国を憂いて
王太子が兵を率いて出陣しているイグデニエル王宮では、王がシェラドール公爵と謁見していた。
シェラドール公爵は一人ではなく、オベロン公爵、タウンゼット侯爵と一緒であった。
バレンティーナが密かに動いて、オベロン公爵、タウンゼット侯爵等の反王家派との繋がりを強めたのだった。
エルモンド王太子は出陣にあたり、メイリーン・マークス男爵令嬢を牢に拘束し厳重な監視を付けたが、王はそのままにしてあった。メイリーンを拘束することで、王に指令をすることもないと判断したのだ。
王は麻薬の影響で多少緩慢になることはあったが、王の政務に大きな支障はないと考えていた。
エルモンドの判断ミスは、王ではなく高位貴族達であった。
王と王太子が麻薬に操られていたなど知らない貴族達は、メイリーンを優遇する王家に不安をもち、レプセント辺境侯爵家を排除したことに不満がつのった。
そして、エルモンド王太子が魔核の効能で麻薬の影響がなくなって目覚めた時には、王はレプセント辺境侯爵を討ち取って、その亡骸を王宮前の広場に晒してしまっていた。
謀反人として磔た後では、エルモンドでは撤回することはできなかった。
それは、貴族達が王家への信頼も信用も失くすに十分なことだった。
そして、エルモンドが成人した貴族子弟を全員徴兵したことは、大きな反感をかっていた。
けれど、エルモンドは前レプセント辺境侯爵の遺体が焼けた時に、内密に骨壺いれて礼拝堂で祈祷を捧げいたことをシェラドール公爵は知っている。
ユージェニーが蜂起したことで密かに助力しようとする高位貴族を、バレンティーナが取りまとめたのだ。
シェラドール公爵が片手を上げると、オベロン公爵、タウンゼット侯爵が王に飛び掛かり押さえつけた。
「何をする!!」
王が叫ぶが、それに呼応する者はいない。
王を助けるべき警護の近衛兵はシェラドール公爵の前に立ち、公爵を守る体制になっていた。
近衛は貴族子弟で編成されている。オベロン公爵が、すでに手を回してあったのだ。
国軍が出兵して、王宮を守るのが残された近衛の騎士だけというのが、反王家派には都合がよかった。
「レプセント軍に合流した息子から、王が麻薬中毒になっていると情報がきているが・・」
シェラドール公爵は、呂律がおかしい王の様子をみて異常を感じ、ブラウンの報告の通りだと痛感する。それはオベロン公爵とタウンゼット侯爵も感じたようだ。
「そのようですな」
オベロン公爵が同意すると、近衛の二人が王を両脇から支えて逃げ出さないようにする。
「ここで王を弑しては、ホルグブロウ王国の思惑通りになってしまう。
ホルグブロウ王国はイグデニエル王が属国を受け入れるか、内乱状態で弱まっている時に制圧するかを狙っているのだろう」
タウンゼット侯爵は、王を軟禁して穏やかな王権譲渡がよかろう、提案する。
強硬派のオベロン公爵も、それには同意する。
「だが、問題の男爵令嬢は、すぐに背後関係を白状させましょう」
ホルグブロウ王国と関係があるのは、わかり切っているが、どのような指示を受けているか急がねばならない。
「王太子殿下は彼女を牢に拘束しているようですが、それだけでは危険でしょう」
ホルグブロウ王家が、失敗したメイリーンを始末に動くかもしれないからだ。その前に持っている情報を取り出さねばならない。
オベロン公爵はメイリーンの牢に向かい、タウンゼット侯爵は王を軟禁する準備をする。
そして、シェラドール公爵はレプセント軍にいる息子のブラウンに連絡するべく手紙を用意していた。
「殿下が麻薬から回復しているなら、我々の要求を受け入れるでしょう。これ以上、国を荒すわけにはいきません」
シェラドール公爵の言葉を、タウンゼット侯爵が同意して頷いた。




