プロローグ
「お兄ちゃん、今日は急用ができたから先に帰るね!」
中高一貫の紫苑学園に通う俺たち兄妹。名前は、俺、京田琢郎、15歳。そして、妹の京田月菜、12歳だ。
月菜は、今年から晴れて俺と同じ学園に通うことになった。中学校と高校が一緒になった大きな学園で、毎日のように賑やかだ。紫苑学園は、ここらの地域では有名なマンモス校で、生徒数が非常に多い。そのため、俺たち兄妹は普段一緒に通学していることが多かった。
それにしても、月菜が同じ学校に通い始めてからは、毎日が新しい発見の連続だった。兄妹としてはもちろん、これから先の学校生活でも、互いに色々と助け合っていけるだろうと思う。
普段は月菜と一緒に帰ることが多いのだが、時々、今日のように月菜が先に帰ってしまうこともある。
「今日は急用ができた」なんて言われると、何だか寂しい気分になるが、月菜には何か大切な仕事があるんだろうなと思って、気にしないようにしている。
その理由を俺は知っている。
月菜は実は、魔法少女なのだ。
いや、こう言うと誰もが「え?」という顔をするだろうが、これは本当に事実だ。
魔法少女って、あのアニメでよく見るような衣装を着た、かわいい女の子たちが悪党と戦うあれだ。
俺は、ある日、月菜がその姿に変身するところを目撃してしまった。それからというもの、俺は月菜が魔法少女として活動していることを秘密にしているが、心の中ではとても驚いている。
―――――
今から1ヶ月ほど前のことだ。その日の夜、俺は目を覚ました。深夜のことだった。時計を見ると、ちょうど午前1時を過ぎたところだった。
何となく喉が渇いていたので、リビングに行ってお茶でも飲もうかと階段を降りていった。そのとき、ふと玄関前でモジモジしている月菜の姿を見かけた。
普段ならもう寝ている時間だが、月菜は何やらそわそわしているようだ。
「よし、みんな寝ているよね……うぅ、恥ずかしいけどやらなきゃダメだよね……」
月菜が独り言を呟いているのを聞いたとき、俺は少し驚いた。何をしているんだ?
そのまま階段の途中で立ち止まって、月菜の様子を静かに観察していた。
月菜は少し顔を赤らめながらも、しっかりとした足取りで玄関のドアを開けると、そのまま外に出て行った。
夜遅くに外に出るなんて、何かあるのか? いや、まさか……彼氏のところに行くつもりなのか?
それとも、パ○活でもしに行くのか?
どうしても心配になった俺は、そっと後をつけることにした。月菜が何をしているのか、気になってしょうがなかった。
―――――
「ここなら誰も来ないよね」
月菜がたどり着いたのは、近所の路地裏だった。人通りはほとんどなく、周囲の家々の明かりも消えていた。
あぁ、やっぱり……これはパ○活なのか?!
月菜がお金に困っているなら、俺が少しでも手助けしてやるぞ! と心の中で焦りを感じながら、さらに静かに足を進めた。
すると、月菜は一度周囲を見回してから、突然、深呼吸をした。
「よし、【シャイニーパワー・オンっ!!】」
その瞬間、月菜の体が光り、私服から薄黄色を基調としたドレスに変わった。
俺はその光景を目の当たりにして、思わず声を上げそうになった。
これが魔法少女だ……まさか本当に……
アニメで見たことがあるあの光景と、まるで同じだった。
「うぅ、やっぱりこの姿は恥ずかしいよぉ。でも、この町を守るためには頑張らないとね!」
月菜は少し恥ずかしそうに言ったが、その目はしっかりと前を見据えていた。
そのまま、月菜は空に飛び立っていった。
俺はその後ろ姿を見送りながら、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
どうやら、うちの妹は魔法少女らしい。そして、その衣装は思っていたよりも恥ずかしがっていたようだ。




