表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
7月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/138

19話 大きいのが好きですか? 小さいのが好きですか?⑥(おまけ)




―――――



屋上でのあの大惨事の後、タクローとショージを見送った月菜は、放課後に至るまである【極秘作戦】を練り上げていた。


 これは、タクローが帰宅するまでの約30分間。お兄ちゃんの性癖に、妹として(物理的に)寄り添おうとした少女の、涙ぐましい奮闘記である。




【16:00 京田家・母のクローゼット】


「お姉さん……お姉さん系、うなじ、シャンプー、汗、生命の神秘……」


 帰宅するなり、月菜は呪文のようにキーワードを呟きながら、母のクローゼットを荒らしていた。

 当然ながら、現役女子中等部生である月菜の持ち合わせには、兄を黙らせるような大人びた服など一着も存在しないのだ。


 脳内を占拠しているのは、屋上で聞いた兄の衝撃的な独白。


「星菜ちゃんにドキッとするなんて……お兄ちゃん変態、ド変態! でも……でも、お姉さん系がタイプだなんて……私だって、やればできるんだから!」


 彼女の目的は一つ。

 お姉さんな自分を見せつけ、タクローの標榜する『匂い』と『うなじ』のコンボで、ドキッとさせてやることだ。


「う、重い……。母さんの服、なんでこんなにマダムっぽいの?」


 ようやく引っ張り出したのは、とろみのあるベージュのブラウス。月菜が着ると肩幅が合わずにずり落ち、意図せずしてはだけそうな危ういシルエットが完成した。


「よし、次は胸ね。……お姉さんといえば、やっぱりボリュームでしょ」


 洗面所に駆け込んだが、あいにくパッドの持ち合わせなんてない。

 ティッシュを詰める? いや、それでは重みが足りない。もっとこう、大人の女性らしい、ずっしりとした存在感が……。


「……これだ!」


 キッチンへ走り、冷凍庫を勢いよく開ける。

 そこにあったのは、ケーキを買った時についてくる大量の保冷剤。


「これなら形も崩れないし、ずっしりしてる! 何より、ブラウスの上からでも『冷たい=ミステリアスな大人の女』っぽさが演出できるはず!」

(※注:パニック中のため、月菜の判断力は著しく低下しています)



【16:15 浴室〜ドレッサー】


 次は香りだ。

 お兄ちゃんの好みが「シャンプーの良い匂い」なら、死ぬほど頭を洗えばいい。

 月菜は浴室に直行し、普段の三倍近い時間をかけて念入りに髪を洗い上げた。さらに、原液を一滴、こっそり耳の後ろに塗り込む。

 リビングは瞬く間に、美容室のバックヤードのような濃密な香りに支配された。


「そして、仕上げの汗!」


 霧吹きを手に取り、鏡を見ながら慎重に、うなじの生え際へとシュシュッと水を吹き付ける。後れ毛の一本一本をあざとい角度で肌に貼り付け、仕上げに伊達メガネをクイッと上げれば準備完了だ。


「ふふ、ふふふふ……! これでお兄ちゃんも、私を『妹』じゃなく一人の『女(お姉さん)』として見るしかなくなるはず!」



【16:25 リビング】



 ソファーに腰掛け、脚を組み、優雅に文庫本(中身は漫画)を開く。


 ……が、現実は甘くなかった。


「(……冷たい。胸元が、死ぬほど冷たい……っ!)」


 大量の保冷剤が容赦なく体温を奪い、月菜の心臓付近は氷点下に達しようとしていた。しかし、お姉さんはこの程度の寒さで震えたりしない。月菜は歯の根が合わないのを必死に堪え、玄関の開く音を待った。


 ーーーそして、ついに。


『ただいま……』


 お兄ちゃんの、世界が終わったかのような疲れ切った声が聞こえた。


「(来た……! 覚悟してね、お兄ちゃん!!)」


 月菜は必死に震えを止め、最大限の余裕あるお姉さんスマイルを作って振り返ったのである。




 これが、後に京田家の歴史に深く刻まれることとなる【保冷剤ポロリ事件】の全貌である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