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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
6月

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18話 負の転換④





―――――





「いやー、月菜ちゃんたちのクラスの演劇、良かったなぁ!」


 多少のアクシデント(?)はあったものの、月菜たちのクラスの演劇は無事に幕を下ろした。


「この脚本、陽菜が書いたの? 構成も演出も凝ってて良かったわ」


 ショージもミアも口々に絶賛する。

 会場には、大きな拍手がいつまでも鳴り響いていた。


「……あれ? 星菜ちゃんは?」


 さっきまで後ろの席にいたはずの星菜の姿が、いつの間にか見当たらない。


「あー、クラスの出し物で忙しいんじゃね?」


「まぁ、そうか」


 中等部アイドルのメイド姿なんて、そうそう拝めるものじゃない。

 どこかで引っ張りだこになっていても不思議はないだろう。


「はぁ……俺もあとで行ってみようかな」


「先に言っておくが、お触り禁止だぞ」


「……それくらい、分かっとるわ!」






―――――






「ふーん……ニブラの分際で、人間と同じ姿になれるだなんてね」


 場所は体育館裏。

 校舎の影に覆われ、文化祭の喧騒が嘘のように遠ざかっている。


 星菜は腕を組み、目の前の少年を値踏みするように見据えていた。


 少年――つい先ほどまで、舞台の上に急に現れた謎の存在である。


『……さすがだね』


 少年が、静かに口を開く。


『もう、気づいてたんだ』


「そりゃあね」


 星菜は肩をすくめた。


「一目見ただけで分かるわ。アンタ、ニブラでしょ?」


 体育館の壁越しに、まだ拍手と歓声が微かに届いてくる。

 それが、この場の異質さをより際立たせていた。


「低級のニブラじゃ、まず無理」


 星菜が一歩、踏み出す。


 少年はわずかに目を細めた。


『低級、ね』


 感情の起伏を感じさせない声音。


『確かに、僕は普通のニブラとは違う』


「でしょうね」


 星菜は鼻で笑う。


「人の負の感情を素材にして、形を保つなんて……ずいぶん手が込んでる」


『その通り』


 少年は視線を逸らし、淡々と告げた。


『僕は君たち人間の負の感情から生まれた存在だよ』


 星菜は星核リリック《テラ・コア》を握り締める。


「出自なんてどうでもいい。ニブラ――魔のモノは、あたしが駆逐する。――《シャイニーパワー・オン》!!


 魔装が星菜の身を包み、空気が張り詰めた。


『ふふっ……』


「何が可笑しいのよ?」


『いや、魔術師ってやっぱり気が短いなって』


「――あたしは魔術師じゃない。勝手に一緒にしないで」


『そうなんだ。まぁ……来なよ』


 少年の言葉が終わるより早く、星菜は地面を蹴った。


「――っ!」


 一瞬で距離を詰め、ハンマーを振り下ろす。


 だが――


「……っ、避けた!?」


 少年の身体が霧散するように揺らぎ、攻撃は虚空を切った。


『残像だよ』


「くっ……!」


 星菜は体勢を立て直し、距離を取る。


「やっぱり厄介ね」


『その辺の子たちとは、格が違うから』


 少年は淡々と続けた。


『だって、僕は最上位種だからね』


 次の瞬間、少年の足元から影が溢れ出す。

 地面に染み込む黒が波紋のように広がり、星菜の足元を狙った。


「――遅い!」


 星菜は跳躍し、宙で身体を捻る。


「《テラ・ウェーク……インパクト》!」


 だが、少年は難なくそれをかわした。


『……へぇ』


 目が、わずかに細まる。


『周囲に配慮して、威力を抑えた?』


「うるさい!」


『身体能力は高い。でも……戦闘経験が浅いかな』


 その一言に、星菜の眉が跳ねた。


「……言ってくれるじゃない」


 着地と同時にハンマーを握り直す。


「確かに、あたしはこの力を得て日が浅い」


 一歩、踏み出す。


「でも――」


 《テラ・コア》が低く唸り、光を放つ。


「だからこそ、全力で殴る時は迷わないのよ!」


「《テラ・ウェーク》!」


 衝撃が地面を走り、コンクリートに亀裂が走る。


『……っ』


 少年の体勢が、わずかに崩れた。


「今よ!」


「《インパクト》!」


 横薙ぎの一撃が、少年の腕をかすめる。


『……なるほど』


 数歩、後退。


 完全には避けきれなかった――その事実が、この一撃の重さを物語っていた。


『いいね。君からも、負の感情がよく見える』


 影が広がる。


『おいで、僕の可愛い下僕たち』


 複数のニブラが現れ、星菜へと殺到した。


「数を増やしたところで――」


 星菜はハンマーを振るい、次々と打ち倒す。


『残念。それ、囮だよ』


「――っ、きゃあああっ!」


 倒したニブラが爆ぜた。


 衝撃が星菜の身体を吹き飛ばす。


「……が……!」


 背中から地面に叩きつけられ、息が詰まる。


『いい反応だ』


 耳元で囁く声。


『魔力の消費が早すぎる』


「……うる、さい……!」


 立ち上がろうとするが、脚が言うことをきかない。


『ほら』


 影が伸び、ハンマーが弾き飛ばされる。


「……あ……」


 《テラ・コア》の光が、不安定に揺れる。


『力はある。でも、使いこなせてない』


 少年が、ゆっくりと距離を詰める。


『戦い慣れてない者の典型だ』


「……まだ……終わってない……!」


 影が、星菜の身体を横殴りにした。


「――っ!!」


 壁に叩きつけられ、息が漏れる。


 魔装は破れ、胸が軋むように痛む。


 それでも――星菜は倒れなかった。


『分からないなぁ。どうして、まだ立つ?』


「アンタには……分からない」


 星菜は顔を上げる。


「あたしが――お兄ちゃんのために戦う理由なんて!」


『……なるほど。まさか君は――』


 その言葉を遮るように、光の矢が闇を切り裂いた。





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