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第一〇話 御巫詩穂美の憂鬱①

登場人物紹介

 火撫ほなで由輝斗ゆきと:櫂斗の幼なじみ。最近は、空手の師匠である叔父に再び稽古をつけてもらっている。不良高校として有名な嵐山高校に通っているが、自身は不良のつもりはない。『チーム異世界』メンバー。

 黒崎くろさき櫂斗かいと:主人公。異世界少年を自称し、自分が異世界に召喚されることを信じて疑わないバカ。無双流の使い手。『チーム異世界』メンバー。

 少年が歩いている。

 真紅の髪が印象的な少年だ。

 火撫(ほなで)由輝斗(ゆきと)である。

 由輝斗は、空手の稽古を終えた所だった。

 あの時(・・・)から、放課後、空手の師匠である叔父の家に行き、稽古を受けるのが日課になっていた。

 櫂斗と一対一(タイマン)をすることで、己の未熟さを知った由輝斗は改めて、一度辞めていた空手と向き合うことにしたのだ。

 稽古の日々は、由輝斗に充実感を与えていた。

 不良相手に、喧嘩をしていた頃にはなかったものだ。

 そしてもう一つ、由輝斗をさらに充実たらしめるものが、これから向かっている場所である。

 櫂斗の家にある道場である。

 最近は、そこで櫂斗と組手をしていた。

 今の自分が櫂斗と互角にやれるわけもなく、やられっぱなしではあるが、とてもいい経験を積めていた。

 日々、強くなっている実感があった。

 それは、不良連中とケンカしていた頃には得られなかったものだ。

 ケンカ自体、正々堂々としたものであれば嫌いではない。

 だが、櫂斗との組手はそれを上回る充実感だった。

 だからこそ、こうして毎日のように櫂斗と組手をするべく櫂斗の家に通っているのだ。

 ――今日こそは一発ぐらいクリーンヒットさせてえな……

 そんなことを思いながら歩いていると、目の前で制服姿の少女が歩いている事に気づいた。

 ――こんな所に女一人歩いているなんて珍しいな……

 この辺りは、不良高校として有名な嵐山高校が近いため、あまり治安がいいとは言えず、女子が一人歩きするような場所ではなかった。

 実際、周囲を見渡すと嵐山高校の生徒がたむろしている。

 ――まったくよ、こういう連中がいるから、嵐山高校(ウチ)のイメージが悪くなるんだよなぁ。

 同じ嵐山高校の生徒である由輝斗は胸中で毒づく。

 単に降りかかる火の粉を払っているだけで、不良のつもりは毛頭ない由輝斗にとって迷惑でしかなかった。

 だったら、嵐山高校など行かなければ良かったのにと言われるかもしれないが、残念ながら由輝斗の学力で行ける高校が、嵐山高校(ここ)しかなかったのだ。

 そんな嵐山高校の近くを他校の生徒――特に女子生徒を見かける事は皆無だった。

 ――しかもあの女の制服って……

 少女が着ているライトグレーのブレザーに見覚えがあった。

 お嬢様学校として有名な光華学園の制服だ。

 光華学園も嵐山高校と同じ市内ではあるが、それなりに距離は離れているので、これまで見かけたことはなかった。

 そもそも光華学園は全寮制で、外に出てくることは滅多にないらしいし。

 嵐山高校の不良連中は、そんな少女に対して、興味深そうな視線を向けている。

 粘着質の不快な視線だ。

 少女は、そんな視線を意に介すことをせず、堂々と歩いていた。

 だが、少女がいくら無視しようと、絡んでくる奴はいる。

「よう。俺らと遊ぼうぜ」

「光華学園のお嬢様がこんなところに来ているんだ。俺らと遊びたかったんだろ?」

 二人組の男が、少女に絡んできた。

 由輝斗と同じ嵐山高校の生徒だ。

 男達は下卑た笑みを浮かべ、挟み込むように少女の両隣に来た。

 逃がさないためだろう。

 だが、少女はそんな二人を無視していた。

 横を向くこともせず、まっすぐ歩く。

 それは、二人を挑発しているようにも見えた。

 ――度胸はあるんだな。だが、それは悪手だろ。

 由輝斗は胸中でひとりごちる。

 こういう手合いは、プライドを逆なでせず、適当にあしらえれば、何となる場合が多い。

