22話 シスコン×2+ブラコン+ブラコン(?)⑤
―――――
射的屋で手に入れた二つのぬいぐるみ――猫と犬。
それをそれぞれが抱えた結果、俺の両腕の拘束密度はさらに強化されていた。
右からは月菜の【お兄ちゃん大好きオーラ】。
左からは星菜ちゃんの【先輩はあたしのものオーラ】。
それらが温泉街の湿った空気と混ざり合い、俺の体力ゲージを静かに削っていく。
「着きましたよ、タクロー先輩! 知る人ぞ知る【結びの社】です♪」
目の前に現れたのは、鮮やかな朱塗りの鳥居。
縁結びのご利益で有名らしく、境内はカップルや女子旅グループで賑わっている。
ま、一昨日来た恋ヶ崎神社と似たような神社だな。
しかし、そんな場所に――
両手に花(ただしトゲ付き)と背後に死神(シスコン番長)を従えた男。
……俺。
そりゃあ注目されないわけがない。
「……タク」
背後から低い声。
振り向かなくても誰か分かる。
「鳥居をくぐる前に言っておくが」
冥夜が静かに続ける。
「もし君が星菜との縁なんて不純なものを祈願しようものなら――」
一拍。
「その瞬間、僕の呪いでこの神社の御利益を相殺させてもらうよ」
「怖いわ!!」
俺は即座にツッコんだ。
「ていうか、俺は平穏無事だけ祈りに来たんだよ!」
まずは手水舎。
身を清めてから参拝するのが礼儀だ。
……が、ここで第一の難関が発生する。
「あのさ、二人とも」
俺は言った。
「手を洗いたいから、一旦離してくれないか?」
「「ダメ」」
即答、しかも完璧にハモった。
「私が柄杓を持ってあげますから、先輩は手を出してればいいんです♪」
「お兄ちゃん、はい。おてて出して!」
結果。
俺は二人がかりで手を洗われた。
それはまるで――
介護を受けている老人か、公開処刑中の罪人か。
どちらにしても尊厳はなかった。
ともかく、清めは終了し、いよいよ本殿である。
賽銭箱の前に並ぶ俺たち。
……正確には、
俺を挟んで女子二人。
その背後に冥夜が仁王立ち。
という謎フォーメーションだ。
「(……頼む、これ以上のトラブルは勘弁してくれ……!)」
俺は心の底から祈りながら、
二礼。
二拍手。
一礼。
――その隣で。
星菜ちゃんが、目を閉じたまま長ーーーーく祈っていた。
……嫌な予感しかしない。
「……ふふ」
星菜ちゃんが目を開ける。
「バッチリお願いしてきました♪」
「私も!」
月菜も元気よく言う。
「……僕は」
冥夜が腕を組んだ。
「この不潔な男の家系が、今日この瞬間に断絶しますように――と」
一拍置いて、
「神に論理的なプレゼンをしてきたところだ」
「神社で呪詛を吐くな!!」
参拝を終えた俺たちの前に現れたのはこの神社名物――
『恋占いの石』。
二つの石の間を、目を閉じて歩き、無事に辿り着けば願いが叶うというアレだ。
恋ヶ崎神社の件で嫌に予感しかしないのだが。
「先輩、あたし挑戦します!」
星菜ちゃんが宣言した。
「誘導してくださいね?」
猫のぬいぐるみを俺に預け、 石の前で目を閉じる。
そして――
ゆっくり歩き始めた。
「あ、左、左!」
俺が声をかける。
……その時だった。
「……ふむ」
冥夜が呟く。
「そこに障害物があるべきだと思うんだが」
そして――
スッ。
星菜ちゃんの進行方向に足を出した。
「冥夜!!」
俺は叫んだ。
「実の妹に足を引っ掛ける気か!?」
「何のことだい?」
冥夜は涼しい顔。
「僕はただ、地面の水平を確かめているだけだよ」
「嘘をつけ!!」
俺は慌てて星菜ちゃんの肩を掴み、
