ガイザーン皇妃
イリオスは、ただひたすら願っていた。
どうか、何も起こらないように、自分の手で皇妃を断罪することのないようにと。
皇妃はガイザーン帝国の公爵令嬢として育ち、子供の頃からケイトリアと比べられてきたのだ。
美しく周りから大事にされ過ぎたケイトリアが大人しい性格に比べ、皇妃は外国語や教養を深め活発に社交をした。
当時皇太子だった現皇帝と婚約したが、皇太子はケイトリアに執心であった。
ケイトリアが他国に嫁いだが、皇妃にはケイトリアが憎き女として残り続けたのだ。
皇帝と皇太子は、皇妃が改心することがないのを分かっていた。
イリオスの実母以外にも、皇妃が関係したと噂される令嬢の死がいくつかあるからだ。
皇宮からメルデルエ公爵邸に向かう馬車が出て行った。
戦勝会は続いていたが、セリアを休ませる為に抜け出したのだ。
馬車の中でセリアはずっと泣いていた。
「どうしたのだ?」
ハンセンがセリアを覗き込むように尋ねる。
「嬉しいのです。お姉さまが幸せそうな姿を見れて」
それ以上は言葉に出来ず、チェイザレにもたれて泣き続けるセリア。
ハンセンもチェイザレも事情を知っているだけに、思い切り泣かせてやろうと思う。
モードリン・レプセント。
イグデニエル王太子の婚約者でありながら、王太子毒殺未遂の犯人として幽閉された。
冤罪であっても死を覚悟したろう。
そして自分を逃がすために盾となった父親の死。
王家から逃れる為に、ユージェニー・レプセントは、セリアとケイトリアを逃がした。
お互いの生存が分からない状態で、二度と会えないことも考えたに違いない。
その妹が姉の幸せな姿が嬉しくて泣いている。
こんな幸せな夜に、無粋なことは出来ない。
ガッタン!!
馬車が大きく揺れて、外から大勢の声がする。
皇宮からメルデルエ公爵邸まで、遠い距離ではないし、皇都を走ってるのだ。
チェイザレとハンセンは剣を手に持ち、扉に近寄る。
走っている馬車から飛び出すのは危険だが、馬車が襲撃を受けているのは間違いないのだ。
「セリア、絶対に出てくるなよ」
チェイザレは扉を開けると、走っている馬車から飛び降りた。
ハンセンは馬車に残ってセリアを守ろうとしている。
馬に乗って護衛しているルドルフが賊と打ち合っている。
ルドルフは賊に駆け寄ると剣を振り上げる。賊を討ち取るとその馬を゙奪った。
「チェイザレ、コイツら女を探している!」
ルドルフが駆け寄ってきて、男達
の情報を伝える。
「セリアか!?」
「だろうな」
手練れの男達であったが、ルドルフとチェイザレには及ばなかった。
ことごとく討ち取られ、情報を取るために二人の男は殺さないでメルデルエ公爵邸に連れ帰った。
そして、その男達がセリアの顔を゙傷つける指示を受けていた事を知る。
皇宮も御用達の商家の裏の顔が、彼らが依頼を受ける闇商会であることもわかった。
その後、アンセルムに情報と男が委ねられると、ガイザーン帝国軍による商家の捜査が行われれば、出てきたのは皇妃との繋がりだった。
皇妃は、ケイトリアの娘、セリアも顔を傷つけようとしたのだった。




