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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
モードリン・レプセント
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二人の距離

お茶の後、エルモンドとモードリンは王宮の庭を歩いていた。

黄色の薔薇が見頃を迎えていると、エルモンドが誘ったのだ。

エルモンドは薔薇の花を一輪手折り、(とげ)をとってモードリンに差し出した。

「ありがとうございます」

モードリンは受け取ると胸の痛みを感じながら、お礼を言って香りをかいだ。

「とても甘い香りがします」


「モードリンに良く似合うよ」

笑顔もエルモンドに、罪悪感を感じながらモードリンも微笑む。


自然な流れでエルモンドの婚約者になったモードリンだが、ガイザーン帝国に行ったことで王太子に妃になる覚悟を持った。

「嬉しいです、エルモンド様」

この人を裏切りはしない、この人の妃になる。

ここにいない誰かと比べてしまうけど、その痛みもいつかなくなる。

「明日から王宮で、王家のしきたりの学習が始まります。終わりましたら、執務室にお邪魔してもいいですか?」


「それは楽しみだよ。執務を頑張れるよ」

先触れはいらない、とエルモンドは言う。

お互い子供の頃から婚約者候補として、よく知っている相手だ。

ガイザーン王国で食べた料理や、言葉のイントネーションだとか、情報交換のような話が始まる。



そして、モードリンの王妃教育の後は、エルモンドの執務室でお茶をするのが習慣となった。

やがて、モードリンはエルモンドの手伝いをするようになり、エルモンドがモードリンに意見を求めるようになると、お互いの信頼関係は深まっていった。

モードリンはエルモンドの期待に応えられるように、他分野の学習を受け入れ、専門家の聴講をした。

1年が過ぎる頃には、王太子妃の執務室も解放されて、モードリンは結婚前でも王太子妃と同等の公務をこなすようになった。


コンコン。

夕方に王太子の執務室をノックするのは、モードリンだ。

執務室の事務官達は、いつものように仕事の手を止める。

侍女が推すワゴンの後ろをモードリンがついて、執務室に入る。

「みなさま、休憩にされてはいかが? お茶菓子を用意しましてよ」


「やぁ、待っていたよ」

エルモンドは執務室のソファーに座ると、その対面にモードリンが座る。

侍女がワゴンから茶菓子を出し、お茶を淹れてテーブルに置くと、次に事務官達にも菓子と茶を置いていく。


「彼らもこの時間が楽しみなようだ。もちろん、僕もだよ」

「私もですわ」

モードリンは、穏やかなこの時間が気にっていた。

「サクランボのタルトでしてよ。シェフ自身の作、だそうですって」

「ああ、もうサクランボの季節か。たしかに美味いな」

子供の頃から知っている間柄か、エドモンドはモードリンの前では取り繕ったりはしない。大きく口を開けて二口でタルトを食べる。

それを見て、モードリンが声をだして笑う。


「エルモンド様、結婚式のベールが届きましたの。式まで半年もありますけど、とても綺麗でうれしくなりました」

「それは僕も見たいな、式が楽しみだよ」

この時、二人は未来を信じて疑っていなかった。

周りも、王国の未来は安泰だと思っていた。



それから、僅か一ヵ月で状況は変わった。

エルモンドがモードリンとの接触を避け始めたのだ。それと、エルモンドが懇意にしている令嬢がいると(うわさ)も流れだした。


執務室の空けた窓から、若い女性の嬌声が聞こえる。

窓の外は王宮の庭園だが茶会をする場所とは別で、王族、大臣の執務室、会議室が並ぶ区域であり、静かな庭園のはずなのだ。

窓の外の様子を見に行ったモードリン付きの事務官が、慌てて窓を閉めるから、かえってモードリンの気をひいた。

モードリンは執務の手を止め、窓を開けて様子を見ると、若い女性が数人の男性達と騒いでいるようだった。

「ここは、重鎮の執務室区域のため、役職者か王族でないと出入り禁止のはずよね?」

モードリンが確認すると、侍女が肯定をする。

この侍女も、事務官、護衛も入場許可を得ている。

「私の名前をだしていいから、あの者達を追い出しなさい」

モードリンは護衛の騎士達に指示をする。


機密事項の多い地区なので、許可のある者しか入れない。たとえ、許可があっても外で騒ぐなど、許されない。


バン!

ノックもなく、エルモンドがモードリンの執務室の扉を勢いよく開けて、大股で入って来た。

「モードリン、君がメイリーンを追い出したそうだな!」



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