麻薬畑の焼却
モードリンが、麻薬畑のある街にいる頃、イリオスはホルグブロウ軍との戦いをしていた。
主力軍がイグデニエル王国に出陣している為に、防衛隊を突破するのは簡単に思えたが、斬られても骨が折れても、立ち上がり戦いを止めないホルグブロウ軍にガイザーン帝国兵士の中には涙する者まで現れた。
哀れにしか思えなかったのだ。
傷病兵というのは、ホルグブロウにはありえないのかもしれない。
どれほどの麻薬を摂取すれば、こうなるのだろうか。
イリオスは、モードリンの考えが正しいと認識する。
ホルグブロウ王国を制圧したあとは、ガイザーン帝国が麻薬を管理することを、皇帝は考慮にいれていた。
だが、この麻薬は普通の麻薬ではない。
この地だけの突然変種ならば、この地で撲滅するべきだ。
『魔草は、瘴気のある魔獣の生息地のみで変異する草です。
どこにでもある普通の草が、あの地だけで変異するのです。
あの草が、魔獣をあの地に留めさせてます。
もしかしたら、魔草が魔獣形成の大きな要員かもしれませんが、必要悪です。
ですが、ホルグブロウの麻薬を必要としては、いけないと思うのです』
モードリンの言葉が、イリオスの頭に蘇る。
イリオスは指揮をしながら戦況を見ていた。
ホルグブロウの兵士が人間と言えるのだろうか?
意志を奪われ、戦うだけの生物を人間と言えるのだろうか?
モードリンは、麻薬畑に引かれている水路の水源を発見した。
湧水で、水量も豊かなようだ。
この水だけが、変異の要員ではないだろうが、大きな一因ではあるだろう。
流れを変えるだけで、土壌の要素を含み水質は変わるに違いない。
「この水源を塞ぐことはできる?」
ここを塞いでも、他の場所から溢れ出すだろう。
「違う所の湧水に混じれば、水質は変わる」
モードリンは、シャードとゲーリックが頷くのを確認したが、彼らよりも先に動いたのは、無理やり付いてきたファルティウッドである。
ファルティウッドだって分かっているのだ。
麻薬畑を燃やしても、また麻薬を作ろうとする人間が現れるに違いないということを。
変異種ができる環境を変えなければならない。
様々な石を積んで湧水を塞ぎ、水路を土で埋めて水の流れを変える。
麻薬畑は監視が付いていたが、3人の騎士が恐れるほどの事ではなかった。
夜の闇に紛れて、畑に油をまき火を付ける。
監視が慌てて火を消そうとしても、油を撒いているので簡単には消せない。
焼けた麻薬は灰となり、辺りに降り注ぐ。火が消えたとしても、灰が降った畑の麻薬は枯れてしまうだろう。
闇夜を照らして燃え上がる麻薬を、モードリンは離れた所から見ていた。
この麻薬がなければ、父は生きていたろう。
言ってもしかたないことと思っても、考えてしまう。
「モードリン様、麻薬畑は燃え尽きました。近隣の被害も少なくて済んだようです」
シャードが近づいて来て報告をする。
火を点けるのに、人家が風下にならない日を選んだのだった。
後ろではゲーリックがファルティウッドの肩を叩いていた。
「僕達は、モードリン様は皇太子妃に相応しいと思っている。
思慮深く、血筋も容姿も申し分ない。何が不服なんだ?」
そんなこと分かっている。
ファルティウッドは背を向けて歩き出した。




