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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
7月

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19話 大きいのが好きですか? 小さいのが好きですか?







「やっぱ大きいのも捨て難いよな……」


 昼休み。

 活気あふれる教室のど真ん中で、ショージは机の上に広げた『禁断の聖典(エロ本)』を熱心に眺めながら、深遠な真理に辿り着いたかのように呟いた。


「お前はいきなり何を言っているのだ?」


 周囲の女子生徒からの『うわ、出たよ……』という冷ややかな視線を背中に受けながら、死んだ魚の目でショージに問いかけた。


「タクロー、聞いてくれ。俺は今まで『小ささこそが正義であり、希少価値という名のステータスだ』という鋼の価値観を持っていた……。しかし、これを見ろ!」


 ショージが鼻息荒く突き出してきたページには、あどけない顔立ちに似合わない、凶悪なまでのボリュームを誇るロリ巨乳キャラが描かれていた。


「どうすればいいんだ、俺は! このまま貧乳派閥としての誇りを守るべきなのか、それとも、この抗いがたい重力に魂を売って巨乳派閥に寝返るべきなのか……っ!」


「知るかよ。勝手に宗派替えしてろ」


「冷たい! 親友のアイデンティティ崩壊の危機に冷たすぎるぞタクロー!」


「そんなんで悩む友人を持った覚えはねぇ!」


ーーーーその時。


「――へぇ。タクローとショージは、お昼休みにそんな『高度な政治的議論』をしてるのかしら?」


 背後から響いたのは、鈴を転がすような、それでいて絶対零度の冷徹さを秘めた声。

 振り返ると、そこにはミアが、般若のような微笑みを浮かべて立っていた。


「……あ、ザ・標準サイズだ」


「誰が標準サイズよ!!」


 ミアはバンっと強く叩いた。


「だってよ…多分、ミアはせいぜいBカップぐらいだぜ。それって平均ぐらいだよな、タクロー」


「それを俺に振るな」


「失礼な、寄せればCはあるわよ!」


 こらこら、ミアさんや。

 ショージに乗せられて言ってはいけないこと言ってるぞ?


言い放った直後、教室の喧騒が、まるで魔法が解けたかのようにピタリと止まった。


 女子グループの冷笑も、男子たちのふざけ合いも消え、全員の視線が『自称Cカップ』の美少女、ミアへと集中する。


「……あ」


 ミアは顔を真っ赤にし、自分の口を両手で押さえた。時すでに遅し、である。


「聞いたかタクロー! 今の聞いたか!?」


 ショージが獲物を見つけた野獣のような目で、ガタッと身を乗り出す。


「『寄せれば』だ! つまり、デフォルトの状態ではB、あるいは限りなくAに近いBであることを彼女自らが証明した! これは統計学的に見て非常に重要なサンプルだぞ!」


「死ね! 今すぐマリアナ海溝に沈んで死ねショージ!」


「待て、死ぬ前に確認させろ! その『寄せれば』という企業努力によって、果たして俺の『ロリ巨乳への転向』を阻止できるほどの渓谷が形成されるのかどうかを――」


 ショージが指で「フレーム」を作り、ミアの胸元を凝視しようとした瞬間。


「……タクロー」


 ミアが、潤んだ瞳で俺の方を見てきた。その手は、恥ずかしそうにブレザーの襟元をギュッと握っている。


「……。ショージ、ちょっと表へ出ろ。屋上か、もしくは校門前の側溝だ」


 俺は無言で立ち上がり、親友の首根っこを掴んだ。


 正直、ショージの意見には『男としての知的好奇心を刺激される部分がないわけでもなかったが……それを上回る『これ以上ミアを怒らせたら、俺の平穏な日常が物理的に破壊される』という生存本能が勝ったのだ。


「待てタクロー! 離せ! 俺はまだ、理想と現実の境界線についてミア君と語り合わなければならないんだ……! ぐえっ!?」


 引きずられていくショージの断末魔が廊下に響く。


 背後で、ミアが「……バカ」と小さく呟きながら、まだ真っ赤な顔で自分の胸を気にしているのが見えて、俺は少しだけ胃が痛くなった。




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