22話 シスコン×2+ブラコン+ブラコン(?)③
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「ふむ、つまり――冥夜くんも我が京田家の一員になる訳だな?」
帰ってきた親父殿が、まるで「今日の晩ご飯はカレーね」くらいの軽さで、とんでもない判決を下した。
……いや、待て。
話の流れが一切見えないんだが?
紫苑学園の番長にして、歩く破壊兵器とも称される男――佐々木冥夜。
その人物を、我が親父は軽々と“息子カウント”に入れた。
その胆力、もはや尊敬を通り越して恐怖である。
「違います」
冥夜は即座に言い放った。
「星菜と共に、今回の温泉旅行に同行させてもらうだけです」
声音は冷徹。表情も無表情。
そこには付け入る隙など微塵もない。
……はずだった。
しかし残念ながら、相手が悪すぎた。
「ほぅ、そうか?」
親父殿は腕を組み、ふむふむと頷く。
「だが星菜ちゃんは、うちの子になると言っているみたいだぞ?」
「どのような法律ですか、それは」
「【父の直感法】だ!」
出た。
最強の超法規的措置である。
この家において、社会のルールも法律も常識も、すべては
『親父殿の気分』という大海に浮かぶ小舟にすぎない。
「いいじゃないですか、クソ兄!」
元気よく名乗りを上げたのは、もちろん星菜ちゃんだ。
「タクロー先輩の家系図に名前が載るなら、あたしは大歓迎ですよ!」
「星菜……お前……!」
冥夜のこめかみに青筋が浮かぶ。
「誇りというものはないのか! 佐々木家の千年の歴史を、鮭の皮一切れで売り払う気か!」
「皮はタクロー先輩が食べる分だから売ってないよ!」
星菜ちゃんは胸を張る。
「あたしが売るのは、あたしの苗字だけ!」
言い切った。
なんという清々しいほどの苗字切り売り宣言だ。
そしてその勢いのまま――
ぐいっ。
俺の左腕が、星菜ちゃんの方へ引き寄せられる。
「ちょ、ちょっと待て!」
当然ながら、それを見逃す人物ではない。
「ふんす!」
右側で月菜が鼻息荒く対抗した。
がっしり。
俺の右腕をホールド。
「お兄ちゃんの妹枠はもう満席なの!」
月菜はビシッと冥夜を指差す。
「冥夜さんは、せいぜい旅館の用心棒として玄関先で立ってればいいんだから!」
「……ふん、小娘が」
冥夜は鼻で笑う。
「僕が立っているだけで、この旅館の宿泊価格は三倍に跳ね上がる」
そして静かに続けた。
「用心棒を雇う予算が、この旅館にあるかな?」
……なんだろう。
昨日までの緊張感ある怪異騒動はどこへ行ったのか。
気がつけば、俺の腕を挟んだ家族構成再編会議が始まっている。
「……あのさ」
俺は恐る恐る口を開いた。
「誰か、俺の意見を聞く気はないのか?」
静寂。
そして――
四者四様の反応が返ってきた。
星菜ちゃん。
「先輩は黙って、あたしに愛されてればいいんです♪」
月菜。
「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから黙ってて!」
冥夜。
「黙ってくれ。君が口を開くたびに僕の殺意が更新される」
そして――
母上様。
「タクロー、ご飯おかわりする?」
「………………」
俺は静かに箸を置いた。
誰一人としてまともに話を聞いていない。
ーーーだがまぁ、いい。
俺にはまだ救いがある。
皿の端に残しておいた――焼き鮭の皮。
最後の楽しみに取っておいた、黄金色の宝物。
パリッ。
口に入れた瞬間、香ばしい食感が広がる。
ああ……うまい。
ほどよい塩気。
絶妙な脂。
これから始まるであろう、
冥夜を含めた地獄の温泉観光ツアーを思えば、
せめてこの一口くらいは幸せを噛みしめておきたかった。
しかし――
そんな俺のささやかな安らぎをぶち壊す声が響いた。
「さて、決まりだな!」
親父殿が立ち上がる。
満面の笑み。
「じゃあ冥夜くんも一緒に、今日はみんなで縁結びのパワースポット巡りに行くぞ!」
……その瞬間、空気が凍った。
俺と冥夜の目が、同時に見開かれる。
なぜなら昨日、縁結びの岩で怪異事件が起きたばかりだからだ。
また似たような現象が起きるのは勘弁してほしい。
「お父様、最高です!」
月菜が目を輝かせる。
「楽しそうですね、タクロー先輩♪」
星菜ちゃんも笑顔だ。
この二人、まったく懲りていない。
そして――
「「最悪だ!!」」
俺と冥夜の叫びが、皮肉にも綺麗にハモった。
こうして、自由を取り戻したはずの俺の右腕と左腕は、
再び――過酷な運命と、少女たちの腕力と、そして家族という名のカオスに翻弄されることになったのである。