 だが、こんな態度をとっていれば、男達も後には引けなくなる。

「おい!」

 男の一人が乱暴に少女の肩を掴む。

 さすがに、少女の歩みは止まる。

 そして、少女は肩を掴んだ男を見る。

「なにかご用でしょうか?」

 少女はようやく答えた。

 少女の横顔を見ると、この状況で顔色ひとつ変えていなかった。

 この状況を理解していないのか、理解してなお、平然としているのか。

 どちらにせよ、普通ではない反応だ。

 さらに由輝斗には気になることがあった。

 改めて少女を見る。

 襟首まで艶やかな黒髪に、端整な顔立ちは、さっきの不良どもが思わず声をかけてしまいたくなるのも納得の美少女だった。

 見た目だけ(・・)ならお嬢様と言われても納得だ。

 だが――由輝斗は少女を見て、なにか違和感を感じていた。

 ――なんか、見覚えがあるような気がするんだよなぁ……

 だが、お嬢様学校の生徒に知り合いなんていない。

 気のせいだろう。

「…………ん?」

 あまりに堂々とした態度に、男は怪訝な表情を浮かべるが、すぐに気を取り直して、続けた。

「言っただろ? 俺たちと遊ぼうぜ」

「……遊ぶとは?」

 少女は、首を傾げて見せた。

 この状況に至っても、平然としていた。

「そりゃあもう、楽しい遊びさ。楽しすぎて気持ちよくなっちまうぐらいだ」

 男は下卑た笑みを浮かべている。

「そうなんですか?」

「そうさ、保証するぜ」

 男はますます下品さを増した顔で、少女の全身を舐めるように見た。

 それは、無関係な由輝斗をも不快にさせるような視線だ。

 ――あいつら……

 ああいう連中がいるから、嵐山高校のイメージがますます下がってしまう。

 さすがに、放っておけない、と思ったその時。

 少女は、ゆったりとした動きで、肩を掴んでいる男の手を取った。

 それは、あまりにも自然な動きだった。

 男は、手を掴まれたので反射的に腕を引く。

 少女は、その引く力に逆らわず、一歩前に出た。

 そして――

 気づいたときには、男は宙を舞っていた。

 男は、そのまま背中からアスファルトの地面に叩き付けられる。

 男は、呼吸もできなくなっているか呻いていた。

 見事な投げだった。

 もう一人の男は状況が理解できず、固まっていた。

「わたし、あなた方のような男性はまったくタイプではないんです。肩を触られて気持ち悪くて仕方なかったので、反射的に投げてしまいました。ごめんなさいね」

 少女は丁寧な口調だが、ほとんど挑発するような物言いだった。

 残った一人の男が硬直から解けたようで、叫ぶ。

「このアマぁ! 調子に乗りやがって!」

 男は少女に掴みかかろうとする。

 一八〇センチ以上ありそうな男が掴みかかろうとしているというのに、少女は一切動じなかった。

「はぁ……まったく……」

 なぜか少女はがっかりしたようにため息をつくと、わずかに身体をそらすだけで男の突進をかわした躱した。

「うぉっ」

 そして、そのまま右足で足をひっかけて、男のバランスを崩した。

 男は倒れ込みそうになる。

 即座に少女は、そんな男の腕を取り――

 男がくるりと一回転し、またもや背中から地面に叩きつけられた。

 男は悶絶していた。

 ――マジかよ……

 由輝斗は驚愕した。

 あっさりと二人の男を投げ飛ばしてしまった。

 どちらも、相手の力を利用した、見事な投げだった。

 すさまじい技量の持ち主だった。

「くぅ……」

「いてぇ……」

 男達は二人とも硬いアスファルトに背中を叩きつけられ、息をするのも苦しそうだ。

 ――ありゃ、しばらく動けないな……

 少女は、そんな二人を一瞥すると、今度は由輝斗の方に視線を向けた。

「あなたもかな?」

「え? いや、ちょっと待てよ」

 助けに入ったつもりなのに、不良連中の仲間扱いにされてしまったようだ。

 不本意この上ない。

「じゃあ……」

 そんな由輝斗の思いなど関係なく、少女は近づいてくる。

 ――掴まれたらやばい!

