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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
7月

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21話 湯煙、白装束女と時々こけし⑥







―――――




「ガーッハハハッ! ほらほら星菜ちゃんも遠慮しないでたくさん食べろ! 今日は京田家の奢りだ、食い倒れるまで帰さんぞ!」


 親父がジョッキを景気よく煽り、目の前に並べられた豪華な懐石料理を指して豪快に笑う。


 当然だが、俺の両手は依然として、右に月菜、左に星菜ちゃんという布陣で物理的に接合されたままである。


「あら、タクロー。両手に花を持つのも結構だけど、ご飯の時くらいはちゃんと手を離しなさい。お行儀が悪いわよ?」


 母さんの、すべてを見透かすような冷徹な一言が、俺の心臓を鋭く貫く。


「そ、そりゃあ……そうしたいのは山々なんだけどさ……」


「ご心配なく、お母様っ! タクロー先輩にはあたしが食べさせてあげますから、全くもってノープロブレムです♪」


 星菜ちゃんが、ひまわりが咲いたような満面の笑みで俺の言葉を強引に上書きした。


 いや、大有りだよ! プロブレムのバーゲンセールだよ! この状況で親の目の前で「あーん」なんて、公開処刑以外の何物でもないだろ!


「ほらほら、タクロー先輩。まずはお刺身から……はい、あーん♪」


「なっ、ちょっと星菜ちゃん!! お兄ちゃんに食べさせるのは、妹である私の権利なの!!」


 月菜が身を乗り出して猛抗議する。だが、月菜の右手は俺の右腕とガッチリ癒着しているため、彼女が自由に使えるのは不慣れな左手だけだ。


「……う、うぅ。お兄ちゃん、待ってて。今、左手でお箸を……あ、お豆腐がっ、滑る……ッ!」


 ガシャッ。虚しくも小鉢の中で箸が空を切り、プルプルの豆腐がテーブルの上で無惨な姿を晒す。


「ほらね? 利き手じゃないからこぼしちよ。ここはあたしに任せて、月菜ちゃんは安心して指をくわえて見ていてね♪」


「安心できるわけないでしょ!? っていうか星菜ちゃん、お兄ちゃんの口の端にワサビがついてる! わざとでしょ!」


 左右から迫りくる箸と、殺気立った美少女たちの視線。

 俺の意志とは無関係に、星菜ちゃんの左手と、月菜の必死な左手が俺の顔の前で複雑に交差する。


「(……お、おい二人とも。親父がこっちをニヤニヤしながら撮影しようとしてるんだが)」


「(タクロー先輩は黙って口を開けていればいいんですよ!)はい、次は熱々の茶碗蒸しです♪」


「お兄ちゃん、星菜ちゃんのばっかり食べちゃダメ! はい、私の焼き魚も食べて!」


「あ、あぐっ……モグ……ちょ、ペースが速い……! 喉が、喉が詰まる……!」


 右から煮物が、左から刺身が、交互というよりはほぼ同時に俺の口腔内へと強行軍を開始する。

 俺の腕は完全にロックされているため、のけぞって回避することさえ許されない。


「ガハハハ! タクロー、お前は本当に幸せ者だな! 母さん、見てみろ。まるで巣の中で口を開けて待っている雛鳥のようだぞ!」


「……ええ。仲が良いのはいいことだけど、なんだかタクローが物理的に拘束されているように見えるのは、お母さんの気のせいかしら?」


 母さんの観察眼が、もはやエスパーの域に達していて怖すぎる。

 そして、俺は必死に限界まで詰め込まれた贅沢な料理を必死に嚥下していた。


「ねぇ、星菜ちゃん。お兄ちゃん、顔が青いよ。一回お茶を飲ませてあげて」


「了解。じゃああたしがお茶を持つから、月菜ちゃんは先輩の口元を拭いてあげてね」


 二人の、どこか噛み合っているようで絶望的にズレている連携プレーによって、なんとか食事は進んでいく。腕は重いし、肩は凝るし、心臓はこれまでにないほど激しいビートを刻んでいた。




―――――




「ふぅ……ごちそうさまでした……」


 ようやくデザートのメロンを胃に収めた頃には、俺はフルマラソンを三回連続で完走した後のような虚脱感に襲われていた。お腹はいっぱいだが、精神的なHPはもうミリ単位しか残っていない。


「さて、腹も膨れたことだし。タクロー、明日の予定を立てるぞ!」


 親父がパンと景気よく手を叩く。……待て、まさか明日もこの癒着スタイルで観光するつもりなのか?


「ところで星菜ちゃん。そろそろ自分のお部屋に帰らなくて大丈夫なのかしら。ご両親が心配されているわよね?」


 母さんの至極真っ当な問いかけに、食卓の空気が一瞬だけ凍りついた。


「……大丈夫です。あたし一人でここに来たので。それに、お父さんとお母さんは……もう、いないので……」


 星菜ちゃんの声から、年相応の少女の寂しさが覗いた。


「あらっ……余計な事を聞いてしまったわね。ごめんなさい、星菜ちゃん」


「気にしなくても大丈夫ですよ。随分前の話なので、あたしはもう慣れっこです」


 星菜ちゃんは、いつものように屈託のない笑顔を見せた。だが、その笑顔の裏に隠された孤独を、この場の全員が感じ取ってしまった。


「ぐ、ぐむむ……ッ! 一人で部屋に帰るのは寂しかろうに! こんな健気な子を放っておけるかぁぁぁ!!」


 親父殿が、滝のような涙を浮かべながら立ち上がった。


「星菜ちゃん! 今日は我々の部屋に泊まるがいい! いや、このまま家族の一員として旅行を楽しもうではないか!!」


「―――それ、最高ですね! では、お言葉に甘えまくって……」


「よし、では俺は旅館のフロントに話をしてくる。追加の布団も必要だな! 明日も早いから、皆はもう就寝の準備をするのだぞ!」


 ドカドカと、親父殿は熱い使命感を背負って部屋を出て行った。残されたのは、あっけにとられる俺たち三人。


「……ところでタクロー。三人は、寝る時もその……ずっと手を繋いだままなのかしら?」


 母さんの静かな、しかし有無を言わせぬ視線が俺たちに注がれる。


「はい、仲良しなので片時も離れたくないんです♪(というか離れないんですけどね)」


 星菜ちゃんが、勝ち誇ったような笑みで俺の腕をさらに強く抱きしめる。

 ……いや、これ多分離すことができないから、物理的な強制参加なんだってば!!

 


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