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第一二話 御巫詩穂美の憂鬱③

登場人物紹介

 火撫ほなで由輝斗ゆきと:櫂斗の幼なじみ。最近は、空手の師匠である叔父に再び稽古をつけてもらっている。『チーム異世界』メンバー。

 黒崎くろさき櫂斗かいと:主人公。異世界少年を自称し、自分が異世界に召喚されることを信じて疑わないバカ。無双流の使い手。『チーム異世界』メンバー。

 御巫みかなぎ詩穂美しほみ:櫂斗の幼なじみ。櫂斗とは一緒に異世界に行こうと約束を交わした仲だった。今は全寮制の光華学園に通っている。なぜか不良相手になにかを考えているようだが……

 桜小路さくらこうじ薫子かおるこ:櫂斗のクラスメイト。隠れオタク。櫂斗たちと友達になり、『チーム異世界』を結成した。

 翌日の放課後。

 由輝斗は、光華学園に来ていた。

 詩穂美に会うためだった。

 これから自分が野郎としていることはただのお節介であることはわかっている。

 だが、事情を知ってしまった(・・・・・・・)今、放ってはおけなかった。

 ――まっ、腐っても幼なじみだからな……

 そんなわけで、光華学園に来てはいるのだが、部外者がおいそれとは入れるような場所ではなく、少し離れた場所で校門前を見張ることしかできなかった。

 出来ることは、結局、詩穂美が出てくるのを待つしかなかった。

 だが、今日も詩穂美が外出する保証はないわけで――

「こりゃ……無理かな……」

「だから言ったじゃないですか。光華学園の中に入るのなんて無理なんですよ」

 思わず愚痴をこぼすと、隣にいる桜小路(さくらこうじ)薫子(かおるこ)は、何を言っているんだ、とばかりにこちらを見た。

「いいだろ別に」

 痛いところを突かれた由輝斗は顔をしかめる。

「だいたい、桜小路に相談はしたけど、来てくれなんて言ってないよな」

 桜小路に光華学園について訊いたことが運の尽きだった。

 根掘り葉掘り訊かれた結果が――今の状況である。

「放っておけないでしょ。『チーム異世界』としては」

『チーム異世界』とは、ある事件(・・)をきっかけで出会うことになった五人の繋がりをなくしたくないと思った薫子が結成したチームである。

 発足者かつリーダーは桜小路薫子で、由輝斗もそのメンバーに入っていた。

 無双流に入門した経緯からもそうだが異世界に興味はない由輝斗がなぜそんなチームに入っているかというと――きっかけとなった事件に桜小路を巻き込んでしまった罪悪感故である。

 ――まあ、今となっては慣れちまったところはあるが……

「……好きにしろよ」

「はい。好きにします。――それで、光華学園に通っている友達に聞きましたが、外出届は簡単にでないみたいですよ。――毎回書類を書いて、必ず、外出理由を書かされますし。その友達も遊びに行きたくて申請を出したことがあったけど受理はされなかったんですって」

「なんていうか……スゲえ学校だな。――まるで牢獄じゃねえか」

「そうですね。でも、そういったところが親御さん達は安心できるみたいです」

「なるほどなぁ……」

 と、由輝斗は校門前をじっと見ながら、桜小路に訊く。

「……なら、連日外出している生徒がいたとしたら?」

「……相当、学園に信頼されている、という事だと思います」

「ふーん。じゃあ、あいつはよっぽど、教師陣の覚えがいいんだろうな」

「え?」

 見ると光華学園の校門が開いていて、一人の女子生徒が出てきた。

「もしかして……あれが……御巫さん?」

「ああ」

 由輝斗はうなずく。

 まさか、こんなにもドンピシャのタイミングで出てきてくれるとは思わなかった。

「……もの凄い美人ですね……」

「そうか?」

 桜小路の言葉に、由輝斗は首をかしげる。

 詩穂美のことは子供の頃から知っているからか、そういう目で見れない。

「あいつなんかより、桜小路の方が可愛くないか?」

 それは、深く考えた一言ではなかった。

 素直に思ったことを言っただけだった。

「な、なに言っているんですか! 火撫さん。そういう冗談は絶対に言わないでくださいっ!」

 桜小路薫子は、顔を真っ赤にして怒っていた。

 ――な、なんで怒るんだ……理不尽すぎる……

 桜小路の顔が、単なる怒りで真っ赤になっているわけではないことを理解できていない由輝斗であった。


 詩穂美はどこかに向かって歩いているようだった。

 由輝斗と桜小路は、距離をとりながら気づかれないようについて行く。

 ――あいつ……

 詩穂美は、見覚えのある道を通っていた。

 嵐山高校へ向かう道だった。

 また、昨日と同じ道を通るつもりだろうか。

 ――昨日の今日でなにを考えてやがる……

 不良相手では、修行にもならないことはわかっているだろうに。

 ――藁にもすがりたいのか?

