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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
未来に向って
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ガイザーン皇妃

レプセント辺境侯爵は周辺領地を戦勝品として併合して独立することになり、イグデニエル王国は国土を(せば)めたが、エルモンド王太子が王位に就くことで存続をすることになった。


アンセルムが率いるガイザーン帝国軍は、ホルグブロウ王国軍がレプセント軍を後方から襲撃するのに協力した隣国ザルグ王国を制圧した。

ザルグ王国がホルグブロウ王国の属国に近い国であったために、イリオスがホルグブロウ王家を断罪したいま、ザルグ王国は大きな抵抗もせずに制圧されたのだ。


勢力図が大きく変わることになった。

ガイザーン帝国はさらに国土を広げ、ガイザーン帝国と双璧であったイグデニエル王国は大きく力をそがれ、国土の一部を失った。

そして、レプセント公国というガイザーン帝国に親政の国が生まれた。



アンセルムが率いる軍隊がガイザーン帝国に戻ってきたのは、出兵してから2か月になろうという時だった。

イリオスがホルグブロウ王国を統制するのと同じくして、アンセルムはホルグブロウ王国の属国であった国々を制圧し併合しながら、ガイザーン帝国に戻って来たのだった。



レプセント家の姉妹と母はガイザーン皇宮で再会し、お互いの生存を喜び合った。

チェイザレとセリアは、ケイトリアの実家であるメルデルエ公爵邸に滞在し、モードリンは皇宮でアンセルムの帰りを待っていた。

娘達に引き留められたが、ケイトリアは厳重に警護を付けてレプセント領に向かった。

そこにジェイコム・レプセントの遺骨が戻って来ると聞いたからだ。

ずっと我慢していただろう涙があふれだし、『ジェイコム様にお会いしたいの』と言われれば、娘達に母親を止める術はなかった。


モードリンは皇宮で複雑な立場であった。

皇太子アンセルムとの婚約は公表されておらず、皇室の客扱いである。

皇帝がモードリンを可愛がるのを、皇妃は不快を隠そうともしなかった。

お茶会にモードリンを呼び出しては(けな)し、のけ者にするという陰湿ないじめを繰り返していた。

エルモンド王太子に西の塔に幽閉されての逃亡、という経歴のモードリンからすれば、いつか見返してやると思う程度のことだった。


だが、それを知った皇帝とイリオスの怒りは大きい。

イリオスは、最初はモードリンを皇太子である兄を(たぶら)かす女とみていたが、一緒に行動したせいで皇太子妃に相応しい令嬢と認めるようになっており、皇妃から先入観を植え付けられていた、と認識するようになっていた。

ガイザーン帝国貴族は皇帝と皇妃の顔色を見ながら、モードリンの取り扱いに注意深く接していた。


明日は、アンセルムが凱旋してくるという前夜。

モードリンの部屋の外が騒々しく、大きな音が響く。何者かが侵入してきて、警備の近衛が防戦しているのだ。

モードリンが狙われるのは初めてではない。その度に皇帝は警備を強めた。

皇宮に賊が入るなど、誰かが手引きしなければ不可能である。

(しばら)くして、扉をノックする音が聞こえた。

扉を開けて入って来たのは、イリオスである。どうやら、イリオスが警備に交じっていたらしい。

「警護を信頼しております。殿下が、このような事をなさる必要はありません」

モードリンはイリオスの心配が分かっていても、皇子に警護させるわけにいかない。


イリオスは、近衛であっても皇妃が命令すれば従わざるをえないから、賊を部屋にいれるかもしれないと杞憂しているのだ。

証拠はなくとも、皇妃が賊を送っていると考えている。

イリオスにとっては、初恋の女性の娘を大事にする父と、それを(うと)ましく思う母だ。

「兄上が戻られるまでは、僕が責任をもってモードリン嬢をお守りします」


「ありがとうございます」

モードリンが礼を言えば、イリオスは安心して部屋から出て行った。



まだ息のある賊を拷問する為に、イリオスは牢に向かう。


『依頼者は使者を使っていたので知らない。

女の顔を傷つけろと言われた』

賊は白状するが、依頼者を本当に知らないようだった。


内部に権力のある協力者がいなければ、外部の人間が簡単にはいれるような皇宮ではない。

「母上」

イリオスの口から、呟くような言葉が漏れ出た。

茶会で虐める程度とは違う、これは皇帝への反逆だ・・・


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