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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
未来に向って
83/91

戦勝会の夜

昨夜は寝落ちをしてしまい、投稿できませんでした。毎日投稿を目標にしてきたので、violet自身がガッカリしてます。

昨夜の更新を待っていてくださった方々、申し訳ありませんでした。なので、今日は文字数多めです。

昨日の分も、楽しんでくだされば嬉しいです。

「降ろして」

モードリンはまっすぐにアンセルムを見つめる。

小さく息を吐いて、アンセルムはモードリンを降ろした。モードリンの足が床に着く。


「私は、一緒に横を歩いて行きたい。」

かつての私は、イグデニエル王国の王太子妃となるべきだと思っていた。

そうあるべきだ、私しかいない、寄り添う努力している、と(おご)っていたのかもしれない。エルモンドの心に隙を作らせたのは、私も要因の一つかもしれない。

だからといって許す気はないけれど。

「だから、手を繫いでいて」

モードリンが手を差し出せば、アンセルムが破顔する。


「君の新しい一面を知るたびに、驚きと喜びがある」

アンセルムは、モードリンの手を握りしめる。

お互いに一目惚れをしたものの、結ばれることなく別れた。お互いを知らない事の方が多い。


そんな二人に近づいて来たのは、セリアとチェイザレである。

後ろに付いているのは、従兄であるメルデルエ公子ハンセンである。

「皇太子殿下、お姉さま、おめでとうございます」

セリアとモードリンが抱き合えば、大広間には感嘆のどよめきが起こる。

美しい姉妹に、周りは好意的である。

皇帝もそれを魅入るように見ている。


拳を握りしめたのは皇妃だ。

イリオスがそれに気づかないはずがない。昨夜、モードリンが突撃したことで、皇妃がケイトリアの呪縛から抜け出すのを願っていたが、皇帝を見る皇妃の姿は悲壮であった。

「陛下」

イリオスは、皇帝がレプセント姉妹を見ているのをやめさせようと声をかけた。


振り向いた皇帝が笑顔で、イリオスは何も言えなくなる。

「私には皇子だけだが、女の子がいたら華やかだったのだろうな」

皇帝の言葉に、皇妃の表情は変わらないが拳が震えている。


「母上」

イリオスは皇妃に近寄る。

「母上、お顔の色がすぐれません。休憩された方がいいでしょう」

皇妃の背に手を当て休憩室に向かおうとして、皇帝に許可を聞く。

「陛下、少し休憩室で休ませてきます」

それは誰かとは言わずに、イリオスは皇妃を連れ出そうとする。


「イリオス」

皇帝に名を呼ばれ、返事をする前に皇帝は続ける。

「私は、全て分かっている」


「僕もです」

イリオスは深く頷いて、皇妃を大広間から連れ出そうとして足を止めた。目の前に兄であるアンセルムが立っていたからだ。

「イリオス、悪いが頼む。私もすぐに行く」

アンセルムは皇妃の様子に気がついて、こちらに来たのだ。

昨夜のことはすでに連絡が入っている。モードリンの警備は万端である。

セリアとモードリンには、チェイザレとルドルフ、アンセルムの副官ファントマ・マーノンが付いている。ハンセン・メルデニエ公爵子息も警護のつもりで来ているのだろう。

モードリン付きの騎士となったシャードとゲーリックも遠巻きに警護している。


「はい」

イリオスは、戦勝会の主役である皇太子がここにいる理由を正しく理解していた。

兄上、貴方もわかっているんですね。思えば、貴方は実の母であるのに皇妃として接していた。

昨夜、モードリンに賊を向けたことで確信しました。

母上、貴女が僕の生みの母を殺したのですね。

そして、僕は皇帝に対する人質なのですね。

それでも、僕に向けた愛情は本物であると信じていたかった。


大広間を出て休憩室に向かうイリオスは、その道が遠く感じた。




大広間に残ったアンセルムと皇帝は、玉座でグラスをかわしていた。

「陛下、昨夜のことはご存知として、イリオスが生まれた時のこともご存知なのですね」

皇帝はそれには答えずに、アンセルムに問う。

「お前はいつ知った?」


アンセルムは持っているグラスの酒を一気に流し込む。

「いつからは分かりませんが、皇妃が賢いと気がついた時でしょうか。

社交で対立したとしても、決して皇妃の権力は使わない。

裏で手を回しているのですよ。

それが、陛下は母を皇妃として迎え入れた理由でしょう?」


「そうだ。ガイザーン帝国皇妃として相応しいと考えた」

皇帝の答えは、アンセルムも想像していたものだ。


「ならば、皇妃を大事にするべきでした。

皇妃として遇しても、夫として妻を大事にしないから壊れたのです。

私はたとえ実の母でも、モードリンを害そうとしたことは許しません」

政略として考えた父と、政略でも愛情のあった母とのすれ違いの結果、母は父が好意を向ける者を排除するようになった。

それは、ケイトリア・メルデルエであり、イリオスの母であった。


「お前が婚約したことで杞憂(きゆう)することはなくなった。

早々に王位を譲るとしよう。

私は、皇妃と別邸に行くとする」

王は責任を取ると言っているようで、ケイトリアの娘であるモードリンを守るためだとアンセルムには分かる。

自分にも身に覚えがあるアンセルムだ。

そんなにケイトリア・メルデルエが大事なら、なぜ皇妃に迎えなかった?

皇妃に向かないというが、他国に一人で嫁ぎ、今回は逃げ延びるという事をやってのけたのだ。

決して大人しいだけの姫ではない。

何もかも無理ではなかった、と思える。


「お前はここに居なければならない。私が迎えに行ってこよう」

皇帝が迎えに行くのは、皇妃かイリオスか、それとも両方か?

アンセルムは立ちあがる皇帝に道を開ける。

皇妃が戻って来たら、モードリンを連れてテラスに出ようと考えながら、アンセルムは頷く。

「分かりました、陛下」


明確な証拠を残すような皇妃ではない。

皇妃を処分することが出来ない限り、暗躍するだろう。

皇帝を与えて別邸に追いやれば、皇帝は皇妃が裏で動いた物証を探すだろう。

自分も皇帝も、皇妃の能力を信頼しているが、信用していない。


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