 無理だとわかっていても、可能性が低かったとしても、それしかできないのだろうか。

 事情を聞いた由輝斗には多少は理解できないことはないが……

 そろそろ嵐山高校の例の道へ着こうとした時。

 詩穂美の足が止まる。

「あのさ。いつまでその下手くそな尾行をするつもり?」

 やっぱり気づいていたか。

 しかし、こちらに視線を向けることは一度もしていないというのに、よくわかるものだ。

 諦めて、由輝斗と桜小路は詩穂美のところまで歩いて行く。

 詩穂美は振り返りこちらを見るとまず、驚いたような顔をして、桜小路の方を見た。

「どなた? ――嵐山高校って男子校よね?」

「さ、桜小路薫子です。どうもよろしくお願いします」

「よく見るとその制服、南城高校のものよね……」

 そして詩穂美は半眼で由輝斗の方を見て、

「カノジョ?」

「ちげーよ」

「そ、そうです! ち、違います。私たちは、同じグループに所属している仲間というか……」

「何言っているの?」

「火撫さんは、『チーム異世界』の仲間なんです」

「『チーム異世界』? それって……?」

「それはですね――」

 桜小路は意気揚々と『チーム異世界』について説明する。

 最初は困惑していた詩穂美だったが、メンバーの一人に黒崎櫂斗がいると聞いて一瞬、顔色が変わった。

 そして、なにか言いたげ由輝斗を見た。

 だが、それだけだった。

 ――まったく、頑固なやつだな……

 やれやれと思っていたところ――

「やっぱり来やがったか……」

 嵐山高校の生徒が、ぞろぞろと現れてきた。

 数十人はいるだろうか。

「よお、この前は、よくもやってくれたな」

「絶対に許さねえからな」

 先頭にいる二人には見覚えがあった。

 詩穂美に投げられた二人だった。

「あら……また会いましたね? なんだかフラフラしていますけど大丈夫ですか?」

 二人の姿は、ふらついていて立つのも覚束ないようだった。

 それはそうだろう。

 手加減はしただろうが、無双流の投げをアスファルトで喰らってしまったのだから、ただで済むはずがない。

「確かにいい女だな。――これは楽しみ(・・・)だ」

 後ろにいたリーダー格の男が言った。

 知った顔だった。

 三年の五十嵐いがらし健二けんじだった。

 確か、嵐山高校の四天王とか言われていたはずだ。

 身長は一九〇センチぐらいはあるだろうか。

 なかなか良い体格だが、阿久根ほどの肉の厚み(・・)はなかった。

 詩穂美は五十嵐を値踏みするように見て――小さく笑みを浮かべた。

 それは、獲物を見つけたことを喜ぶ、不敵な笑みに見えた。

「もしかして……あなたが、わたしと遊んで(・・・)くれるんですか?」

 詩穂美は丁寧な口調で言う。

「ああ。素直に受け入れてくれるのなら、痛い思いをしなくても済むぜ。それどころか、とっても気持ちよくさせてやるよ」

 五十嵐は下卑た笑みを浮かべた。

 そんな五十嵐を見て、さらに笑みを浮かべる。

「では、人気の無い場所(・・・・・・・)を行きませんか? 皆さん(・・・)で……」

 詩穂美の言葉に、歓声を上げる不良達。

 そんな不良達を見て、由輝斗は呆れ声で言った。

「こいつに関わるの、止めといた方がいいぜ」

 五十嵐はようやくこの場に由輝斗がいることに気づいたようだ。

「お前……火撫か。俺とやる気か? 一年坊の分際で」

「そんな気はねーよ。これはただの忠告だよ」

「くだらねえ。黙ってろ。――テメエはいずれ潰してやるからよ」

「……まっ、売られたケンカは買う(たち)だが……まあ、その機会はないだろうな……」

「ん? なに言っていやがる」

 五十嵐は怪訝な表情をするが、減らず口と思ったのか相手にせず、

「じゃあ、行くぞ」

「ええ、エスコートお願いします。――わたしは御巫詩穂美と申します。短い付き合い(・・・・・・)になると思いますが、どうぞよろしく」

「言うじゃねえか。気に入ったぜ。俺は五十嵐健二だ。――よろしく(・・・)な」

 五十嵐は不敵に笑った。

 その後すぐに、詩穂美は五十嵐ら不良連中と行ってしまった。

 残るは、由輝斗と桜小路だけだった。

 桜小路は恐る恐る、こちらを見た。

「あ、あの火撫さん……いいんですか? その……」

「まあ……心配だな」

「なら! 早く御巫さんを助けに行かないと!」

 桜小路の言葉に、由輝斗は肩をすくめて見せた。

「勘違いすんな。心配しているのは、御巫じゃねえ(・・・・・・)

「え」

「心配なのは……鼻の下を伸ばした野郎どもだな」

「……それって、どういう……」

「最近は、色々(・・)あるみてえだが、アイツは、あんな連中にやられるよなタマじゃねーってこった」

「そ、そうなんですか……信じられない……」

「それにしても、今日は様子見のつもりだったが……そういうわけにはいかなくなったな……」


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