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第三話 火撫由輝斗と桜小路薫子②

登場人物紹介

 黒崎くろさき櫂斗かいと:主人公。異世界少年を自称し、自分が異世界に召喚されることを信じて疑わないバカ。異世界ラノベも大好き。無双流の使い手。

 片岡かたおか荘介そうすけ:櫂斗の友人。陰キャオタク。最近、櫂斗とオタク友達になった。

 阿久根あくね孝蔵こうぞう:坊主頭の巨漢。高校生なのにおっさんと思われている。不良達相手に喧嘩の代行業をしていた。櫂斗に敗れた結果、現在開店休業中。

 火撫ほなで由輝斗ゆきと:阿久根と同じ高校の赤毛の少年。火蜥蜴サラマンダー(笑)。なにやら櫂斗に対して思うところがありそうだが……

 桜小路さくらこうじ薫子かおるこ:櫂斗のクラスメイト。隠れオタク。櫂斗と荘介が楽しそうにオタクトークに花を咲かせているのが気になっていた。

 放課後。

 阿久根と由輝斗は、南城高校の校門前に来ていた。

「ここか?」

「ああ。おそらく、な」

 異世界少年を自称する男が着用していた学生服はここ南城高校のもののはずだった。

 阿久根達の通う嵐山高校を含め、学ランタイプの制服を採用している高校はいくつかあるので確証はないが、襟についていた校章から南城高校と推察していた。

「自信ないのかよ」

「馬鹿野郎。思い切りぶん投げられて地面に叩き付けられた時に見えたものだぜ。それに気づけたことを褒めてもらいたいもんだ」

「わかったよ。だけど、あんた何が目的だよ。――あいつに復讐したいってわけでもないんだろ?」

「当たり前だろ。本気を出していない相手に完敗しているんだぜ」

「ならなんで」

「見物だよ」

「は?」

オレに勝った(・・・・・・)ことがある数少ない男が、化け物相手にどうするつもりか見届けたいと思ってな」

「なに言っているんだよ。あの勝負は引き分けだろ?」

「オレはそう思わないんだよ。あの時、火撫は他の連中とり合ってからオレのとの喧嘩だったんで、既に疲れてたしな。それで引き分けなら、オレの負けだろ」

 そんな阿久根の言葉に、由輝斗は呆れ気味に言い放った。

「ったくよ。自ら負けを認める奴がいるかよ」

「あの喧嘩は良い喧嘩だった。相手のことを気にすることなく本気でやれたんだ」

 不良連中から喧嘩の依頼を受けることは良くあるが、本気を出すことはほとんどない。

 阿久根の体格に怯み、闘り合う前から引き気味になるのだ。

 その為、いつもはほどほど(・・・・)に闘い、大きな怪我をさせる前に終わらせていた。

 そんな中、火撫由輝斗という男は体格に恵まれないながらも、思い切りぶつかってきた。

 そして強かった。

 結局決着はつかなかったが、満足いく喧嘩だった。

「……ふん。まあ、あれは悪くはなかったな」

「だがな、あの『異世界少年』とはそうはならなかった。――それだけ差があったってことだな」

「…………」

「だが、火撫に対してもそれは思ってはいるんだぜ。公園での喧嘩見た時わかった。あの時より強くなっているみたいだしな。――不良の癖に勤勉だな」

「オレは不良じゃねえ」

「そうなのか?」

「そうだよ。なんか知らねえが勝手に絡んで来やがるんだ。それを返り討ちにしていたら余計に絡まれるようになってな」

「……馬鹿だな。ああいう連中はメンツを重んじるんだ。適当にやり過ごせば良かったものを」

「オレは逃げたくないんだよ」

「だろうな」

 そういう男だからこそ、阿久根は気に入ったのだから。


 阿久根は今後の方針を訊いた。

「それで、ここからどうする。奴が出てくるのを待つのか?」

「そうだな……それしかないだろうな」

 由輝斗の言葉に、阿久根は眉をしかめる。

