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第一七話 御巫詩穂美の憂鬱⑧

登場人物紹介

 火撫ほなで由輝斗ゆきと:櫂斗の幼なじみ。最近は、空手の師匠である叔父に再び稽古をつけてもらっている。『チーム異世界』メンバー。

 黒崎くろさき櫂斗かいと:主人公。異世界少年を自称し、自分が異世界に召喚されることを信じて疑わないバカ。無双流の使い手。詩穂美とは同門であり物心ついた頃から一緒の幼なじみ。『チーム異世界』メンバー。

 御巫みかなぎ詩穂美しほみ:櫂斗の幼なじみ。櫂斗とは一緒に異世界に行こうと約束を交わした仲だった。今は全寮制の光華学園に通っている。なぜか不良相手になにかを考えているようだが……。別作品『義妹できました』にも登場。

 桜小路さくらこうじ薫子かおるこ:櫂斗のクラスメイト。隠れオタク。櫂斗たちと友達になり、『チーム異世界』を結成した。

 人気(ひとけ)のない神社で、同門の二人が対峙している。

 お互い摺り足でじりじりと間合いを詰めていく。

「……………………」

「……………………」

 詩穂美は、構えをとりながら、櫂斗の一挙手一投足に気を配る。

 櫂斗と組手をするのは、久々だった。

 お互いの手の内は知っているので、奇襲は通用しない。

 故に、うかつには動けない。

 だが、いつまでもこの膠着状態は続かないだろう。

 櫂斗はこういう状況を我慢できるタイプではないからだ。

「いくぜ……」

 櫂斗の身体がゆらりと右へ左と動き――

「だっ!」

 櫂斗がこちらに向かって、走り出し、間合いを詰めてきた。

 先ほどの不良達の動きなど、比べものにならないほど、(はや)い。

「くらえっっ!」

 力強い踏み込みとともに、櫂斗の右拳が打ち出される。

 詩穂美は、冷静に見極め、打ち出された拳を左手の甲で受けて、受け流す。

 ――今度はこっちの番!

 詩穂美は、素早く掌底で反撃。

「くっ」

 櫂斗の顎を狙ったその一撃は、腕で防がれる。

 その瞬間、櫂斗の右脚が鞭のようにしなり、跳ね上がる。

 さらに前に出ようと思っていた詩穂美だったが、すっと、一歩後ろに下がる。

 ぶんっ。

 詩穂美の眼前を櫂斗の蹴りが通り過ぎる。

 後、数ミリ前にいたら、当たってしまうほど、ギリギリの距離だった。

 だが、これはギリギリでしか躱せなかったわけではない。

 即座に反撃できるように、ギリギリで躱したのだ。

「はっ!」

 詩穂美は、身体を左に旋回させ、左後ろ回し蹴りを放つ。

 櫂斗の頭部を狙ったその蹴りに、櫂斗は回避は難しいと判断したのか、左肘を曲げ、顔の側面でブロックする。

「くぅっ!」

 蹴りの衝撃に顔をゆがめる櫂斗。

 だが、詩穂美の攻めはまだ、終わらない。

「たぁっ!」

 蹴りを放った左脚が地面に付く前に残った右脚で跳び上がり、さらなる回転を加え、空中で右回し蹴りを放った。

「っ!」

 櫂斗が驚いたような表情を見せ、一瞬、硬直する。

 硬直したのは一瞬だが、それでも十分すぎる隙だった。

 連続の蹴りを予測していなかったのだろうか。

 もしそうなら――甘すぎる!

