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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
7月

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19話 大きいのが好きですか? 小さいのが好きですか?②







 梅雨が明けたばかりの屋上は、容赦ない太陽の光に包まれていた。


 じりじりと焼けるアスファルトの熱を避けるように、日陰に陣取った月菜と陽菜は、久々となる屋上での昼食を楽しんでいる。


「……で、陽菜はどう思う?」


 月菜がサンドイッチを咀嚼する手を止め、上目遣いでこちらを見た。


「——なんのこと?」


 陽菜はパックの野菜ジュースを啜りながら、あえて素っ気なく返す。

 嫌な予感というものは、大抵当たるものだ。


「だから……その。男の人って、やっぱり胸が大きい方がいいのかなって……」


(……やっぱり、聞き間違いじゃなかった)


 陽菜は心の中で、深いため息を吐いた。


 親友である月菜から「大事な相談がある」と言われ、わざわざ周囲に『人払いの魔術』まで張った結果がこれである。

 魔力の無駄遣いにもほどがあるが、月菜の必死すぎる表情を見る限り、本人にとっては世界の命運を左右するほどの大問題らしい。


「……それは人それぞれの好みだと思うよ。で、なんで急にそんなことを相談してきたの?」


 ある程度察しはついていたが、あえて確認する。

 すると月菜は、みるみるうちに耳まで真っ赤に染め、身を乗り出してきた。


「それはおにぃ……じゃなくて! 友達の彼氏さんの部屋で、ちょっとゴニョゴニョ……な本を見つけちゃったんだよ。そこに写ってた女の人が、もう……大人な見た目で、ボンキュボン! だったんだよぉ……」


「ゴニョゴニョな本って……つまり、えっちな本だよね?」


 淡々と語彙を補完した瞬間、


「ひゃあああっ!」


 月菜が派手に悲鳴を上げた。


「うわぁーっ! 陽菜ちゃん、女の子がそんなことストレートに言ったらダメーっ!」


「事実でしょ。……それに、私たちはまだ中等部生だよ? モデルみたいな体型になるには、まだ早いと思うけど」


「……でも、星菜ちゃんは同い年なのに、出るとこはしっかり出てるよ?」


 その一言が、引き金だった。


「うん? あたしを呼んだかな?」


 どこからともなく、鈴の鳴るような声が響く。


 陽菜の背筋に、ひやりとしたものが走った。

 反射的に声のした方へ視線を向けると、フェンスに腰掛け、優雅に足を組む少女の姿がある。


「佐々木星菜……っ! どうやって入ってきたのよ」


「この結界を抜けてきたに決まってるでしょ。陽菜ちゃんの魔力だってすぐ分かったし、気になって来ちゃった♪」


 星菜は悪戯っぽくウィンクする。

 一般人はおろか、並の魔術師でも気づけない結界を、散歩のついでのように通り抜けてくるあたり、この少女の底知れなさがよく分かる。


(こんな強固な結界……どんな密談をしてたのかな?)


 好奇心に細められる星菜の瞳を見て、陽菜は奥歯を噛みしめた。


「……もっと重層的に構築しておけばよかったわ」


「まぁまぁ。ここに来れるの、あたし以外だとエヴァさんくらいだし。そんなに邪険にしないでよ」


「星菜ちゃん、紫苑祭での怪我は大丈夫だったの?」


 月菜が心配そうに尋ねる。

 『謎の少年』との一件を、月菜と陽菜はエヴァから聞いていた。


 しかし星菜は、ふいっと視線を逸らす。


「ん? 何のことかなぁ?」


「だから、その時の怪我を……」


「んー、今日は風が強くて、何も聞こえないなぁー」


 耳に手を当て、見え見えの知らぬ存ぜぬ。


(……完全に、しらばっくれてる)


 陽菜のじとっとした視線を軽く受け流し、星菜は楽しげに話題を変えた。


「それよりさ、二人があたしの噂なんて珍しいね? 何の話をしてたの?」


「あなたには関係ないことよ。秘密——」


「丁度よかった! 星菜ちゃん、どうやったら星菜ちゃんみたいに胸が大きくなるの!?」


 陽菜の制止も虚しく、月菜の切実すぎる叫びが屋上に響き渡った。


 その勢いに、フェンスに止まっていたカラスが驚いて飛び立つ。

 陽菜はこめかみを押さえ、この日一番の溜息を吐いた。


「えっ、私? うーん……」


 星菜は顎に指を当て、わざとらしく胸を張る。


「『牛乳』と『睡眠』。それと、一番大事なのは『ときめき』かな!」


「ときめき……! 特定の誰かを想う心の波が、発育に影響するってことなの!?」


「ちょ、月菜。本気にしないで。佐々木星菜の言うことなんて、その場のノリだから」


 陽菜が冷ややかに突き放すが、月菜の勢いは止まらない。


「でもでも! 実際、星菜ちゃんは大きいし……! ねぇ、魔術でどうにかできないの? 『局所的成長促進魔術』とか!」


「……そんな都合のいい術、あるわけないでしょ。そもそも月菜のお兄さんが——」


「お兄ちゃんじゃないもん! 友達の彼氏さんだもん!」


 真っ赤になって否定する月菜に、星菜はクスクスと笑う。


「いいじゃない。女の子の悩みはいつだって深刻だよ? あ、そうだ。毎日マッサージしてあげよっか? 代償として——今日の下着の色を教えてもらうのが条件で♪」


「本当!? やる、私やるよ!」


「ダメに決まってるでしょ! ……星菜、月菜をからかうのはやめて!」


「ぷぷっ、やっぱり月菜ちゃんは面白いね♪」


 そんな女子三人の、生産性皆無なわちゃわちゃが続いていた——その時。


 結界の外、屋上の扉の向こうから、身も蓋もない怒鳴り声が飛び込んできた。


『……だから! ロリっ子巨乳とぺったんこお姉さん、どっちが正義なんだよ!?』


『んなもん知るか!』


 切実すぎる男子の声と投げやりな返答。


「「「————っ!!!!?」」」


 時間が、完全に止まった。


 月菜は口をぱくぱくさせ、流石の陽菜と星菜も一瞬だけ言葉を失う。


「……佐々木星菜」


 陽菜が、氷のような笑顔で呟いた。


「結界に、何か細工をした?」


「そんな面倒なことしてないよー!」


「とと、とりあえず隠れないと!」






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