8話 スキャンダルですよ!⑦
――――――
色々考えていると、あっという間に放課後を迎えた。
「じゃあな、明日、告白の結果を教えてくれよな!」
ショージが面倒な笑顔で手を振って去っていく。
「はぁ……ったくもう。じゃ、私も先に帰るわね。昼休みの話、忘れないでね」
ミアも呆れ顔で教室を出ていった。
ちなみにミアの“昼休みの話”というのは部活のことだ。
まぁ、最近はいろいろと忙しいし、うちの部の部長もクセが強い。
そんなことを考えていると――
「すみません……今日はちょっと用事がありまして……」
田中さんが、クラスメイトの「一緒に帰らない?」という誘いを丁寧に断っていた。
いや、俺のことは放っておいてくれていいんだよ?
「…………」
そう思っていた矢先、田中さんと目が合った。
まるでその瞳が語っている――『忘れずに来てくださいね』と。
「……出来れば穏便にお願いしたいんだけどなぁ……」
田中さんが教室を出て、少ししてから俺も立ち上がる。
さすがに一緒に体育館裏へ行ったら、今度は俺が学園新聞のネタにされかねない。
『【激震】噂の美人転校生、クラスの変人と放課後密会!!』……とか。
笑えない。いや、ほんとに。
―――――
体育館裏では、部活生たちの掛け声が響いていた。
そんな中、俺と田中さんは向かい合う。
「タクローさん、ご足労をおかけして申し訳ありません」
ペコリと頭を下げてくる。
「大丈夫だけど……何の用かな?」
まぁ、わかってる。
告白じゃなくて――例の学園新聞の件だ。
とはいえ、口封じとかで消されるのは勘弁してほしい。
「……はい、実は学園新聞の件です」
田中さんはプリントを差し出してきた。
あの“魔法少女出現”の記事だ。
「あー、これねぇ……」
田中さんの表情は真剣そのもの。
こりゃヘタな冗談を言ったら命が危うい。
「……よくできた加工写真だよねー。ネタがないからって、こんなスクープ出すなんてさ。ははは……」
俺はとりあえず“とぼけ作戦”で行くことにした。
「確かにあの夜、たまたまあの辺を歩いてたけどさ。コスプレした外人さんはいたけど……魔法少女なんて見てないし?」
「…………」
我ながら、下手な嘘だ。
こんなの信じる人なんて――
「そ、そうですよねっ!! これは加工写真ですよねっ!!」
……信じちゃったよ、この人。
「……田中さん、魔法少女に興味あるの?」
「い、いえっ、そんな! ただ、その……!」
焦ったように両手をぶんぶん振る田中さん。
「実はですね! わたし、日本文化研究同好会に所属していまして!」
「へぇ……あの、去年部員ゼロで活動停止になってた同好会?」
「そ、それです! 再建しようと思いまして!」
やたら胸を張って宣言するが、目が泳いでる。
てか、魔法少女は日本文化とは関係ない気が……。
「陽菜ちゃんと月菜ちゃんも入部しました!」
「そりゃ初耳だな」
うちの学校は中高一貫で、中学生でも高等部の同好会に入れる。
月菜は運動神経がいいから運動部に入ると思ってたんだけどな。
「タクローくんは、何部なんですか?」
「えーと、オカルト研究部」
「……お、オカルト?」
わずかに声が裏返った。
「うん、部長に強制入部させられてね。俺もミアも、全然興味ないけど」
「そ、そうなんですね……」
田中さんは少しだけ安堵したように笑った。
――その笑顔が、どこかぎこちない。
「えっと……オカルトって、その……魔法とかも含まれるんですか?」
「まぁ、広い意味ではそうだけど……」
「ひ、広い意味で……!?」
田中さんの笑顔が一瞬、凍った。
肩に置いた手がピクリと震える。
「い、いえっ! 何でもありませんっ! すみませんっ! ちょっと気になっただけで!」
早口でまくしたて、視線を泳がせる田中さん。
その必死な様子に、俺は思わず苦笑した。
「……田中さんってさ、嘘つくの下手だよね」
「う……し、精進します……」