「くぅっ!」

 詩穂美の二発目の蹴りを、櫂斗は再度腕でなんとかブロックするが、受け止めきれず数メートル飛ばされた。

 櫂斗は飛ばされながらも、倒れることなく、構え直し、体勢を立て直していた。

 詩穂美も、無理な追撃はしなかった。

 最初の攻防は終わった。

「ふふ……」

 詩穂美は、自然と笑みが浮かんでた。

 やはり、櫂斗との組手は最高だった。

 手加減など考える必要もなく、本気(・・)で闘えることに、歓喜した。

 きっと、櫂斗も同じだろう――と思ったのだが。

「……………………」

 なぜか、櫂斗は、戸惑いの表情を見せていた。

「どうしたの? 櫂斗」

「……まあ、なんて言うか……」

 櫂斗の口調は歯切れが悪かった。

「……なによ?」

「その……さっき、回し蹴りをした時……」

「した時?」

「……パンツ見えてたぞ(・・・・・・・・)

 櫂斗は、なんとも言えない気まずそうな表情だった。

「あっ…………」

 詩穂美は思わず、声を漏らす。

 さきほど、後ろ回し蹴りからの連続蹴りを行った際、スカートが翻りすぎてパンツ丸見えになっていたようだ。

 どうやら、先程、櫂斗が隙を見せたのは、詩穂美のパンツに気を取られたからのようだ。

 ――まったく櫂斗は……

 詩穂美はくすりと、笑った。

「櫂斗。この程度で心を乱すなんて、修行が足りないんじゃない?」

「うるせえ。お前こそ、羞恥心がないのかよ」

「馬鹿ね…………そんなの恥ずかしいに決まってるじゃないの」

 一応、詩穂美も女の子である。

 恥ずかしいに決まっている。

「そ、そうだよな……」

「でもね……」

 詩穂美は続ける。

「……あんたと闘うのに、そんなこと(・・・・・)気にしていられないのよ」

「詩穂美……お前……」

「パンツに見とれたせいで、負けたなんて言わないでよ」

「なっ――お、お前の色気のないパンツなんか見ても、動揺なんてしねーよ」

「さっき、固まってたくせに」

「あれは突然のことにびっくりしただけだ。――普通に、短パンなんか履いてると思ってたんだよ。元々、こういうこと(・・・・・・)をするために外出したんだろ?」

 櫂斗の言うことはもっともである。

 不良達と闘り合うつもりだったわけだから、そういう対策を打つと思うだろう。

「光華学園では、制服に短パンを履くのは禁止されてるのよ」

 詩穂美は言った。’

