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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
未来に向って
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アンセルムの決断

セリアとチェイザレが乗った馬車が襲われた。

その報を聞き、ガイザーン皇帝は片眉をあげた。

チェイザレがシェルステン王国の王子であることは、外交問題になりえる。


犯行を指示した人物は、チェイザレが他国で隠密行動ができる腕前だと分かっていなかったらしい。

チェイザレとセリアが皇宮を出るのを知ることが出来る人物で、即座に賊に指示が事が出来る人物となると限られてくる。

だが、実行犯は返り討ちに会い、生かしているのをメルデルエ公爵邸に連れ帰ったようだ。


「陛下、私がメルデルエ公爵邸に参ります。実行犯を引き取ってまいります。

それに、これを知ったらモードリンがセリア嬢を心配するでしょう」

一緒に報告を聞いているアンセルムが前に出た。


「しばらくメルデルエ公爵家に居る方が安全だろう」

皇帝はモードリンをメルデルエ公爵家に預けるように言っている。

実行犯を皇宮に連れて来るのは、指示した者に繋がる情報を得るためだ。皇宮は騒々しくなるのは間違いない。

アンセルムは皇帝に頭を下げると、モードリンの部屋に向かう。


戦勝会はまだ続いていたが、王家もさがり、お客の多くが帰っていた。

そんな中で届いた報告だったので、皇帝とアンセルムが執務室で受けたのだ。


モードリンの部屋に着くと、侍女に居間に通されるがモードリンはいない。ドレスを着替えているらしい。

「急用だとモードリンに伝えてくれ」

アンセルムの声が聞こえたのか、ドレスルームからモードリンが飛びだしてきた。

祝勝会のドレスは脱いでいて、湯浴みしようとした所にアンセルムが来たので、慌ててラフなドレスを着たようだ。

「急用とは、どうされましたか?」

モードリンがアンセルムの前に座ろうとして、動きが止まった。

「セリア嬢が帰り道で襲われた」

「セリアは?」

顔色を悪くしたモードリンの手をアンセルムが取る。

「大丈夫だ。すぐにメルデルエ公爵邸に行くぞ」

すでに歩き始めるアンセルムとモードリンに、侍女が追いかけてきて外套をかける。


用意されていた馬車に乗ると、アンセルムはモードリンの横に座り肩を抱く。

「しばらくメルデルエ公爵邸にいて、セリア嬢と過ごすといい。荷物は後で届けさせよう。

私は実行犯を軍部に連れて行くから」

モードリンはアンセルムを横目で見て、頭をアンセルムの肩にあずける。


何かある、と感じる。

けれど、セリアもいつまでもガイザーン帝国にいる訳ではないだろうと思うと、モードリンはメルデルエ公爵邸に滞在できるのは嬉しい。


間もなくメルデルエ公爵邸に着いたが、皇宮から長い距離ではない。

この僅かな間に賊を仕掛けるなど、犯人が焦っている証拠だ。手がかりを残しているかもしれない。

馬車を降りるモードリンに手を出しながら、アンセルムは犯人の事を考えていた。

それでも実の母だ。どんなに考えても、違う道はない。


「セリア、大丈夫なの?」

メルデルエ公爵邸のサロンでセリアとモードリンが抱き合う。さっき、皇宮の線教会で別れたばかりなのに、状況は大きく動いていた。


サロンの片隅では、アンセルム、チェイザレ、メルデルエ公爵、ハンセンが話していた。

「では、賊は引き取らせてもらう」

アンセルムが言うと、反対を唱える者はいない。


「僕は同行させてください。他国の王子であるチェイザレ殿下は軍部にお連れするわけにはまいりません。殿下とドワルガー卿がセリア嬢とモードリン嬢を屋敷で守っていただくと心強いです」

ハンセンが申し出れば、チェイザレとルドルフも分かっている。


アンセルムと一緒に来た騎士が、実行犯を連行する。

軍部の牢では準備が整っていて、すぐに拷問が始まる。


「うわぁぁあ!」

チェイザレに斬られた傷に(むち)が打たれる。

牢に男の悲鳴が響きわたる。

「お前が拷問されようが、指示した者は安全なところにいるんだろうな」

騎士が(ささや)くように、実行犯に語る。

その正面にはアンセルム、ハンセン、イリオスが座って見ている。

熱湯が実行犯にかけられ、何度目かの悲鳴があがる。


「レーダン商会・・」

男の口から名前が出る。

「俺達はそこから集められて仕事をする。今回もだ」


レーダン商会、皇妃が贔屓にしていて、皇宮に出入りしている商会だ。

「直ぐにレーダン商会に向かえ。捜査して怪しい物は押収しろ!」

王太子の言葉に軍が動く。


そして、商会の建物に隠し通路を見つけた事で、事態は急変した。地下通路で繋がった館には、皇妃の宝石の注文書や依頼書に紛れて、皇妃の筆跡の指示書があった。

対立貴族の暗殺指示書や契約書が出てきたのだ。

そこに名前を書かれてある貴族の多くが、不審死で亡くなっている。



皇帝に呼ばれて皇妃が見たのは、蔑んだ目つきの皇帝と二人の皇子だった。

「皇妃」

皇帝は名前すら呼ばない、地位で呼ぶだけだ。

「残念だよ。皇妃に相応(ふさわ)しいと思っていたのに、皇族として相応しくなかった」

皇妃の足元に投げられたのは、レーダン商会から回収した書類のいくつかだ。

それを見た皇妃の顔色が変わる。


「母上、違いますよね!?」

イリオスは、皇妃に駆け寄ろうとしてアンセルムに止められる。


「アンセルム、私は貴方の為に」

皇妃が名前を呼ぶも、アンセルムは答えない。

「アンセルム、アンセルム!」


皇帝は側に控えている騎士を見ると、

「連れていけ」

それは命令だった。


「陛下」

皇妃は何度も皇帝と皇太子の名前を呼んだが、騎士達に拘束され、謁見室から連れ出された。

最後まで、イリオスの名前は出て来なかった。


皇妃が連れていかれたのは私室ではない、牢だ。

皇妃として軟禁するのではなく、囚人となったのだ。


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