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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
7月

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22話 シスコン×2+ブラコン+ブラコン(?)





 ゆっくりと意識が浮上する。

 まどろみの中で最初に感じたのは、心地よい布団の重みと、かすかに鼻をくすぐる畳の香り、そして――。


「……あ。離れてる」


 視界に飛び込んできたのは、旅館の天井。

 俺は寝返りを打ち、自分の両手を確認した。

 昨日まで、呪いか物理法則のバグかと思うほど執拗に俺の両腕を拘束していた月菜と星菜ちゃんの温もりは、そこにはない。

 右腕も、左腕も、今や完全に独立独歩の自由を獲得していた。


 俺は昨夜の記憶を必死に手繰り寄せてみる。だが、最後の方の記憶がどうにもおぼつかない。

 確か、月菜と星菜ちゃんに半ば強引に連れ出されて、夜の散歩に行ったはずだ。そこまではいい。だが、その先が……。


「……えーっと。確か、星菜ちゃんが『ペペロンチーノ星人』がどうとか言っていたような……?」


 星菜ちゃんが指をさした方を向いたとたん、そこからの記憶が真っ白なのだ。

 あまりのネーミングセンスの脱力感に、脳が防衛本能で記憶を強制消去したのか?

  あるいは、温泉の湯気に当てられてそのまま寝落ちしたのか。


 結局、釈然としないまま朝食会場へと向かった。

 目の前には、旅館の朝食の定番――焼き鮭、だし巻き卵、そして炊き立ての白米が並んでいる。


「あら、タクロー。もう手は繋がなくてよかったの?」


 向かいの席に座る母上様が、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてこちらを覗き込んできた。湯呑みを片手に、完全に俺を見世物か何かだと思っている。


「あー、とりあえずはラヴラヴタイムは終了したので大丈夫です♪」


 俺が答えるより早く、隣に座る星菜ちゃんが茶目っ気たっぷりにピースサインを作った。

 昨日のあの鉄壁のガードは何だったのかと思うほど、今の彼女は涼しげだ。


 半日ぶり、いや、精神的には一万年ぶりくらいの自由。

 あまりの感動に、俺は震自分の手で箸を取り、自分の箸で掴んだ焼き鮭を一口運んだ。


「……うまい。自分の手で食べる朝食が、こんなに美味しいなんて。鮭の塩気が五臓六腑に染み渡る……っ!」


「お兄ちゃん、大げさだよ。……まぁ、私もちょっとだけ、ほんのちょっとだけ寂しい気はするけど。ね、星菜ちゃん?」


 月菜は、自由になった右手で少しだけ寂しそうに自分の左腕をさすっていたが、すぐに食欲が勝ったらしい。俺のおかず(だし巻き卵)を強奪しようと虎視眈々と狙いを定めている。


「そうですねぇ。でも、あまりに密着しすぎるとタクロー先輩が知恵熱出しちゃいそうでしたから、ここらで一旦放流してあげるのが、あたしたちの優しさかなって」


 星菜ちゃんは味噌汁を上品に啜りながら、小悪魔的な微笑を浮かべる。

 記憶にはないが、昨夜の間に彼女たちが何か解決してくれたのだろうか。


「……にしても、なんだか首筋が少し痛い気がするんだが。あと、なぜか昨日より肩が凝っているような……」


「気のせいですよ、先輩。散歩のしすぎじゃないですか?」


「あはは……。た、たぶん、変な姿勢で寝ちゃっただけだよ、お兄ちゃん! ほら、ご飯冷めちゃうから!」


 二人の返答が、妙に早かった。

 気のせいか、二人の視線がわずかに泳いだような気がしたが……まぁいい。呪いが解けたなら、これ以上の幸せはない。

 窓の外では、温泉街が眩しい朝日に包まれている。

 今日はもう、怪異も呪いも御免被りたい。俺はただ、この自由な両腕で心ゆくまで温泉旅行を漫喫するんだ――。

 そんな淡い決意と共に、俺は二杯目のご飯をおかわりした。


 だが、運命というやつは、いつだって平穏が一番美味しいところで水を差してくる。

 朝食会場の入り口から、冷ややかな空気が流れ込んできた。

 周囲の宿泊客が思わず振り返るような、異質な威圧感。

 そこに立っていたのは、季節外れの黒いコートを羽織り、全てを見透かすような鋭い瞳を持った少年だった。


「星菜、ここにいたのかい?」


「…………チッ、クソ兄」


 星菜ちゃんが、今朝一番の露骨な嫌悪感を顔に出す。

 そこに立っていたのは、星菜ちゃんの兄にして、紫苑学園の番長、冥夜だった。


「朝から実の妹に『クソ』って言われるのは流石に傷つくね。……タク、どうやら星菜が世話になったみたいだね」


 冥夜の視線が俺を射抜く。刺すような鋭さがあるが、そこには彼なりの労いの色も混じっているようだった。


「まぁな。ほら、星菜ちゃん、冥夜が迎えにきたんだから戻りな。もう呪いも解けたんだろ?」


「―――やっ、あたしはこのままタクロー先輩と温泉デートを続けます!」


星菜ちゃんはそう言うと、自由を謳歌していたはずの俺の左腕に、昨日以上の力強さでしがみついてきた。


「ちょ、星菜ちゃん!? さっきラヴラヴタイム終了って言ったばっかりだろ!」


「それはそれ、これはこれです! あーあ、やっぱりこの腕の感じ、落ち着くなぁ……♪」


 再び俺の左腕に伝わる、柔らかくて抗い難い少女の体温。

それを至近距離から見つめる冥夜の目が、急速に冷徹な目へとシフトしていく。


「……タク。君、うちの妹に何を仕込んだんだい? 詳しく、じっくり、裏の路地裏あたりで聞かせてもらおうか」


「俺じゃない! こればっかりは俺の意志じゃないんだ冥夜ァ!!」




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