 由輝斗は反射的に後ろに飛び、距離をとった。

 そして、構えをとる。

 いや、少女の圧に、構えさせられた(・・・・・・・)と言っていい。

「へぇ……」

 少女は驚きの声を漏らした。

 ――あぶねえ……

 由輝斗は大きく息を吐いた。

 あのまま掴まれていたら、地面で倒れている不良達と同じ目に遭うところだった。

「あなた……なかなかやりますね……ちょうどいい(・・・・・・)相手になりそうです」

「いや、ちょっと待てって」

「待たない」

 問答無用とばかりに少女は、距離を一気に詰めてきた。

 先ほどの(わざ)の冴えを考えると、絶対に掴まれるわけにはいかない。

 由輝斗は、再び距離を取るべく、後ろに飛びすさろうとした。

 が――

 何故かこの攻めに対して、既視感を感じた。

 ――いや……後ろに下がるのはまずい!

 直感で、由輝斗は、ぐいと前に出る。

「――っ!」

 由輝斗の意外な動きに、少女が一瞬固まる。

「はっ!」

 由輝斗は渾身の正拳突きを打つ。

 手加減無しの一撃だった。

 そうしなければ、こちらがやられる、と思ったからだ。

 由輝斗が相手をしているこの少女は――そういうレベル(・・・・・・・)の相手だった。

「へぇ……」

 少女は驚きつつも、渾身の突きを左手で軽くさばく。

 ――オレの突きを容易く……なんて女だ。

 少女は、間髪を入れず、右の掌底を顎めがけて打ってきた。

「くっ」

 由輝斗はなんとか反応して、身体を反らすことで、掌底を躱した。

 ――あ、あぶねえ……

 あわてて距離をとる。

 少女は、追撃をしてこなかった。

「…………あなた、本当にやりますね。ただの不良じゃないです」

 少女は感心したように言った。

「オレは不良じゃねえよ」

「そうなの? あなた嵐山高校の生徒じゃないですか? あそこの学校はほとんど不良と聞いていますが?」

 由輝斗が着ている制服を見て、少女は言う。

「……それは否定しづらいところはあるが……オレは違うんだよ」

「そうなんですか?」

「オレはあんたとやる気なんかないぜ。むしろ、絡まれているあんたを助けようかと思ってたぐらいなんだからよ」

「……本当ですか?」

「ああ。……もっとも、あんたにはそんな必要もなかったみたいだがな」

 言いながら、少女の方を見る。

 息ひとつ切らしていない。

 その立ち姿から、ただ者ではない雰囲気(・・・)があった。

 ごく普通に立っているだけだというのに、見えない圧力のようなものを感じていた。

 ――なるほど……

 由輝斗はようやく理解(・・)した。

「……あんた、わざと絡まれようとしただろ?」

「…………どうしてそう思うんですか?」

 少女は、こちらを値踏みするような視線を向けた。

「まず、こんな治安の悪いところをわざわざ歩いていること自体が普通じゃないよな」

「そうでしょうか?」

「そうさ。悲しいかな、この道は、嵐山高校がすぐ近くにあるせいで、治安最悪だからな。――他の学校の生徒なんてまず通らない。ましてや、光華学園のお嬢様なんて尚更な。ここを通るとすれば、わざわざ絡まれたいような変わり者しかいない。あんたのようにな」

「……………………」

 少女は答えなかった。

 由輝斗は顎に手を当てて思案する。

「しかし…………不良とケンカしたがるなんて、どんな理由だろうな。ボコって気持ちよくなりたい? あんたの実力なら可能だが…………あいつらをぶん投げたときは、楽しんでいる感じはしなかった。むしろ、がっかりしていたように見えた。――そうなると……求めていたのは……」