「だがな、火撫よ。校門前という目立つところに、評判の悪い不良高校の制服を来た大男と赤毛の男がいるというのは、いささか目立ちすぎではないか?」

 放課後になり、人の往来も増えた校門前では自分たちは目立ちすぎた。

 場合によれば、教師を呼ばれる可能性もあるだろう。

「確かになあ。先公を呼ばれるのはまずいな。――少し、目立たないところに移動するか」

「そうしよう」

 と、方針を決めたその時、「きゃ」という声が聞こえた。

 振り返ると、校門から出てきたであろう女生徒がすぐそばで尻餅をついていた。

 気づかず、巨漢の阿久根にぶつかってしまったのだろうか。

「すまん。邪魔をしてしまったか?」

 倒れ込んだ女生徒に手を差し出しながら、謝った。


       *


 放課後になったので、薫子は帰宅すべく昇降口を抜け、校門まで来た。

 例によってこれから習い事があった。

 ――今月は本屋に全然行けていない……

 基本、電子書籍派――母親にバレないため――の薫子だが、書店で色んな本を物色することはそれ自体がこの上ない娯楽だった。

 学校では、櫂斗と片岡荘介が楽しそうに異世界ラノベの話をしていて羨ましかったし、なんだかろくなことがない。

 そんなことを思いながら校門を抜けると――

 大男がいた。

「きゃ」

 大男はこちらに背を向けているし、ぶつかったという訳ではないのだが、突然のことに驚いてしまい、尻餅をついてしまう。

 その声を聞いて大男がこちらの方を見た。

「すまん。邪魔をしてしまったか?」

「い、いえ、大丈夫です」

 大男の手を取り、立ち上がらせてもらう。

「つい驚いてしまいまして……ありがとうございます」

 その時、隣にいた小柄な赤毛の少年が大男に対してからかうように言った。

「ふん。それは、おっさんが一〇〇パーセント悪いな。こんな図体がいたら驚くのは当然だろ」

「赤毛で目つきの悪いお前の言われる筋合いはないわ」

 そんなじゃれあうようなやり取りを聞いて少し安心した。

 こちらに危害を加えようというわけではないようだ。

「じゃあ、オレらは邪魔みたいなんでここから離れるわ」

「そーだな」

 二人はこの場から離れようとしていた。

「なにか、この学校に用があったんじゃないですか?」

 薫子は思わず声をかけていた。

「まあ、そうだな」

 大男が答える。

「それはどんな用事なんですか? さっきは迷惑をかけてしまったので、わたしに出来ることであれば協力しますよ」

 初対面かつ不良っぽい出で立ちの男性二人にこんなことを提案している自分が不思議だった。

 なぜか、二人を怖いとは感じていないのだ。

 二人は顔を見合わせ、悩んでいるようだった。

「うーん、じゃあ、ちょっと訊くだけ聞いてみるか?」

 大男は、赤毛の少年に提案した。

「そーだな。じゃあ、訊かせてもらうけどよ」

「はい」

「この学校に『異世界少年』とか抜かしている馬鹿野郎はいないか?」

「異世界……少年?」

 赤毛の少年から紡がれた言葉は、不可解であったが――思い当たる部分もあった。

 ――まさか……

 この南城高校で、『異世界』というキーワードに合致する人間は、一人しかいなかったからだ。

 薫子の表情で大男はなにかを察したようだ。

「もしかして……知っているのか?」

「いや、わからないです。でも、もしかしたら……」

「本当か! 教えてくれ! そいつの名前を!」

 赤毛の少年が余裕のない表情で詰め寄ってくる。

「ちょ、ちょっと近い……」

「す、すまねえ。そうだな。悪かった」

 赤毛の少年が離れる。

 顔が、少し赤い気がする。

 整った顔立ちも相まって、薫子は赤毛の少年をかわいい(・・・・)と思ってしまった。


