表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
未来に向って
91/91

そして夜明け

「行くぞ、すぐに出る!」

バン! とチェイザレが扉を開けたのはセリアの部屋だ。


「きゃあああ!」

悲鳴をあげたのはセリアではなく、モードリンである。

セリアとモードリンは、母親のケイトリアも惹き込んで、女子会をしていたのだ。

ユージェニーの戴冠を終え、久しぶりに集まる家族が寛いでいるところに、顔を腫らしたチェイザレが突入して来たのだ。


モードリンの悲鳴に護衛だけでなく、アンセルムとユージェニーまでが駆け付けてきた。

どうやら、モードリン達から追い出されたアンセルムとユージェニーは、二人で近くの部屋で飲んでいたらしい。


「女性の部屋にノックもなしに入ってくるなんて、最低!」

ツカツカ、とセリアが拳を振り上げると、チェイザレの腫れていない方の頬を殴った。

セリアの拳骨(げんこつ)などたいしたダメージにならないが、ショックは大きかったらしい。

チェイザレは、殴られた頬を押さえて放心している。

現場を見たアンセルムとユージェニーも同様である。

令嬢であるセリアが、拳骨で男を殴った


最初に立ち直ったのは、ユージェニーである。

「妹がすまない・・」

セリアに睨まれて、ユージェニーは言い直す。

「女性の部屋に押し入ったのだ、殴られて当然と・・」


チェイザレが周りを見れば、アンセルムは上着をモードリンに着せているし、ユージェニーはケイトリアに付き添っている。

「ああ、悪い事をした」

今度は額に手を当てて、チェイザレが落ち込んだ。

セリアしかいないと思い込んでいたし、第一、女性の部屋を訪ねる時間ではない。


「それで、どうして急いでたのですか?」

セリアは、いまさら気づいたようで、チェイザレの腫れている頬をしげしげと見る。


「いや、夜中にレディの部屋に来るほどの用ではない。

すぐに出立しようと思ったのだが、セリアは家族との別れがあるのを考えてなかった」

チェイザレが目を細めて、セリア達を見る。

仲のいい家族というのだろう。

自分の生まれ育った王家とは、違う。


「明日、出立するのね。今夜は、お姉さまとお母様と一緒に寝るの。

チェイザレも、ゆっくり休んだ方がいいと思う」

セリアは、チェイザレの腫れた頬を指さした。


セリアとチェイザレの様子を見ている、アンセルムとユージェニーは言葉にしないが、同じことを思っていた。

完全にセリアに転がされている。



翌朝、陽が登る前にセリアとチェイザレはレプセントの館を出た。

「いいのか?」

チェイザレがセリアに確認すると、セリアは微笑む。

「ちゃんと、お別れはしたから。

それより、昨日から気になってたのだけど、その傷はどうされたの?」

チェイザレの頬の腫れは、一晩で色が紫色に変わっていた。


「ああ、兄上も同じぐらいの怪我をしたから引き分けだな」

セリアの答えにはなっていないが、シェルステン王太子と何かあったと分かる。


「ルドルフは?」

いつも一緒のルドルフが同行していないことに、セリアは不審に思う。


「俺達の邪魔はしたくない、だと。

どこかに落ち着いたら、来ることになっている」

大袈裟に両手を広げてチェイザレがおどければ、セリアが笑う。

「私がずっと一緒にいるから」


「そうだな。行くか」

チェイザレがセリアに(うなが)すと、セリアは頷く。

「ええ」


セリアが馬の腹を蹴れば、馬は元気よく駆け出した。

その後を、チェイザレが追う。


朝陽が登って来て、二人を照らし出した。

レプセントの館が朝陽に輝くのを、二人は振り返らない。


モードリンとアンセルムの結婚式にガイザーン帝国に行くまで、セリアとチェイザレは目的のない旅をする。

イグデニエル王国を逃げ出した時もチェイザレと一緒だった。

これからも、一緒だ。


だんだん陽が登り、陽の当たる背中が温かい。

隣をみれば、チェイザレが馬を駆っている。

この先は、どんな国があるのだろう。期待で胸が膨らむ。

セリアは口元が緩むのを感じて、馬のスピードを速めた。


これで完結となります。

こんなに長くなると、violet自身が思ってませんでした。

最後まで書けたのも、読者の皆様のおかげです。

楽しんでいただけたなら、嬉しいです。

ここまで、読んでいただき、ありがとうございました。

violet

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 読み始めたら止まらないくらい物語に引き込まれて、半日で読んでしまいました。 壮大な長編映画を見た後のような心地好い余韻に浸っています。 violet様の他の作品もいつも楽しく読ませていただ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