「…………」

闘いそのもの(・・・・・)か。それも、強い奴との」

「…………あなた……」

 少女は驚いた表情を見せていた。

 少女は、由輝斗のことをまっすぐに見ていた。

 先ほどまでは、その他大勢としか由輝斗のことを認識していなかったようだが、ようやく見てくれた(・・・・)

「どうやら図星のようだな。――つまりはそこでぶっ倒れている連中は、あんたのお眼鏡には叶わなかったってところか」

「……確かにあの二人は闘うまでもない相手でした。不良と言ってもあの程度なんですね」

「ふーん。その言い方からすると、ここに来るのは初めてのようだな」

「そうです。今日のホームルームで先生からこの辺りには近づくな(・・・・)と教えてもらったんで。――でも、期待はずれでしたね」

「おいおい」

「でも、あなたは例外です。なかなかやりますね。まさか、あそこで下がらずに前に出てくるとは思わなかったです」

 それは、少女が一気に距離を詰めて来た時のことだろう。

 実際、由輝斗は最初は下がって距離をとろうと思っていた。

 だが、その時、思い出すものがあったのだ。

 このまま下がるのは危険だ、と。

 一瞬の内にそれを判断し、由輝斗は逆に前に出て、攻めに転じたのだ。

「ちょっとな……」

 その時は前に出た理由ははっきとわからなかったが、今ならわかる。

「最近、同じような攻めをくらって、痛い目にあったことがあってな」

 それは、櫂斗との組手でのことだ。

 ほぼ同じ攻めを櫂斗に受け、反射的に後ろに下がってしまい、あっさりやられてしまったのだ。

 ――そうか。そういうことか。

 由輝斗はようやく気づいた。

 どうして少女の動きに既視感を感じたか、を。

「あんたのそれ、無双流(・・・)か?」

 少女は明らかに表情が変わった。

 ――そうか、そういうことか……

 見覚えがあるわけだ

 見事な投げ技に、苛烈な攻め。

 櫂斗との組手で散々見ているものではないか。

「あなた、何者? どうして無双流のことを知っているんですか?」

 少女は眉をひそめ、こちらを見た。

「最近、無双流の道場で組手をさせてもらっていてな」

 由輝斗は素直に答える。

 別に隠すようなことでもないからだ。

「嘘です」

 少女は納得しないようだった。

「嘘じゃねえよ」

 本当に嘘ではないので、そう答える。

「信じられない」

 少女は、首を振る。

「無双流は表に看板を出しているような流派ではないです。普通の人は名前を知ることすらかないません。あなたのような不良が組手をさせてもらえるはずがないです」

「だからオレは不良じゃねーって。――まあ、組手をさせてもらえるのは幼なじみ故だけどな」

 少女の言い分はわからないでもない。

 無双流というのは、櫂斗の祖父である源斎が自ら興した流派だ。

 源斎は、元は、森内流という古流柔術の師範代だったそうだが、『ある事』をきっかけに森内流から距離を置き、無双流を興したのだそうだ。

 その『ある事』というのが、『異世界に行った』などという与太話(・・・)なのだが、信じているのは孫の櫂斗ぐらいなものだろう。

 そんな無双流ではあるが、知名度はゼロと言っていい。

 自宅の離れに道場を作っただけで、喧伝などしていなかった。

 門下生を募集などしておらず、無双流の存在を知ることは困難だった。

 櫂斗の幼なじみというコネ(・・)がなければ、由輝斗も知ることはなかっただろう。

 だが、無双流の門下生といえば、櫂斗と再会していないもう一人の幼なじみ(・・・・・・・・・)しかいないはずだが、この少女は何者だろう。

「幼なじみ?」

 少女は、怪訝な表情でしばらく由輝斗のことを凝視していると――なにかに気づいたようだ。

「なるほどね……ようやく理解した」

 少女は納得したようにつぶやいた。

「なんだよ」

 櫂斗が言うと、少女は軽く嘆息した。

「……髪の毛が赤くなっていたから、気づかなかったけど。あなた、火撫よね?」

 少女の口調は先程までとすっかり変わってフランクなものになっていた。

 こちらが素の状態なのだろうか。

「……オレを知っているのか?」

 戸惑いつつ、由輝斗が訊くと、

「覚えていないの? わたしもアンタのことは幼なじみと思っていたんだけど。――詩穂美(しほみ)よ。御巫(みかなぎ)詩穂美」

「えっ?、御巫?」

 まさかの名前を聞き、驚く

 改めて少女――御巫詩穂美を見る。

「な、なんだって! お前、御巫なのか!」

 思いもしなかった名前を聞き、由輝斗は驚愕していた。

 ――ほんとに、御巫なのか……?

