が「何あれ……?」と眉をひそめていたが、
誰も気にしない。いや気にしろ。
―――――
「よし、着いたぞ!」
新聞部の扉の前で、部長は開戦前の武将のような顔になる。
「我らは真実を求めてここに来た。一昨日、魔法少女の写真を撮影したはずである!」
「まぁ、そうなんだけどよ……」
俺は月菜の方を見る。
月菜は「あ……」という顔でそっぽを向いた。
……完全に監視してますよって表情だ。
余計な事しないように見張ってるんだな。
「新聞部よ、頼もうッ!!」
部長は勢いよく扉を開けた。
ドアが壁にゴンッとぶつかる。
「ひっ!!?」
部長らしき男子が、椅子ごとひっくり返った。
「き、君は東くん!? 急に大声出すなよ!」
「質問である!」
部長はズンズン歩み寄り、机に手をついた。
「一昨日の魔法少女の写真についてだ。貴様らは一体何を見た!?」
「ま、魔法少女……?」
編集長はぽかんと目を丸くした。
「え、えっと……一昨日の騒ぎって……」
彼は眉をひそめ、記憶を探るように言う。
「あの件は……うちの部員がイタズラに加工写真を張り出したって話で……」
「そのような戯言はよい。真実を話せ!」
「いや戯言じゃないって! 最近ゴシップネタがなくて……“なら作っちゃおうぜ”って悪ノリで……。そしたら思いのほか大事になって、先生にめっちゃ怒られて……新聞部廃部の危機だったんだよ!」
「ほぅ……」
部長の目が細くなる。
「……タクローはどう思う?」
いや俺に聞かれても……
田中さんを見ると、驚いたように目を見開いていた。
「じゃ、じゃあ……本当に魔法少女はいないってことなのかよぉっ!!」
ショージはその場に崩れ落ちそうな勢いだ。
「あの、君……あんまりここで叫ばない方が……」
「僕の読書の時間を邪魔するのは、一体どこのどいつだい……」
背後から音もなく声がした。
「げっ!! 佐々木冥夜っ!!」
細身で前髪が長く、影のような気配の男。
佐々木冥夜──隣のクラスの“超危険人物”だ。
「むむっ、佐々木冥夜。なぜ貴様がここにいる?」
「僕は文芸部だからね……」
新聞部の隣の表札には文芸部の文字があった。
「お兄ちゃん、この人は?」
「あー、月菜はこの人には絶対関わらない方がいいぞ」
「へぇ、彼女が噂のタクローの妹か……全然似てないね」
「うっせぇ!!」
「ぶ、部長……悪いこと言わねぇ。早く帰ろうぜ……」
「何故我々が帰らねばならん。まだ新聞部には聞きたいことが──」
「はぁ……やっぱオカ研は騒がしいのばっかだね……潰すか」
「よし部長。話は終わった!! 帰るぞ!!」
「だからまだ……」
「いいから帰るのよ!!」
ミアの強制的な撤退命令により、俺たちは全力で撤退した。
―――――
「はぁ、はぁ……ここまで来ればアイツも追ってこないだろ……」
部室に逃げ込んだ俺たちは、どっと息を吐いた。
「ところでタクローさんたちは、なぜあんなに焦っていたのですか?」
「田中さん……アイツ、番長なんだ……」
「番長……???」
「佐々木冥夜。紫苑学園の番長。マンモス校トップの最恐だ!」
ショージが涙目で続ける。
「高校入学して数日で、不良たちを片っ端から粛清していった奴だ……!」
佐々木冥夜──
大人しそうな見た目に反して、気に食わないことは即・粛清。
そして──
「このバカ部長のせいで、うちの部は佐々木に目をつけられてるのよ」
ミアがため息をついた。
「気に食わないのはお互い様だ。我もアイツが嫌いだ」
部長は拳を握る。
犬猿の仲というやつだ。
「へ、へぇ……お兄ちゃん、大変だね……」
いや、本当に大変なんだよ。
「……というわけで、新聞部は“デマでした”と言い張ったわけだな」
部長が重々しくまとめる。
「真相は闇の中ってわけだな……」
ショージはやけに格好つけたポーズで言った。
「残念だけど、魔法少女の件はここで打ち切りね。田中さんたちも付き合ってくれてありがとう」
「いえいえ。私も色々と勉強になりました」
田中さんがにこっと笑った瞬間、
「よし! 次は宇宙人を探しに行こう!」
「やめろ部長ーーーー!!」
俺たちは全力で部長を抑え込むのであった。




