第2王子という地位
疲れていても疲れを表に出さない、それは王太子妃教育によりモードリンは完璧に身に付けたはずだった。
だが、ホルグブロウ王国の第2王子を前にすると、床に倒れ込んでしまった。
「どうして・・!!」
嗚咽とともに叫ぶモードリンに、護衛やイリオス皇子が駆け寄る。
だが、誰よりも早く、他の者から奪うようにモードリンを抱き上げたのはファルティウッドである。
「返して!!」
ファルティウッドから身を乗り出し、モードリンは第2王子に手を延ばす。
誰をとは、誰も問わない。
あまりに多くの命が亡くなった。
美しい。
悲壮なモードリンに誰もが目を惹かれる。
髪を振り乱し、揺れる睫毛、涙が頬をつたい落ちる。震える唇は涙に濡れて光っている。
それは拘束されている第2王子もだ。
瞬きをも忘れて、モードリンを見ている。
「ファルティウッド、モードリン嬢をこちらに渡せ」
イリオスが、信用できないとファルティウッドに詰め寄る。
「絶対に落としません。王から護衛を申し付かったのは私です」
奪われまいとファルティウッドが手に力を入れる。
イリオスもシャード達も分かってしまった。ファルティウッドがモードリンに反発していた意味を。
「皇太子妃になられる令嬢であられる!」
イリオスが語尾を強めれば、ファルティウッドの表情は厳しくなる。
「分かっております」
「はははは!!」
拘束されているのに、第2王子は大きな声で笑い出した。
「私は、ディアレスト・ドーラ・ホルグブロウ!」
騎士達が第2王子の拘束を強めて口を押えようとしたが、ディアレストは首を振って逃れようとする。
「姫!私の名を忘れられなくなったろう!姫が憎む男の名だ!」
口を押えられ、引き摺られるようにディアレストは部屋から連れ出された。
「イリオス殿下」
モードリンは、イリオスに顔を向ける。
「私が会わせてください、とお願いしました。イリオス殿下が後悔することなどありません。
恥ずかしい姿を、お見せしてしまいました」
落ち着いてきたモードリンは、抱きかかえられている状態から降りようとする。
「暴れないでください。
体力の限界を過ぎて無理をするから、こんなことになるんです」
モードリンが降ります、というのを無視してファルティウッドは休憩できる部屋を用意させる。
「バカだな」
ポツン、と言ったのはゲーリックである。
「ああ、だな。あれは、心配です、と聞こえるな」
応えたのはシャードだが、イリオスの方は苦虫を噛み潰したような表情をしている。
ファルティウッドは国でも指折りの実力の騎士だ。
父皇帝は、これからもファルティウッドを警護に付けるだろう。兄の怒り狂った顔が簡単に思い浮かぶ。
連れ出されたディアレストは、先ほどまでの薄ら笑いは消えていた。
「あんな綺麗な人、この世にいたんだな」
誰も聞いていないのに話し出すから、護衛の騎士の一人が急いでイリオス達を呼びに行く。
「新しく発見された草が麻薬の一種だと分かって、調べているうちに中毒になってしまった。
治療として魔核を摂取したが、1週間意識不明の状態が続いて目が覚めた時、麻薬は中和されていたが片足の動きが鈍くなっていた。
そのうち、麻薬中毒者が私の言葉に無条件に従うということに気がついた。
魔核と関係しているのか、私にしか従わない。
どんなこともするんだ、面白かったよ」
ホルグブロウ王家は、そんな第2王子を利用したのだろう。
第2王子も身体に問題があると、王族としてそれを補うものが必要だったのは間違いない。
国にとって価値のある王子でなければならない。
麻薬中毒者が従うといっても、的確な指示が必要で、有効な使い方を考えねばならない。
ディアレストは賢い皇子なのだろう。
第2皇子であるイリオスは、ディアレストの考えが少しだけ理解できる。
だが、許せる事ではない。
ディアレストは全てを自白した後、他の王族達と同じように処刑された。




