9話 オカ研と日文研
放課後の廊下を歩きながら、俺は何度もため息をついていた。
「なぁタクロー、早く行こうぜっ!」
「……お前の行こうぜにロクなことがあった試しがねぇんだよ、ショージ」
「まっっっさかぁ~。今日はちょっとした会議だよ、会議!」
このテンション。間違いなくろくでもない。
とはいえ、俺もオカルト研究部――通称オカ研の一員だ。
逃げたら後でミアに叱られるので、渋々部室に向かった。
扉を開けると、すでにミアが椅子に座り、その前で腕を組んでいる部長・東優玄太郎丸がいた。
驚異的に長いが、本名である。
「遅かったじゃないか諸君」
いきなり諸君だ。今日も絶好調らしい。
「いや集合時間三分前に来ただけなんでしょ? 遅くないじゃん」
「三分前に来たという事実が大事なのだ。集合時間十分前には来たまえ」
なぜか誇らしげな顔をしている。
ほんと……口調で損してるよなコイツ。
見た目は見た目は落ち着いた黒髪の爽やかな男子。
ただし、いつもの少し癖ののある喋り方のせいで、クラスでも初対面の人間から誤解されることが多い。
「で! 部長!! 今日の議題はアレですよね!? 魔法少女のやつ!」
ショージがテンションMAXで机に乗り出す。
部長は黒板にさっと文字を書いた。
【議題:校内新聞“魔法少女写真誤報”について】
「……そのまんまかよ」
俺のつぶやきにミアが小さく笑う。
「タクロー、お前はどう思う?」
部長が俺に視線を向けてきた。
昔から思っていたが、この人は無意識に人の核心を突く。
「どうって……まぁ、不自然ではあるよな。昨日の昼に写真が出て、今朝には即謝罪文ってのは」
まぁ、あの写真は多分本物なんだと思うけど……。
「だよな!? 絶対怪しいよな!? これはいるぞ魔法少女!!」
「なんでそうなるんだよ」
ショージはすぐ極論に走る。
だが部長まで頷いてるのは予想外だった。
「ショージの言い分にも根拠は薄いが、一理はある。速報性、訂正の速さ、そのどれもが通常では考えられない。誰かが意図的に情報を消したのだとすれば、話は別だ」
部長の言葉に、俺の胸がわずかにざわつく。
「で、部長はどうするつもりなの?」
ミアが腕を組む。
「決まっている。真相の究明だ」
「出たよ……」
「とりあえずは新聞部に聞き込みをするとしよう」
「いやいやいや、前にもやって怒られたでしょ!?」
ミアのツッコミはもっともだった。
しかし部長は胸を張る。
「今回は大丈夫だ。新聞部は話の分かる者も多い。それに……俺様が頼めば誰も断る事はない」
「絶対違う! それは権力!!」
ミアの指摘に俺も頷く。
こいつの父は大企業アズマの社長。
コイツが御曹司であるという事は学園内でも有名だ。
実際、先生たちも彼には妙に丁寧だ。
そしてコイツが無茶したら大抵俺たちが説教を喰らっている。
「タクロー、お前には同行してほしい」
「は? なんで俺?」
「ショージを放置すると、俺様の話が全部台無しになる」
「失礼じゃね?! 俺そんなに信用ない!?」
「ある意味信用はあるぞ。お前は絶対暴走するって意味で」
「褒められてねぇっ!!」
ショージが嘆く中、部長は淡々と続ける。
「タクロー、君は常識人だ。私とショージの間の抑止力として必要なのだ」
……まぁ、否定はできないな。
俺がいないとショージは本人比3倍は暴走する。
部長は部長で、悪気なくトラブルを呼ぶタイプだ。
つまり、俺の役割はブレーキ。
納得はしないが、理解はした。
「ほら、ショージなんて今日も言ってるぞ。“魔法少女は絶対この学校にいる!”って」
「だっているからな!! 俺は信じてる!!」
「あのなぁ……」
ため息をついた瞬間、部長が妙に真剣な声を出した。
「……その可能性はゼロではない」
「部長まで何言い出してんだよ」
「撮影されたのは学校近く。通学圏内だとすれば、どこから出てもおかしくはないだろう」
「いやいやいやいや!」
俺が止めに入る間も、ショージは感動している。
「だよね!? だよね!? 部長わかってるぅー!!」
「落ち着きなさい、ショージ!!」
ミアがショージの肩を掴み、俺も頭を小突く。
部室はいつもの騒がしさに包まれた――が、部長だけは真剣な眼差しをしていた。
「……とにかく、新聞部への聞き込みは今日だ。タクロー、ショージ、ミア。準備はいいか?」
「いや、良くはないが……まぁ行くよ。暴れなきゃいいんだろ?」
「もちろんだ。俺様は常に紳士的だ」
「部長の紳士的ってやつ、基準違うからな……」
俺はもう一度ため息をついた。
こうして俺たちオカルト研究部は、また妙な問題に首を突っ込むことになった。




