22話 シスコン×2+ブラコン+ブラコン(?)⑥
「それでお兄ちゃん、何て書いたの?」
絵馬を奉納する場所で、月菜が興味津々の視線を向けてくる。
三人がうんうん唸りながら願い事を書いている横で、俺がさらっと書き終えた内容――それが気になって仕方ないらしい。
「――『平穏な夏休みになりますように』」
これ以上に切実な願いが、今の俺にあるだろうか。
いや、ない。
「えー、つまんなーい!」
「それは残念ですよ、先輩」
「つまらない男だね」
もれなく三方向から一斉にバッシングが飛んできた。
……お前らな。
そのつまらない男の両腕を、現在進行形で奪い合ってる事実に矛盾を感じないのか?
「いいじゃないか。俺はこの温泉街に来てから、平和の尊さを身に染みて理解したんだよ」
「ふん。神もこんな怠惰な願いを聞き入れるほど暇じゃないだろう」
冥夜が鼻で笑いながら、自分の書いた絵馬をドサッと吊るした。
ちなみに――
書いてある内容が見えないよう、わざわざ裏返している。
……絶対ロクなこと書いてないな、これ。
すると今度は左側から――
「よいしょっと。あたしの願い事が叶いますように♪」
星菜ちゃんが絵馬を吊るし終えると、ぐいっと俺の左腕を抱き込んできた。
そのまま至近距離で、小悪魔みたいなウインク。
……いや待て。
その願いが叶ったら、俺は冥夜に殺されるんだが?
「私も……どうかお願いね」
月菜も静かに絵馬を吊るした。
その表情は穏やかだが――
なぜか妙に満足そうだ。
……嫌な予感しかしない。
月菜の願いが叶ってしまったら、母上様にジェノサイドされる未来が見えるんだが?
三者三様。
――いや。
カオスという言葉すら生ぬるい願い事が、神社の境内に並ぶことになった。
その横で。
俺の【平穏な夏休み】と書かれた絵馬だけが――
三人の殺気と熱意に押し潰されるようにして、
風に揺れ、カタカタと寂しそうに震えていた。
「(……神様)」
空になった財布。
両腕の重み。
そして背後から突き刺さるシスコン番長の殺気。
「(やっぱり俺の願い……現時点で十割増しで却下されてますよね……?)」
悲壮感を漂わせながら、
両手に花。背後に死神。
そんな謎フォーメーションのまま、俺たちは神社を後にした。
―――――
その時だった。
境内を抜けたあと、
ふわりと風が吹いた。
カタカタと揺れていた絵馬が二枚、くるりと裏返る。
そこに書かれていた言葉は――
【お兄ちゃんとの関係が元に戻りますように】
【後、家の復権】
――風に揺れる絵馬は、誰にも気づかれないまま静かに揺れていた。




