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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
7月

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21話 湯煙、白装束女と時々こけし⑤





「俺と母さんは家族湯に行く。お前たちも自由行動だ! 存分に青春を謳歌してこいッ!」


「あらあら。タクロー、月菜、星菜ちゃん。三人とも楽しんできなさいね」 


 嵐のような親父殿と、すべてを悟っているような(あるいは何も考えていない)母上様は、そう言い残すと温泉街の湯煙の向こうへと消えていった。


 残されたのは、真夏の太陽に焼かれたアスファルトと、セミの合唱。


 そして、物理法則を無視して手が癒着してしまった一男二女の「三人組」である。


「……あたしたちも、家族湯、行く?」


 星菜ちゃんが、小悪魔的な微笑みを浮かべて爆弾を投下した。


「行けるか!!」

「行けないよ!!」


 俺と月菜の声が完璧にハモる。

 流石に実の妹と、親友の妹を連れて混浴なんて、世間体どころか全人類の倫理観が黙っちゃいない。それに、もしこの現場をシスコン魔導師の冥夜に見つかったら、俺の人生は「完」どころか「粉砕」で終わる。

 だが、現実は無情だった。


「でも、タクロー先輩の顔、ソフトクリームでべちゃべちゃだよ?」


 星菜ちゃんの言う通り、さっきのソフトクリームのベタつきが肌を蝕み、不快指数はMAXだ。


「このまま人混みにいたら、色々目立っちゃうから一回、人目を忍んで落ち着ける場所に行かないと……。ね? 一番広い貸切風呂、あたしが予約しちゃった♪」


「仕事が早すぎるだろ星菜ちゃん!!」





―――――




「いらっしゃい。……あら、三名様で家族湯? 仲が良いのねぇ」


 番台のおばちゃんの、好奇心と不審さが入り混じった視線が突き刺さる。


「予約していた京田です! 今日はお兄ちゃんとお風呂に入りたい気分なんですよ♪」


 星菜ちゃんは息を吐くように嘘を言っていた。


 おばちゃんは「あらー」とニヤニヤと笑顔を浮かべながら鍵を渡した。




 そして、鍵の番号に書かれてある部屋の扉を開けるとそこは、ヒノキの香りが漂う脱衣所と、その向こうに小さな露天風呂がついた贅沢な空間だった。……本来なら、ご褒美イベントのはずだ。


「よし、これで誰にも見られない。……で、これからどうするんだ? まさか、このまま入るわけじゃないだろ?」


 俺が問いかけると、脱衣所の鏡の前で、沈黙が訪れた。

 そう、最大の関門である「どうやって脱ぐのか問題」


「……お兄ちゃん。私たちが今、何を着ているか、わかるよね?」


「……タクロー先輩。あたしたち、今ワンピース……ですよね?」


 二人の顔が、みるみるうちに沸騰したヤカンみたいに赤くなっていく。

 月菜の左手は自由。星菜ちゃんの右手も自由。

 だが、俺の両手は二人の手とガッチリ結合して塞がっている。


「……とりあえず手を離せば良くないか?」


「「それが出来たら苦労しない(んですよ)!!」」


 一応手がくっついている事俺にバレないようにしている体なんだよね?





―――――




 とりあえずは気合いで何とか脱衣に成功し、浴室にたどり着いた。


「お兄ちゃん、見えてないよね?」


 当然ではあるが俺の視界はタオルによって覆われていた。


「あぁ、勿論見えてないぞ」


「でも、タクロー先輩のーーちょっと……いや、何でもないです」


 星菜ちゃんは俺の何を見てしまったのだ?


「お、お兄ちゃん……。背中、流してあげるから、ちょっとこっち向いて」


「待って月菜ちゃん! あたしが先輩の頭を洗ってあげる。……あ、でも手が届かないから、タクロー先輩がちょっと屈んで?」


 狭い洗い場で、三人が密着しながらの洗浄作業。

 星菜ちゃんが片手でシャンプーを泡立て、俺の頭をワシャワシャと洗う。


「あはは! タクロー先輩の髪、意外と柔らかいんですね。……なんか、犬を洗ってるみたい♪」


「犬扱いかよ……。っていうか、星菜ちゃん。そこ、耳に泡が入る……!」


「あ、ごめんなさい。じゃあ月菜ちゃん、シャワーで流してあげて」


「わ、わかった! お兄ちゃん、目つぶっててね!」


 ザバーッ、と景気良くお湯をかけられる。

 ……が、手が繋がっているせいでシャワーの角度が定まらず、シャワーのお湯の星菜ちゃんの顔に直撃した。


「ぶふぉっ!?」


「あ、ごめん……!」


「月菜ちゃんのバカー! 絶対わざとでしょ!」


「違うよ。手元が滑っただけなんだって!!」

 

 密着する肌の温度。

 そして、誰かが動くたびに全員が連鎖的に動かざるを得ないこの状況。

 俺の理性は、もう風前の灯火だった。





 なんとか体を洗い終え、三人は同時に湯船へと沈んだ。


「……ふぅ。……極楽」


「……お兄ちゃん。なんか、こうしてると昔を思い出すね」


 まぁ、まだ小さい頃は月菜と一緒に風呂に入る機会が何度かあったもんだよな。


 月菜がふぅ、と溜息をつく。

 ヒノキの香りが湯気に混じり、夏の夕暮れが露天風呂の淵をオレンジ色に染めていた。

 右隣には、お湯に濡れてしっとりとした妹の肩。

 左隣には、無防備に足を伸ばす星菜ちゃんの白すぎる肌。

 あれ? これ、もしかして……ものすごく役得なんじゃないか?

 そんな下俗な考えが頭をよぎった、その時だった。


「(……あ。ねぇ、月菜ちゃん。……見て)」


 星菜ちゃんが何やら月菜に耳打ちをした。


「(あれって……あのこけし?)」


 げっ、またあの不吉なこけしがここにいるのかよ!


「(でも、あのこけし……プカプカとアヒル隊長ばりに浮いていない?)」


「(しかも、なんか気持ちよさそうにしてない……?)」


 何だその気になる情報は?


「(もしかして…温泉を満喫してる?)」


「(まさかぁ……でも、さっきまでの不穏な感じはしないような……)」


「(……これ、どうすればいいの? 沈める?)」


「(やめなよ月菜ちゃん、さらにバチが当たりそうだよ)」


「お二人さんや、今どんな状況になってるの?」


 本当ならタオルを取って現場を確認したいが、取った瞬間に二人の霰もない姿を目視する事になるからそれは出来ないよな。


「えっと……知らない間にアヒルが浮いていた……かな?」


 ……我が妹ながら嘘が下手だな。


「まぁまぁ、細かいことは気にしないで温泉を楽しも♪」


「うん。お兄ちゃん、のぼせないようにね」


「……あたし、ちょっと先輩の肩、借りちゃお♪」


 ーーすると、外からはセミの声と、遠くで「タクロー、まだかー!」と叫ぶ親父の能天気な声が聞こえてきた。




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