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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
未来に向って
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レプセント公国

「母上は、父上の墓か?」

ユージェニーは護衛の一人に尋ねると、肯定する答えが返ってくる。


ケイトリアがガイザーン帝国から戻ってきた時も驚いた。実家であるガイザーン帝国のメルデルエ公爵家で、余生を過ごすだろうと思っていた。

豊かな領地ではあるが、魔獣の生息地があり、娘二人がガイザーン帝国にいるのだ。

お姫様育ちのケイトリアがレプセントを選ぶとは、思ってもなかった。


ケイトリアはレプセントの屋敷で、出迎えのユージェニーに問うたのだ。

「閣下は?ジェイコム様は?遺骨が戻ってきていると聞いたわ」

「父上は埋葬しました」

「ユージェニー、連れて行ってちょうだい」


ケイトリアは前レプセント辺境侯爵の墓石に(すが)りついて泣いたのだ。

その姿に、ユージェニーは衝撃を受けた。

父は母を愛していたが、母はそのように見受けられなかった。

口数も少なく淡々とした人で、子供は乳母任せ、領地経営に(たずさ)わることなく、かといって社交に重きを置くこともなく、美しい人形のような人だと思っていたからだ。


それから毎日、墓で過ごしている。

母なりに父を愛していたのだろう。

ユージェニーは、父親が死んだ時の状況をモードリンから報告を受けていた。

それをケイトリアに伝えると、静かに微笑んだのだ。

「閣下は、モードリンを守れて満足されたと思うわ」



戴冠式の前日には、賓客の多くが到着して屋敷に滞在した。

ケイトリア、ユージェニー、モードリン、セリアのレプセント家とその婚約者たちが揃って墓前に集った。


「お父様守ってくださって、ありがとうございました」

モードリンが葬式ができなかった父の墓に花を添える。

「ごめんなさい、お父様の亡骸が(さら)されているのが我慢できなくって火をつけたの。

でも、奪い取る事はできなかった」

唇を噛み締めながらセリアが花を添えれば、ユージェニーが頭をなでる。

「よくやってくれたな。父上を荼毘(だび)にすることが出来た」

そして、シェラドール公爵が前レプセント辺境侯爵の遺骨を回収してくれたから、ここにあるのだ。

バレンティーナとユージェニーは何度もここに来ているので、花だけ添える。

チェイザレとアンセルムが故人に挨拶をして、一行は墓を後にした。


翌朝には、母親から爵位を継いだブラウン・シェラドール公爵がエルモンド・イグデニエル王太子と共に到着した。

すぐに戴冠式が始まる時間になる。

ユージェニーの支度が終わり私室を出ると、廊下には美しく着飾った母と妹二人が待っていた。

「レプセント王の即位をお祝い申し上げます」

母が言うと、妹二人がロイヤルカーテシーをして深く頭を下げる。


「ありがとう」

ユージェニーの言葉で、モードリンとセリアが顔をあげカーテシーを終える。

ユージェニーが廊下の奥に消えるのを見て、母娘は聖堂に向かう。

そこには、アンセルムとチェイザレ、バレンティーナが待っている。


たくさんの客の中を、ユージェニーが教会の絨毯の上を歩む。

正面には大司教が待っていて、祝福の言葉と建国の承認、戴冠の儀式が始まる。


いろいろな事があった。頭の中を走馬灯のように思い出が(よみが)る。

辛い事が多かった。

うれし涙だけでない涙が頬をつたって、モードリンの睫毛が揺れる。

美しい。

周りの誰もが見惚れていた。

アンセルムは、モードリンの手を握ると指を絡める。


そんな様子を、エルモンドが見ていた。

失くしてしまった、初恋の美しい女性。

魔が差した、そして大切な者を苦しめた。

もう一度、手にしたいと思ったんだ。

戦場でただ一度会いまみえた男は、ガイザーン帝国の皇太子。

取り戻せない、と分かっていても目が追ってしまう。

モードリン、君は永遠に美しい。

戦禍が残る国を立て直すために、王の権力を奪われた傀儡の王になるしかない。

だけど、今だけは君を見つめていたい。


メイリーンが目的をもって近づいてきたとはいえ、それに気を許し麻薬を盛られる関係になったのはエルモンド自身の責です。麻薬に操られていてもモードリンに執着したエルモンドも、離れた場所から見つめることしか出来ませんでした。

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