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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
7月

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23話 妹と過ごす夏休み。







「うおおおぉぉぉぉっ!! 寂しいぞぉぉぉぉっ!!!!」


 空港の出発ロビーに、怪獣の断末魔のような雄叫びが響き渡った。


 その原因は、もちろん――うちの父親である。


 親父殿こと京田義和。


 現在、世界を股にかけて働く男……なのだが、家族の前ではただの重度の親バカである。

 そして今、その親バカが全力で発動していた。


 親父殿は出発ロビーのど真ん中で膝をつき、まるでこの世の終わりを迎えたかのような顔をしている。


 いわゆる――ORZポーズだ。

 しかも空港のど真ん中で。


 当然ながら、周囲の視線は完全にこちらへ集中していた。


「まぁまぁ、義和さん。毎日電話しますから、そんなに寂しがらないでください」


 そう言って宥めているのは母上様だ。


 口では落ち着いているが、よく見ると目尻にうっすら涙が浮かんでいる。


 どうやら母上様も、内心ではかなり寂しいらしい。


 ちなみに親父殿の次の赴任先は――アゼルバイジャン。


 カスピ海沿岸にある資源国で、日本からの距離はざっと八千キロ以上。


 簡単には帰ってこれない場所だ。


「月菜も毎日電話をくれるか?」


 すがるような目で、親父殿が妹に問いかける。


 その視線を受けた月菜は――


「うーん……毎日はちょっとキツイかなぁ……」


 あっさりとそう答えた。


「ガーン!!」


 という効果音が聞こえた気がした。


 親父殿は再び崩れ落ち、床に両手をついて項垂れる。


「毎日……毎日はキツイだと……」


 その声は震えていた。


「私の愛娘である月菜からの連絡が、週に数回……いや、二日に一度程度になってしまうというのか……!? そんなの……カスピ海の荒波に一人放り出されるのと同義ではないか……!」


「いや例えがよくわかんないし」


 俺は即座にツッコミを入れる。


「アゼルバイジャンって確かにカスピ海に面してるけど」


 隣で月菜が困ったように苦笑していた。


 たぶん、月菜はアゼルバイジャンがどこにあるのかすら分かっていないだろう。


 それにちらっと横を見る。

 警備員のお兄さんが、こちらを見ながら明らかに迷っていた。


 ――あの不審者、確保すべきか?


 そんな心の声が聞こえてきそうな顔だ。


 いや分かるよ。俺でもそう思う。


「義和さん、月菜ももう中等部生なんですから。学業や部活で忙しいんですよ」


 母上様はそう言いながら、親父殿の肩をぽんぽんと叩く。


「ほら、そろそろチェックインしないと」


「ううっ……」


 親父殿はぐっと拳を握った。


「分かっている。分かっているんだ、母さんよ……」


 しかし次の瞬間、突然バッと立ち上がる。


 そして――


 まるで舞台俳優のような大げさな仕草で、天を仰いだ。


「だが、アゼルバイジャンだぞ!? 火の国だぞ!? 日本から八千キロ以上も離れているんだぞ!?」


「それはさっき聞いた」


「月菜!」


 親父殿はビシッと指を突きつけた。


「寂しくなったら、いつでもパパの個人端末にメッセージを送るんだぞ! 時差なんて気にするな! 砂漠のど真ん中にいようが、原油を掘っていようが、三秒で返信するからな!」


「う、うん……」


 月菜は完全に引き気味で頷いた。


 まぁ普通そうなる。


「仕事しなよ……」


 俺はため息をついた。


「ほら、もう搭乗案内出てるぞ」


 電光掲示板には、しっかりと搭乗開始の文字が表示されている。


 これ以上ここで騒がれたら、確実に警備員に囲まれる。

 俺は親父殿の背中をぐいぐい押した。


「タクローはしっかり励むのだぞ」


「はいはい分かったから」


「月菜を頼んだぞ!」


「わかってるって!」


 俺は半ば強引にゲートの方向へ送り出す。


「行ってらっしゃい、親父殿!」


 大きく手を振ると、親父殿は涙と鼻水を拭いながら、


「うおおおぉぉ……月菜ぁぁぁ……」


 未練たらたらのまま自動ドアの向こうへと消えていった。


 ――そして。


 嵐が去ったような静けさが戻る。

 さっきまで騒がしかったロビーが、嘘みたいに落ち着いていた。


 隣を見ると、母上様がハンカチを握りしめながら「ふふっ」と微笑んでいる。


「……母さん」


「なあに?」


「よくあんなテンションに毎日付き合えるね」


 俺が呆れて言うと、母上様は少し楽しそうに笑った。


「だって義和さんーー」


「うん?」


「月菜が出発前に書いた『お土産、適当に買ってきて』っていうメモ、額縁に入れてスーツケースにしまってたのよ?」


「……何だそれ」


 思わず顔をしかめる。


「重すぎるだろ」


 父の愛情がかなりの重量級だな。


「ふふ」


 母上様は楽しそうに笑う。


 そして隣の月菜を見た。


「……まあ、三日に一度くらいなら」


 月菜は少し考えてから言った。


「スタンプくらい送ってあげてもいいかな」


 ――多分そのスタンプ一つで。

 遠いアゼルバイジャンの空の下、親父殿は泣くほど喜ぶだろう。




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