「それで、そいつの名前は?」

 気を取り直して、赤毛の少年が訊いてきた。

 ――どうしよう……

 冷静になってみると、勝手に櫂斗の名前を出して良いものだろうか。

 そんなことを思っていると――

 赤毛の少年が、薫子の後ろの方に視線を向けていた。その表情はこわばっていた。

 大男を見ると、彼は「ほう」と面白そうな表情をしていた。

 薫子も振り返る。

 そこにいたのは、異世界ラノベや異世界が大好きな『少年』――黒崎櫂斗だった。

「……あんたは……確か、阿久根とか言ったっけ? なんでこんな所に来てるんだ? それに、桜小路もいるし……どういう状況なんだ?」

 そこまで言って、櫂斗は赤毛の少年に視線を向ける。

「もしかして……由輝斗か?」

 赤毛の少年は、そんな櫂斗の言葉に憮然とした表情をしていた。

「いやー、懐かしいな。髪なんか赤くしてどうしたんだよ」

 対して櫂斗は脳天気な表情で由輝斗に話しかけていた。


       *


 これは、どういう状況だろう。

 片岡荘介は困惑していた。

 櫂斗と帰るべく、昇降口を出たところで校門の方が騒がしいことに気づいた。

「なんだ? なんかあったのか?」

「どうだろう……」

 そして、校門まで行くと――

 まず、気づいたのは巨漢の男――阿久根だった。

 ――え、なんで?

 先日、荘介は不良に絡まれて、カツアゲをされそうになった。

 それを助けてくれたのが櫂斗で、その櫂斗と一対一で闘ったのが阿久根だった。

 阿久根は依頼されて櫂斗と闘っただけで、カツアゲの現場には関与していなかったので、阿久根に対して、悪感情はほとんどなかった。

 だが、突然現れると、さすがに戸惑ってしまう。

「……あんたは……確か、阿久根とか言ったっけ? なんでこんな所に来てるんだ? それに、桜小路もいるし……どういう状況なんだ?」

 櫂斗の言葉で、クラスメイトの桜小路薫子がいることに気づいた。

 お淑やかな雰囲気を持った美少女でクラスでも人気者であった。

 もちろん、自分と接点などゼロである。

 位置関係から、阿久根と会話を交わしていたように見えた。

 そして、もう一人は、赤い髪をした少年だった。

「もしかして……由輝斗か? いやー、懐かしいな。髪なんか赤くしてどうしたんだよ」

 脳天気に櫂斗は声をかけているが、少年は剣呑な雰囲気を漂わせている。

 年の頃は一六歳ぐらいで、同世代だと思われる。

 目鼻立ちの整った美少年だった。

 細身の身体をしているが、引き締まっているのか線の細さはまったく感じない。

「ふざけんな! 気安く声をかけてくるんじゃねえよ!」

「は? なに怒ってるんだよ。久々に会ったのによ」

「オレは別にお前と旧交を温めたくて来たわけじゃねえんだよ」

「じゃあ、何の用だよ」

「お前、ちょっと前に、そこのおっさんと闘り合ったらしいじゃねえか」

 由輝斗は背後にいる阿久根を呼び差した。

「……そうだけど、なんか問題あるか?」

「大ありだ。オレとは闘らなかった癖によ。ふざけんな!」

「は? なに言っているんだ、由輝斗」

あの時(・・・)、オレの挑戦を受けてくれなかっただろーがよ」

「はぁ?」

 由輝斗の言葉に、櫂斗はやれやれと嘆息した。

「…………相変わらずしょーもないこと言ってるな、由輝斗」

「なんだと!」

「よくよく考えてみろよ。あの時(・・・)のお前とやるわきゃねーだろが。まったくよ」

 剣呑な雰囲気を漂わせる由輝斗に言い放つ櫂斗だった。

 どういうことだろう。

 荘介には訳がわからなかった。

 

 

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