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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
7月

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133/138

22話 シスコン×2+ブラコン+ブラコン(?)④







―――――




「今日も良い天気ですね、タクロー先輩♪」


 温泉街の石畳。


 俺の左腕には、夏の太陽よりも眩しい笑顔を浮かべた星菜ちゃんが、重力を完全に無視した密着度で抱きついている。


「お兄ちゃん、今日はどこを回ろうか? あ、縁結びの神社は私が最優先事項として予約しといたからね!」


 右腕には、月菜が、所有権を主張するかのように一歩も引かない勢いでしがみついていた。


「…………殺」


 そして背後からは――


 物理的な質量を伴ったマイナス百度の殺意が、俺のうなじを執拗に削りにきていた。


 ……何だ、この地獄のサンドイッチは。


 つい数分前、俺は朝食会場で焼き鮭の皮を噛み締めながら自由の尊さに涙していたはずだ。


 だが今の状況を客観的に説明するなら、こうだろう。


 【二人の美少女に両腕を封印され、背後から歩く核兵器シスコンに命を狙われている囮】。


 以上。


「あのさ、二人とも。呪いは解けたんだよな?」


 俺は恐る恐る口を開いた。


「さっき朝食会場で「自由だー!」って叫んだ俺の感動を、マッハで過去に置き去りにするのはやめてくれないか」


「えー?」


 星菜ちゃんが俺の腕にさらに体重を預けながら、上目遣いで覗き込んでくる。


「呪いが解けたからこそ、これはあたしの純粋な意思なんです。文句ありますか、先輩?」


 至近距離。


 危険。


 俺の理性が「精神的に死ぬぞ」と警報を鳴らした。


「そうだよ、お兄ちゃん」


 月菜も当然のように続ける。


「これは『お兄ちゃんパワー』の定期補充なの」


「そうそう」


 星菜ちゃんがうなずく。


「文句があるなら、後ろで『殺』の一文字しか喋らなくなった置物に言ってよ」


「……あいつを置物扱いできる星菜ちゃんの度胸が羨ましいよ」


 俺は恐る恐る首を後ろへ回した。

 ギチギチ、と音が鳴りそうなほど慎重に。


 そこには――


 黒いコートの裾を朝風になびかせながら、指をコキコキ鳴らしている冥夜が立っていた。


「……タク」


 低い声。


「一秒ごとに三文字ずつ遺言を更新した方がいいよ」


「更新頻度が早すぎるだろ!」


「神社に着く頃には、ちょうど一冊の本が書ける量になる」


「遺言全集かよ!」


「……それと」


 冥夜は続けた。


「僕がここにいる理由を理解しているかい?」


「いや、分からん」


「星菜をこんな破廉恥な男と二人きりにするわけにはいかない」


 断言。


「僕は今日、君の背後霊として、君の魂が尽きるまで見守らせてもらうよ」


「ただのストーカー宣言じゃねーか!!」


 通り過ぎる観光客たちがヒソヒソ話す。


『あらあら、二股かしら』


『いや、後ろの死神みたいなのが本命じゃない?』


 好き放題言いやがって。


 右からは月菜の体温。


 左からは星菜ちゃんの柔らかさ。


 背後からは冥夜の殺意。

 ……昨日の『手が離れない呪い』のほうが、まだマシだった気がする……


 そんなことを考えていた、その時だった。


「あ、見て!」


 月菜がぱっと顔を輝かせた。


「射的屋だよ!」


「ホントだ」


 星菜ちゃんが笑う。


「タクロー先輩、あたしあのぬいぐるみ欲しいなぁ♪」


 棚の端に、そこそこ大きな猫のぬいぐるみ。


「星菜ちゃんズルい!」


 月菜がすぐに反応した。


「私はあれ! お兄ちゃん、取って!」


 犬のぬいぐるみを指差す。


「いやいやいや」


 俺は冷静に言った。


「ああいうのは重心とか計算されてて、簡単には取れないように――」


 一回500円。


 つまり、財布の危機。


「ふっ」


 冥夜が鼻で笑った。


「君はその程度の男なのかい?」


「……何?」


「財力も、集中力も、妹たちの期待に応える度量も」


 そして追い打ち。


「その薄っぺらい財布と同じというわけだ」


 ……この野郎。

 妹の前で一番言っちゃいけない挑発を。


「……言ってくれるじゃないか」


 俺は銃を構えた。


「やってやろうじゃないか!!」




―――――



 ――数分後。


「わーい! お兄ちゃん、ありがとー!!」


「先輩、大切にしますね♪」


 結果。


 俺の両腕は、再び重さを取り戻していた。


 月菜は犬。

 星菜ちゃんは猫。

 それぞれ戦利品のぬいぐるみを抱えている。


 代償として――

 五人の柴三郎(5000円)が、俺の財布から永遠の旅へと旅立ったが。


「ふむ」


 冥夜が腕を組む。


「まぁ、タクにしては……まぁまぁなんじゃないかな?」


「お前さ」


 俺は睨んだ。


「さっきの挑発で5000円使わせた俺を、バカにしてるのか褒めてるのかどっちなんだよ」


「半々かな」


 冥夜は肩をすくめた。


「……まぁ、僕の妹を笑顔にした功績に免じて」


 一拍置いて、


「次の角を曲がるまでの間だけ、君への殺意を三割ほどカットしてあげよう」


「少なすぎるだろ!!」


「福引の残念賞レベルじゃねーか!!」


 自由になったはずの俺の財布は空っぽ。


 自由になったはずの両腕は、ぬいぐるみ(を抱える少女たち)に再び占拠された。


 


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