エルモンドの立場
イグデニエル王は軟禁となったが、戦時中であっても政務がある。
それを王にさせるわけにはいかない。
シェラドール公爵、オベロン公爵、タウンゼット侯爵が中心になって政務を分担することになる。
オベロン公爵は、さほどの時間をかけずに執務室に戻って来た。
「あっけなかった。あんなのに王も王太子も引っかかるとは」
メイリーンと王太子が出会った時の護衛達からの証言はとれているのだ。
甘い匂いを漂わせていたために、護衛達は王太子を離そうとしたが、王太子自身が彼女を庇って護衛を下げさせたというのだ。
「王太子を麻薬中毒にして、ホルグブロウ王国の属国として調印させようとしたらしいが、王をも麻薬中毒にできたので、計画を早めたらしい」
メイリーンが特別な美女であったならハニートラップを警戒しただろうが、普通の若い令嬢であったことで油断もあったのだろう。
オベロン公爵は近衛隊を集めると、王都の外で戦闘中である王太子を引き戻しに出陣すると言う。
王から王太子へと王位の譲渡を目標とするが、王太子を信頼しているわけではない。高位貴族の傀儡政治になるのだ。
ホルグブロウ王国軍と対戦して、斬っても火を点けても、動いて戦闘を続ける兵士達に追い詰められ、火矢にあたったホルグブロウ軍の兵士が、燃えながらイグデニエル王国軍陣営に入り込み、追い風も手伝って、イグデニエル軍のテントや備品に火が燃え移り、エルモンドは前線を下げるしかなかった。
レプセント・ガイザーン軍と対戦していたイグデニエル軍は多大な被害を受けていたが、ホルグブロウ軍の不気味さは、兵士達の戦意を喪失させていた。
ホルグブロウ軍を壊滅状態にすることは出来たが、イグデニエル軍の被害は甚大であった。
だから、エルモンドはオベロン公爵の姿を見た時に援軍が来たと思ったのだ。
「陛下は自室で休んでいただいてます。
殿下は速やかに立位されるために、レプセント辺境侯爵軍とは停戦を勧めます。
ホルグブロウ軍との交戦は予想外のことであったために、我が軍の戦闘能力は各段に落ちています。
ここで、レプセント軍との戦闘を続けても厳しい状態でありましょう」
オベロン公爵は、エルモンドと司令官たちを前にして停戦しろと言う。
「今、停戦というのは敗戦と同じことだ!」
司令官の一人がいきりたつが、エルモンドに止められる。
「公爵は、王家ではなく、レプセント軍の使者として話しているのだね?」
エルモンドの言葉に、否定をしない公爵は、王家を見捨てたということだ。
前レプセント辺境侯爵を討ち、遺体を晒したことで、貴族の反感をかっただろうとは思っていたが、ここまでだったとは。
エルモンドは力なく座り込んだ。
いや、自分とメイリーンの行動は、モードリンをはじめ、高位貴族の王家への信頼をなくしていたのだろう。
そこに、前レプセント辺境侯爵への仕打ちだ。
ユージェニー・レプセントが蜂起したことに、高位貴族は希望を持ったのということだ。
「オベロン公爵、私に拒否権はないのだろう?」
エルモンドは覚悟した。
「すぐにレプセント軍に、停戦の使者をたてます。
そして、両軍でホルグブロウ軍の残兵を処理しましょう」
用意してあったのだろう、オベロン公爵は数人の騎士を呼び、指示を出す。
エルモンドは頭を抱えていた。
敗戦となれば、停戦の条件として、モードリンを私の妃に差し出させることは難しいだろう。
多くの兵を犠牲にしたのに、敗戦となるのか・・・