軌道を修正する。
――結果。
星菜ちゃんを抱き寄せる形になった。
「お兄ちゃんの不潔ー!!」
月菜が叫び。
背後で――
冥夜の殺意が本日最大瞬間風速を記録した。
結局。
恋占いどころではなくなった。
神社の神様も苦笑いするような騒がしさで、俺たちは境内を後にしようとした。
「お兄ちゃん、絵馬だよ絵馬! なんかお願い事書こうよ!」
境内の出口に向かいかけたところで、月菜がぴたりと立ち止まった。
指差す先には、絵馬掛け所。
無数の木札が鈴なりにぶら下がり、恋だの縁だの将来だの、世の願望がこれでもかと吊るされている。
……嫌な予感しかしない。
「いや、さっき参拝しただろ? お願い事はもう済んだってことで――」
「ダメです」
左腕の星菜ちゃんがにっこり笑う。
「神様へのお願いは、具体的な方が通りやすいんです♪」
「そうだよお兄ちゃん! 祈りは回数が多いほど効果があるってお父さんも言ってた!」
「それただの営業トークじゃね?」
だが俺の抵抗など聞く耳持たず、二人は絵馬売り場へ直行した。
「はい、四枚ください!」
「四枚!?」
売り子のおばちゃんが、にこやかに絵馬を差し出す。
受け取る星菜ちゃん。
月菜。
そして当然のように――
俺の分もある。
「なんで俺のもあるんだよ」
「だって先輩のお願い事、あたしたち気になるじゃないですか♪」
「お兄ちゃんの本音、神様なら知っててもいいでしょ?」
「いやむしろ一番知られたくない存在なんだけど神様って」
「……ふん」
背後で冥夜が鼻で笑った。
「安心するといい、タク」
「なにが」
「君がどんな願いを書こうと、僕が後で訂正しておく」
「絵馬に校正入れるな!!」
俺たちは近くのベンチに腰掛け、それぞれペンを手に取った。
カリカリカリ。
木の板に願いを書く音が並ぶ。
……ちなみに俺はまだ何も書いていない。
どうする……ここは無難に……
――【平穏な夏休みになりますように】
これでいい。
うん、これが一番だ。
そう決めて書き終えた俺が顔を上げると、
なぜか三人がこちらを見ていた。
「……なに?」
「先輩、もう書き終わったんですか?」
「早いねお兄ちゃん!」
「見せてみろ」
冥夜が当然のように手を伸ばしてくる。
「やめろ!」
俺は慌てて絵馬を隠した。
「願い事ってのは他人に見せるもんじゃない!」
「ふーん」
星菜ちゃんが目を細める。
「じゃあ、あたしたちのは見せてあげますよ♪」
嫌な予感しかしない第二弾。
「はい!」
月菜がまず掲げた。
そこには、太い文字で――
【お兄ちゃんが一生お兄ちゃんでいてくれますように】
「重い!!」
「いいでしょ別に!」
「いや、妹としての願いとしては重いだろ!」
後小さい文字で【出来たら…お兄ちゃんとの関係が進展しますように】って書かれていたのは見間違いだろうな。
続いて星菜ちゃん。
「じゃあ次、あたし♪」
くるりと絵馬を回す。
そこには、
【タクロー先輩とずーっと一緒にいられますように】
「さらに重い!!」
「先輩、顔赤いですよ?」
「気のせいだ!」
星菜ちゃんも小さい字で何か書いてあった気がするが残念ながら確認できなかった。
「……くだらない」
冥夜が自分の絵馬を掲げた。
そこに書かれていたのは――
【この男が星菜から半径三メートル以内に近づけなくなりますように】
「お前さぁ!!」
「合理的な願いだろう?」
「合理的でも神社でやるな!!」
因みに冥夜も小さい字で何かを書いているようだ。
何だ、後付けのお願いがブームなのか?




