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第一五話 御巫詩穂美の憂鬱⑥

登場人物紹介

 火撫ほなで由輝斗ゆきと:櫂斗の幼なじみ。最近は、空手の師匠である叔父に再び稽古をつけてもらっている。『チーム異世界』メンバー。

 黒崎くろさき櫂斗かいと:主人公。異世界少年を自称し、自分が異世界に召喚されることを信じて疑わないバカ。無双流の使い手。詩穂美とは同門であり物心ついた頃から一緒の幼なじみ。『チーム異世界』メンバー。

 御巫みかなぎ詩穂美しほみ:櫂斗の幼なじみ。櫂斗とは一緒に異世界に行こうと約束を交わした仲だった。今は全寮制の光華学園に通っている。なぜか不良相手になにかを考えているようだが……。別作品『義妹できました』にも登場。

 桜小路さくらこうじ薫子かおるこ:櫂斗のクラスメイト。隠れオタク。櫂斗たちと友達になり、『チーム異世界』を結成した。

 黒崎櫂斗は、詩穂美の幼なじみである。

 家は隣同士で、物心ついたときには、ずっと一緒だった。

 櫂斗の祖父――源斎から、異世界話を聞かされ、異世界に興味を持ったのも一緒だった。

 そして、一緒に無双流に入門した。

 無双流の稽古は厳しかった。

 詩穂美達がまだ幼いということは考慮して、決して無理はさせなかったが、楽もさせてくれなかった。

 だが、詩穂美にせよ櫂斗にせよ、『異世界に行きたい』という目標があったから弱音を吐くことはなかった。

 母からは、ほぼ毎日道場に行くことに、いい顔はされなかったが、気にしなかった。

 そうして、櫂斗とともに修行を重ねる毎日だった。

 小学校高学年頃に、由輝斗とも出会った。

 由輝斗は無双流の稽古を見せて、感動していたようだったが、異世界話には刺さらなかったようで、無双流に入門することはなかった。

 仲間が増えなかったことを残念に思いつつも、ほっとした気持ちもあった。

 無双流は、自分と櫂斗だけでいい、とも思ったからだ。

 こうして修行を続け、いつか二人で異世界に行く。

 櫂斗と交わした大事な約束だった。


 中学に入ってからも変わらず二人の修行は続く。

 肉体的に成長してきたことから、稽古の内容も変わっていく。

 小学生時代は、基礎を中心とした稽古だったが、無双流の多彩な技を教わった。

 技の覚えは、詩穂美の方が早かった。

 技の(ことわり)を理解するのが早いのか、コツをすぐに掴んだ。

 源斎からもその、センスの良さを褒められたほどだ。

 対して、櫂斗は不器用だった。

 詩穂美が一〇の技を覚えている時、櫂斗は半分も覚えられなかった。

 だが、櫂斗は諦めなかった。

 妥協せず、自分が納得するまで地道な反復練習を行い、技の(ことわり)を理解した。

 そうしてマスターした技は、詩穂美のそれを上回ることもあった。

 故に、技の多彩さでは負けるつもりはないが、ひとつひとつの技の精度では、櫂斗の方が上だった。

 そういう意味で二人は互角だった。

 二人ともお互いに負けまいと切磋琢磨していた。

 そして中学三年になった頃。

 次の段階として『気』について習うことになったのだ――


       *


 詩穂美がいる。

 櫂斗が思ったことはまず、それだった。

 中学を卒業してから、詩穂美とは一度も顔を合わせていない。

 互いの家が、隣であるのにもかかわらず、だ。

 そんな御巫詩穂美が、目の前にいた。

「どういうこと、火撫?」

 困惑した表情で、詩穂美が由輝斗に向かって言った。

「御巫が不良達と神社に向かった頃に、櫂斗に連絡しておいたんだよ。――御巫がいるってな」

 由輝斗の言うとおりだった。

 道場での稽古中、由輝斗から連絡が来たのだ。

 御巫詩穂美がいることを教えてくれた。

 しかも場所は、以前阿久根とタイマンをした神社だと言う。

 櫂斗は着替える時間もどかしく、神社まで来たのだ。

「……余計なことを……」

 詩穂美が、吐き捨てるように、言った。

「おいおい。余計な事ってどういうことだよ。――俺と会いたくないのかよ?」

 櫂斗は詩穂美に抗議をした。

「そうね」

「どうしてだよ」

「……なんとなく、かな」

「はぁ? どういうことだよ?」

「別に不思議じゃないでしょ。高校生にもなって幼なじみといつまでも一緒にいるものでもないし」

 詩穂美が、肩をすくめる。

「……俺たちは、ただの幼なじみじゃないだろ。同じ、無双流の門下生なのだから」

「……まあ……それはそうね」

 詩穂美はなぜか、目を合わせない。

「今日、こうして外に出ているんだから、外出届出してるんだろ? とりあえず、ウチの道場へ行こうぜ」

 まずはゆっくりと話す時間が欲しかった。

 だが、詩穂美は首を振る。

「行かない」

「なんでだよ」

「なんでもよ!」

「わけわかんねーよ」

 本当に訳がわからなかった。

「櫂斗」

 由輝斗が口を挟んできた。

「なんだよ、由輝斗」

「どうして、御巫がこんなことをしていたか、知りたいか? オレは知ってるぜ」

「そうなのか?」

「ああ。源斎のじいさんが教えてくれてな」

「教えてくれ」

「やめてよ」

 詩穂美の言葉を無視し、由輝斗は続ける。

「御巫は、『気』を自分が使えないことが許せないんだとよ。――櫂斗は使えるのに、どうしてってな」

「…………マジ?」

 櫂斗は詩穂美の方を見る。

「……………………」

 詩穂美は目を合わせないどころか、完全に顔を逸らしてた。

「…………本当に、そんなこと(・・・・・)が理由なのかよ」

 まさかその程度(・・・・・)のこと理由とは思わず、驚いていると――

「そんなこと?」

 詩穂美が櫂斗の言葉に強く反応した。

「な、なんだよ……」

 まさかここまで過剰反応されるとは思わず、戸惑う櫂斗に、詩穂美は言う。

「……確かに櫂斗はそう思うんだろうね。――だって、あなたは、使える(・・・)のだから!」

 詩穂美は、こちらを睨み付けながら叫んだ。

 だが、その表情は怒りというより泣き出しそうだった。


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