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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
7月

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21話 湯煙、白装束女と時々こけし⑧






「華子……。それがあの幽霊の正体?」


 月菜が蒼く輝く杖を構えながら、おそるおそる問いかける。


『そう。彼女はとある悲劇がきっかけで悪霊になってしまった。このままだと、彼女の魂は二度と救われない領域に堕ちてしまう……』


「……。うん、あれはただの悪霊じゃない。放っておけば変異しちゃうかもね」


 星菜が《テラ・コア》を弄びながら、冷徹な分析を口にした。


「ニブラに? 幽霊が?」


 月菜はキョトンとした顔で首を傾げる。魔法少女としての座学が足りない彼女には、その単語の響きがイマイチピンときていないようだ。


「はぁ……。あのエヴァって魔術師、一体月菜ちゃんに何を教えてたのやら……」


 星菜はやれやれと大げさに肩をすくめ、呆れ顔を作ってみせた。


「いい? ニブラは負の感情の具現体。それは幽霊だって例外じゃないの。未練や怒りが限界を超えれば、幽霊という概念すら踏み越えて、純粋な破壊衝動へと変異しちゃうんだよ」


「じゃあ、今はまだ幽霊ってこと?」


「そう。でも、あの膨れ上がった怨念を見て。このままだと負の感情が自己増殖して、華子さんは自我を失った化け物になっちゃう」


『彼女は悪くないんだ……』


 足元に転がるこけしが、絞り出すような情けない声で言った。


『悪いのは……すべて、僕なんだ』


「えっ? どういう意味よ。あんた、彼女と知り合いなの?」


 星菜が問うと、こけしは悲しげに首(?)を垂れた。


『華子は、僕と将来を約束した仲だった。かつてこの宿で一緒に働いていた、心優しい女の子だったんだ。だが……僕が、一瞬の判断を見誤ったばかりに……』


「一体、何があったの? 二人の間にどんな悲恋が……」


 月菜が少しだけ瞳を潤ませ、悲劇のヒロインを憐れむような表情を見せる。だが、こけしから返ってきた言葉は、夜の温泉街の空気を一瞬で氷点下まで叩き落とすものだった。


『その――……好奇心に負けて、女湯を覗いちゃったんだ』


「「………………はぁ?」」


 月菜と星菜の声が重なる。あまりにも、あまりにもドラマチックな期待をドブに捨てるような、救いようのない理由。


『どうしても、他の女の子の裸が気になって……つい、好奇心に抗えなくて……』


「「………………さいてー」」


 二人の温度が、完璧に一致した。この世で最も汚いゴミを見るような冷ややかな視線が、足元の木屑へと突き刺さる。 


『コ、コココロスッッッ!!! コココ、コロスゥゥゥッッッ!!!』


 何かを察したのか、池の中から這い出してきた華子が凄まじい絶叫を上げた。殺意の矛先は、明らかに三人ではなく、足元でモジモジしているこけしに一直線に向いている。


「……ねぇ、星菜ちゃん。あの木っ端、今すぐ粉砕していいかな?」


「待って月菜ちゃん。気持ちは痛いほどわかるけど、そいつを壊しても呪いが解ける保証はないから」


 星菜はタクローの腕をグイと引き寄せ、襲いかかってくる華子の髪の触手を間一髪で回避した。


「……っていうか、この手の呪い。もしかして覗きをしたコイツに対する浮気防止の執念が原因じゃないかな?」


「うわ、ありそう! とばっちりもいいとこだよ!」


「どうしよう。今回、人生で一番モチベーションが上がらないな」


 いつもなら好戦的な星菜だが、今回ばかりは心底嫌そうな顔をしている。


「ま、まぁ、この問題を解決しないとこの呪いも解けないからね。……とりあえず、可哀想だけどあの白装束の人を落ち着かせようかな」


 星菜が重厚なハンマーを構える。


「《テラ・インパクト》ッ!!」


 星菜が踏み込みと共に大技を繰り出す。

 が――。


「ちょ、ちょっと星菜ちゃんっ!? ぎゃあああッ!!?」


 あまりにも大きい星菜の予備動作に、連結された月菜とタクロー(気絶中)は鞭のようにしなった。


「あ、手を繋いだままなの忘れてた。ごめんね♪」


「てへ、じゃないよ! 星菜ちゃんが攻撃するたびこんな感じだと、お兄ちゃんの腕が肩からもげちゃうよ!」


「でも、あたしの技ってこういう豪快なのばっかりだし。それなら月菜ちゃんが何とかして。砲撃系の魔術、得意でしょ?」


「得意ってわけじゃないけど……やるしかないよね!」


 月菜は杖を掲げ、空中に幾重もの魔術陣を展開した。


「《ムーン・ステイ》……ッ!」


 魔術陣から生成された複数の光球が、夜の闇を白銀に染める。


「《シュート》ッ!!」


 一斉に放たれた光球が、華子を襲った。


「うわぁ、月菜ちゃん意外に器用だね」


「意外って失礼だよ! ――って、来たよ!」


 月菜の光球は命中するも、華子の怨念はそれを霧散させる。逆上した彼女は、黒髪の触手を無数に伸ばしてきた。


「危ないっ!」

「これくらい余裕!」


 月菜は左に、星菜は右に華麗にステップを踏む。

 だが、その中央にいるのは――。


「「ッ!? お兄ちゃん(タクロー先輩)がぁぁぁ!!?」」


 右と左、正反対に回避した二人のせいで、タクローの腕は綱引きのロープのように限界まで引き絞られた。


「あ、やばっ。《テラ・シェイル》ッ!」


 星菜が即座にシールドを展開し、髪の触手を防ぐ。だが、月菜の怒りの矛先は華子ではなく隣の星菜へ向いた。


「ちょっと星菜ちゃん!? 今、絶対にお兄ちゃんの肩から嫌な音がしたよ!?」


「月菜ちゃんだって、あたしと同じ方向に避けなきゃダメでしょ! 息合わせてよ!」


『あのぉ、ここは協力した方が……』


「「覗き魔は黙ってて!!」」


『はい……すいません……』


 こけしはこれ以上ないほど小さく、しゅんとなった。




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