22話 シスコン×2+ブラコン+ブラコン(?)②
「…………タク。昨日まで、一緒にいるのは百歩譲って理解しよう。だが今はどうかな? その状況、僕に論理的かつ誠実な説明を求める権利があると思うんだが」
冥夜の背後に、どろりとした漆黒の負のオーラが立ち昇る。
紫苑学園を腕力――のみならず、その圧倒的な威圧感で統べる男の圧は伊達じゃない。周囲の宿泊客は
うわ、本物のヤベー奴だと本能で察したのか、蜘蛛の子を散らすように食堂から退避していく。
……待て、誰か俺も連れて逃げてくれ。
「説明も何も、見ての通り星菜ちゃんが離してくれないだけなんだって! 助けてくれよ冥夜!」
「助けて? ……ふむ。僕の妹の純情を弄び、挙句の果てにその兄に泣きつくとは。万死に値するね」
「話を聞けよ!!」
絶望的なまでに会話が噛み合わない。こいつ、昔から妹のことになると著しくIQが低下する欠陥でもあるんじゃないか。
さらに、俺の窮地に特大のガソリンを注ぐ人物がもう一人。
「ちょっと星菜ちゃん! お兄ちゃんから離れて! 私だってまだ『お兄ちゃんパワー』の注入が足りてないのに!」
そう言うや否や、月菜が俺の右腕にタックルをかましてきた。
……お兄ちゃんパワーってなんだよ。それがあれば、俺のこの不遇な人生が少しは向上するとでもいうのか。
朝食の焼き鮭を咀嚼していた時に感じた「至福の自由」は、わずか数分間の白昼夢に終わった。
右に妹、左に親友の妹。そして正面には、殺意を隠そうともしない最強の番長。
「あらあら、朝から元気ねぇ」
一人、デザートのフルーツを優雅に突っつく母上様。
お願いだから、その場を支配している最強の権力者として、誰かこの暴走列車を止めてくれ。
「……ふん。まぁいい。ここで君を消しても、星菜の機嫌を損ねるだけだ。それはそうと、佐々木の家に帰る気はないのかい?」
「当然!! なんならこのまま京田家の一員になってもいいもん!!」
星菜ちゃんの爆弾発言が、平和な朝食会場の空気を木っ端微塵に粉砕した。
「…………京田家の、一員……だと?」
冥夜の呟きが、地獄の底から響く地鳴りのように食堂を震わせる。
眼鏡の奥の瞳からは、スゥー……と不吉な燐光が漏れ出した。
「星菜。僕の聞き間違いでなければ、今、君は佐々木を捨てるというニュアンスの発言をしたね? つまり、この……この、寝癖を直さないだらしのない、しかもさっきから焼き鮭の皮を食べるタイミングを測っているような男の元へ嫁ぐと。そう言ったのかい?」
「寝癖は後で直すんだよ! 皮は一番最後に堪能する派なんだよ、放っておけ!」
俺の必死のツッコミなど、今の冥夜の耳には届かない。
「……タク。遺言はあるかい? 君の望む埋葬方法を三文字以内で答えろ。ちなみに永代供養は四文字だから却下だ」
「死ぬ前提かよ! あと文字数の縛りがきつすぎるだろ! 『土葬』か『火葬』の二択か!?」
冥夜が文字通り番長としての武力を行使しようとしたその時。右腕にぶら下がっていた月菜が、さらに核燃料を投下した。
「ちょっと星菜ちゃん、抜け駆け禁止! お兄ちゃんとの家族計画は、まず私が審査してからじゃないとダメなんだから! 大体、星菜ちゃんが家族になったら、私、立場的にどうなっちゃうのよ!」
「えー? 月菜ちゃんは可愛い義妹だよぉ♪」
「それは嫌! 私はお兄ちゃんだけの世界でたった一人の妹なの!」
月菜の主張も大概おかしい。
いや、この状況で正常なのは、自分の手で鮭を口に運ぶ自由すら剥奪されている俺だけなのか。
「あらあら。タクロー、モテモテじゃない。お母さん、もう一人分くらいなら養子が増えても構わないわよ? 星菜ちゃん、今日からうちの子になる?」
「お母様っ! 大好きです!」
「母さん!? 愉快犯的にガソリンをまくのはやめてくれって!」
母上様の無慈悲な援護射撃により、星菜ちゃんがさらに俺の腕への密着度を上げていった。




