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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優


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11/28

8話:スキャンダルですよ!③



ーーーーー



「えっと……田中さん?」


 街灯の下に現れたのは、自称・田中由香里。

 ――俺のクラスに転校してきたばかりの、あの金髪碧眼の転校生だった。


「えっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいっ、これはですね……!」


 田中さんは、まるで猫が風呂に落ちたみたいな慌てぶりで手を振っていた。

 いや、まぁ……焦るのも無理はない。


 だって――格好が、完全にアニメの魔法少女そのものなんだから。


 白と青を基調にした光沢のある衣装に、肩から揺れるマント。

 しかも手には、明らかに市販されていない“杖”っぽいものを持っている。


「……えっと、それは……」


「そ、そうです! 人違いです!!」


「……へ?」


「私は田中由香里ではありません!! エヴァンジェ・ソト! 通りすがりの、外国人です!!」


 いや、思いっきり田中由香里って名乗ってたよね、前回の自己紹介で。

 それに「通りすがり」って何だよ、どう見ても通りすがってないだろ。


「……エヴァさんだっけ? こんな夜中に何してるんだ?」


 いきなり“魔法少女ですか?”なんて聞くのは危険すぎる。

 とりあえず、普通の質問から探りを入れてみた。


「えっ、えーとですね! こ、これは……そう! コスプレです! はいっ、コスプレ!」


「…………」


 思わず無言になる。

 いや、言いたいことは山ほどあるけど……ツッコミどころが多すぎて、整理できない。


「コスプレ……ねぇ」


「はい! ちょうど撮影会をしていたところでして! 今まさに夜のワンカットを撮るところだったのですよ!」


「……はぁ」


 そんな会話をしている最中――俺の視界の端で、何かが蠢いた。


「……あれは?」


 街灯の向こう、路地裏の暗がりに、異様な影が見えた。

 四つん這いで地面を這うように動いていて、時折、身体が揺らめく。

 透けている……ようにも見える。


「あ、あはは……あれはですね! えーっと……そう! 特殊メイクです!!」


「……」


「知り合いの方が、映画撮影の練習をしてまして! すごいでしょ、最近のCGみたいなメイク!」


 ……いや、どこをどう見ても、あれ実物だろ。

 ていうか、今の鳴き声、言葉になってなかったぞ?


『@+〆|=2÷.6%2203×〒$2>°28555€×44っ!!!?』


 異世界語みたいなのを叫びながら、そいつはフェンスをひしゃげさせて飛び出してきた。


「……なあ田中さん。あれ、どう見ても撮影ってレベルじゃ――」


「撮影中なんです!! はいっ! なので今は離れてくださーい!!」


 勢いで俺の肩を押してくる田中さん。

 その顔は笑っていたけど、汗が頬を伝っている。

 完全にテンパってる。いや、そりゃそうだろ。


「って、押すな押すな! 田中さん、危な――」


 俺の声を遮るように、夜空が一瞬だけ明るくなった。

 月の光とは違う、淡い青白い閃光。


 ――次の瞬間、路地裏の化け物が煙のように消えた。


「……なっ……!」


 俺は思わず足を止めた。

 だが、田中さんはもうそこにはいなかった。


「……え、は? 嘘だろ」


 風が吹いて、さっきまで田中さんが立っていた場所に、キラキラと光る羽の欠片みたいなものが落ちている。

 まるで、夢を見ていたかのような光景だった。




ーーーーー




 家に帰ると、リビングの電気がついていた。


 ちなみに帰り際にショージが『くっそぉ、魔法少女見たかったぜ』と何度も言い続けていた。


「おかえり、お兄ちゃん。こんな時間までどこ行ってたの?」


 月菜がソファでテレビを見ながら、俺に視線を向けてくる。

 いつも通りの、穏やかな笑顔だった。


 ただ、右手には包帯が巻かれていた。 


「その手どうした?」


「え? あー、これ? ちょっとぶつけただけだよ!」


 月菜は慌てて袖を引き下ろした。


 ……多分、さっきの戦いで怪我したんだろうな。


「お兄ちゃん? どうしたの?」


「……いや、なんでもない。早く寝ろよ」


 そう言って俺は、月菜の横を通り過ぎた。

 町の平和の為に月菜が頑張っているのは分かるけど、妹が怪我するのはなぁ……。


 







ーーーーー



「うぅ……お兄ちゃん、なんか怪しんでいたなぁ」


 怪我を負ってしまった手を優しくさすった。


「これ、滑って転んだ怪我なんだけどな……」


 そう、月菜は先の戦いで怪我を負ったのではなく、その後の帰宅中に躓いて転んで擦りむいた怪我であった。


 無論、無傷で戦い終えている。


「お兄ちゃんには変な心配は掛けさせたくないなぁ」


 琢郎と月菜のすれ違いは続くのであった。

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