「なんでわからないのよ」

「いや、だってよ……あの頃のお前って、こんな女みたいな格好してなかったし……」

「そうだったっけ?」

 少女――御巫詩穂美は、黒崎櫂斗の幼なじみであり、火撫由輝斗の幼なじみでもあった。

 だが、同じ幼なじみと言ってもつきあいの長さに差があった。

 詩穂美と櫂斗は物心ついてからの長いつきあいの幼なじみだった。

 対して由輝斗は、詩穂美にせよ、櫂斗にせよ小学校高学年からのつきあいだ。

 とはいえ、由輝斗が詩穂美に気づけなかったのはつきあいの長さの違いではない。

 当時の詩穂美は、髪はもっと短く、格好も男子みたいであまり女子という感じがしていなかった。

 髪も伸び、お嬢様学校の制服を着ている今の詩穂美を見て、思い出せるはずもなかった。

「そうか。懐かしいな。たぶん、小学校以来か?」

「そうね。あなた、無双流に入門を拒否されたとか言って道場に来なくなったから」

「うっ……」

 痛いところを突かれる。

 無双流に入門する条件として、『異世界好き』であることと言われ、バカにされたと思い、入門をあっさり諦めたのだ。

 だが、最近になって、それを本気(・・)で言っていたことを知った。

「……そうだな。まったく、オレもバカだったな……」

 まさか無双流にいる連中全員が『異世界バカ』だったとは。

 信じられるはずもない。

 だが、先日の事件でその片鱗を見せられて、本気さを知ることになった。

「あなた……今は無双流の道場に通っているの?」

「ああ、無双流に入門をしてはいないが、たまに組手をさせてもらっているんだ」

「そうなんだ」

「そういえば、結構、道場に通っているのに、御巫のことを見たことなかったな」

 そう、詩穂美も無双流の門下生なのである。

 しかも入門時期は、櫂斗と同時期。

 物心ついた頃だ。

 つまりなにが言いたいかというと――

 詩穂美も、かなりの『異世界バカ』なのである。

 本気で異世界に行こうとする輩なのだ。

「そうだ。ちょうどこれから、櫂斗んちの道場で組手するんだけど、御巫も来いよ? せっかくなら、御巫とも組手したいしな。――お前だって、櫂斗みたいに異世界行くの目指してるんだよな? こんな不良達をいたぶるより、櫂斗と組手した方が有意義だろ?」

「行かない」

 詩穂美は完全に拒絶するような口調だった。

「は? どうしてだよ」

 まさかの反応に由輝斗は困惑する。

 詩穂美は、こちらをにらむように見て、続ける。

「見てわからない? わたしはあの(・・)光華学園に通っているのよ」

「だからなんだよ」

「光華学園は全寮制で、今は外出届を出して特別に外出しているの。道場なんて言っている暇はないの」

「そ、そうか……」

 その理由は妥当だとは思う。

 だが、道場へ行かない理由がそれだけなのだろうか。

 違和感があった。

 だが、再開したばかりの幼なじみ相手に、それ以上踏み込む気はなかった。

「話はそれだけ?」

「ああ」

「じゃあ、わたしはもう行くから」

 詩穂美は、由輝斗に背を向けて、歩き出した。

「…………」

 由輝斗はわけもわからず、見ていることしかできなかった。

 と――

 詩穂美は足を止めると、鋭い視線をこちらに向け、言いはなった。

「わたし、異世界なんて(・・・・・・)、興味ないから」

 それだけ言うと、詩穂美はそのまま歩き去ってしまった。

「……なんだ? あいつ……」

 どうしてあんな物言いになるのかわからず、首を傾げる由輝斗だった。


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