「え? マジ? ――これは重要な情報だぞ……」

「嘘よ。――まったく、これだから男子って……」

 食いつく櫂斗を、詩穂美は鼻で笑う。

 いくら光華学園とて、そんなことをルールとして決めるはずがない。まあ、推奨はしないだろうが。

 今回、それをしていないのは、不良相手ならそんなことを気にする必要もないと考えていたからだ。

「詩穂美ぃ……絶対泣かす!」

 櫂斗は顔を赤くして、叫んだ。

「ふふっ」

「さっさと続きやるぞ! 詩穂美っ!」

「ええ。やりましょう」

 詩穂美は不敵に笑った。

 こうして、櫂斗と軽口をたたき合っていると、ずっと胸の奥にあった重しが取れていくような感じがした。

『気』が使えないとか、そういう悩みは頭から消え去っていた。

 ただ、目の前の幼なじみと闘り合いたかった。

 なんとなく、今まで見えていなかったなにか(・・・)が見えそうな気がした。


       ※


 由輝斗と桜小路は、二人の組手を見守っていた。

 桜小路は、目を白黒していた。

「なんだか、凄すぎてよくわからなかったです……でもなんて言うか……」

 桜小路は顔を赤らめていた。

 二人がなにをやっているかはよくわからなかったみたいだが、連続回し蹴りをした際のパンツを見てしまったのだろう。

 だが、由輝斗はそんな些細なこと(・・・・・)を気にしている場合ではなかった。

 ――なんて奴らだ……

 桜小路がなにをしているのかわからないのも当然だ。

 由輝斗も、目で追うのが精一杯だったからだ。

 幼なじみ二人の組手を一瞬たりとも目を離すわけにはいかない、と思った。


 櫂斗と詩穂美が同時に動いた。

 どちらも凄まじい速度で間合いを詰める。

 お互いの腕と腕が、がしっと、ぶつかり合った。

 衝撃がこちらまで響いてくるようなぶつかり合いだった。

 そのまま間合いを開けず、お互い、攻め合っていた。

 間合いを詰めての、突き、蹴りの応酬となるが、クリーンヒットはない。

 どちらも打撃を当て体勢を崩してから、そのまま投げなり関節技なりに持って行くつもりなのだろうが、どちらもその隙を見せなかった。

 櫂斗が、詩穂美の胴を狙い、中段回し蹴りを打つ。

 詩穂美は、ふわりと跳び上がることでそれを躱した。

 さらに空中で、くるりと回転し、櫂斗の頭部めがけての鋭い踵落としを放つ。

 櫂斗は、瞬時に反応し、腕をクロスにして、踵落としをなんとか受け止める。

 そしてそのまま、空中にいる詩穂美に反撃をしようとする。

「もらった!」

 だが、詩穂美は反撃を受ける前に、残った右脚で、櫂斗の腕を踏み台にして、後ろに跳んだ。

 詩穂美は、空中を華麗に舞うと、後ろに一回転して、着地した。

 凄い跳躍力だった。

 櫂斗は、そんな詩穂美に向かって、間合いを詰めながら、叫ぶ。

「だから、パンツ見せんじゃねーっ!」

 櫂斗は、空中で一回転して、またパンツが見えた事について抗議した。

「たあっ!」

 着地直後で、体勢が完全に整っていない詩穂美を狙い、腕を取り――投げた。

「――っ」

 だが、詩穂美は投げられる前に自分で跳び――叩き付けられる前に着地した。

「あんたが勝手に見てるんでしょ!」

 言いながら、今度は詩穂美の方が、腕を取った。

 そのまま、腕の関節を極めようとする。

 が――

「だから、見たんじゃなくて、見えてる(・・・・)んだよ!」

 櫂斗は、関節を極めさせないように動き、取られていた腕を外す。

 そのまま、身体をぐるりと回転させて、詩穂美の頭部を狙い、裏拳。

「――っ!」

 詩穂美は身体を屈ませて回避し、胴めがけてタックルを仕掛ける。そのまま倒すつもりのようだ。そのまま有利な体勢で関節技を極めるつもりか。

 だが、櫂斗は大地を踏みしめタックルを受け止める。

「その程度で俺が倒れるかよっ!」

 櫂斗は、抱きついている詩穂美の後頭部を狙い、肘打ち。

 だが、詩穂美はすぐに櫂斗から離れ、それを回避する。

 何というスピードだった。

「遅いよ、櫂斗」

「まだまだこれからっ!」

 二人の攻防はさらに加速していく――


 由輝斗は、言い合いをしながら、闘い続ける幼なじみ達を呆然としてながら見ていた。

 ――まだ速くなるのかよ……

 二人とも、休みなく闘い続けていた。

 一瞬の隙が命取りとなる攻防を続けている。

 それほど凄絶な攻防だというのに、二人とも笑っていた。

 どちらも必殺の一撃を打ち続けているというのに、楽しそうだった。

 それは、まるで舞いを舞っているようでもあった。

 同門で、手の内を知っている者同士だから出来る、華麗な舞いであった。

 これが、無双流か、と思った。

 これまで、無双流の道場で稽古をやらせてもらってはいたが、見せてもらっていたのはほんの一部だったのだな、と思った。

 二人と自分には、相当な差があることを実感した。

 だが、絶望はしなかった。

 むしろ、希望しかない。

 こんな二人(・・)とこれからも稽古をさせてもらえるのだから。

「火撫さん……」

 桜小路が声を掛けてきた。

「……どうした? 桜小路」

「なんだか、楽しそうですね」

「ああ、そうだな。もう安心しているからな」

「安心?」

「どういう結果になろうと、御巫はもう大丈夫さ」

「そうなんですか?」

「御巫の奴、すっきりした顔しやがって。――あれじゃ、もうオレの捨て身の戦法も通用しねーな」

「はあ……」

「こうして『拳で語り合う』ことで解決するならさっさとしろってんだ。――オレがどれだけ苦労したと思ってんだよ」

 由輝斗はやれやれ、と肩をすくめた。

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