停戦調停
シェラドール公爵を先頭に、ユージュニーはイグデニエル王宮を歩む。
謁見室、その先にはエルモンドが待っていた。
その背後には、オベロン公爵、タウンゼット侯爵が控えている。
ユージェニーは停戦調停の為に、来たのだ。
レプセント辺境侯爵家は独立して、レプセント公国となる。
ユージェニーとエルモンドが向き合う。
義理の兄弟になるものだと、お互いに思っていた。
それが1年足らずの間に、殺し合う関係になり、完全に分かれた。
お互いが最初の言葉を探していた。
「モードリンは?」
最初の言葉は、エルモンドからだ。
「わかりません。
命からがら逃げて、ガイザーン帝国に保護されています。
私も会っておりません。かの地で大事にされていると思います。」
そう答えるユージェニーは、モードリンが麻薬畑の焼却のためにホルグブロウ王国にいるのを知らない。
イリオスからアンセルムへの報告書には、モードリンの名がないからだ。
「殿下」
オベロン公爵に促されて、ペンを手に取る。
エルモンドの頭には、戦場で会ったアンセルムの言葉が残っている。
「モードリンに会えないだろうか?」
サインしようとしたエルモンドの手は止まっている。
ユージェニーは静かに首を横に振る。
「会わない方がいいでしょう」
そうなった原因はイグデニエル王家にある、とユージェニーは瞳に力をこめる。
エルモンドは、もう何も言わずにサインをする。
どんなに後悔しても、戻らない時間。
「ホルグブロウ王家が、麻薬を使って人心を誘導していました。
殿下が寵愛された令嬢も、ホルグブロウ王国の指示を受けていたと調べがついています。
停戦の記念に、こちらが調べた結果報告書を届けさせしょう」
調印が終わり、ユージェニーは声をかける。
決して、エルモンドを許したわけではない。
エルモンドも被害者かもしれないが、最初にエルモンドが男爵令嬢を身近に置いたのだ。
あの報告書を読んで、自分の無能を思い知るがいい。
ユージェニーは振り返らず、謁見室を出る。
そこに居たのは、バレンティーナ・シェラドール公爵令嬢。ユージェニーの婚約者だ。
「ご無事でなによりです。やっと、お渡しできます」
そう言ってバレンティーナは抱きかかけている箱を差し出した。
中を見なくとも分かる。箱の中身は骨壺だ。
「バレンティーナ嬢、ありがとう」
ユージェニーは、差し出された箱を受け取らずに、バレンティーナごと抱きしめた。
突然のことに、バレンティーナの身体は硬直し、顔が火照る。
「貴女が誇らしい」
ユージェニーは、そっとバレンティーナの額にキスをする。
きゃああ!
バレンティーナは心の中で悲鳴をあげる。
婚約者として、エスコートはされても手を繋ぐこともなかった。
それが、どうして?
「貴女の手紙にどれほどの勇気をもらったか。
私の為に、危険をおかして動いてくれた。それが、どんなに嬉しかったか」
ユージェニーの視線を感じて、バレンティーナは顔をあげる。
「だが、心配だった」
ユージェニーと、バレンティーナの視線が絡まる。
「ユージェニー様、皆が見てます」
謁見室から出たとしても、周りには大勢の人間が控えている。
真っ赤になるバレンティーナが可愛い、とユージェニーは思った。




