モードリンの婚約者
あけまして、おめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
ガイザーン帝国に滞在した日数よりも多くの時間をかけて、馬車はレプセント領に付いた。
レプセント辺境侯爵であるジェイコムが迎えに出てきた。
「ケイトリア、ガイザーン帝国はどうだった?」
ジェイコムはケイトリアの腰を引くと、待ちわびたとばかりに館の中に入って行く。
その日常の光景に、モードリンは心が軽くなっていく。
政略であっても両親のように、私も王太子殿下と尊重しあいたい。きっと穏やかな家庭を築けるのだろう。
レプセント領に戻ってきたが、すぐに王都の辺境侯爵邸に行くことになっている。
王太子の婚約者に決まったモードリンには、王家のしきたりや、外交の教育を受けねばならない。
ユージェニーも王国軍に籍があり、モードリン、モードリンの付き添いのケイトリア、ユージェニーの三人が王都に行くことになっていた。
なにより、ケイトリアの帰省とはいえ、ガイザーン帝国に行ったことに反意はないと証明する為に、早急に王宮に参内せねばならない。
領地には1日滞在しただけで、三人は慌ただしく王都に向かった。
王都のレプセント辺境侯爵邸に着くと、モードリンはケイトリア、ユージュニーと共に王宮に登城した。
「モードリン」
王太子エルモンドがモードリンを出迎えに出ていた。
王太子が差し出した手に、モードリンは手を乗せる。
モードリンは心の奥にチクンと痛みを感じたが、それに気がつかない振りをして笑みを浮かべる。
「殿下に迎えていただいて、とても嬉しいです」
「もう正式に婚約したのだから、これからは名前で呼んでほしいな」
エルモンドがモードリンの手を腕に回して、エスコートして王の待つ謁見室に向かう。
そのエルモンドの笑顔に罪悪感を感じながら、モードリンは答える。
「はい、エルモンド様」
これでいいのよ、王太子殿下をお支えして、王家とレプセント辺境侯爵家を繋ぐのが私の役目。
王太子殿下は子供の頃から知っているし、お優しい方だから、きっと大丈夫。
モードリンは自分で選んだのはエルモンドであると、再認識していた。
エルモンドと生涯を共にするのだ。
ユージュニーとケイトリアは、そんなモードリンの様子に無言を徹するが、二人の真意は違う。
ケイトリアは、これがモードリンの幸せに繋がるとしんじていたが、ユージュニーはモードリンの姿が痛々しく、モードリンが恋を忘れるには時間が足りない、と哀れに思っていた。
王との謁見は形式通りに行われ、ユージュニーは軍部に向かい、ケイトリアとモードリンは王妃の茶会に招かれた。
「侯爵夫人がご実家の居心地がよくって、長居されるのではないかと心配してましたのよ」
王妃は優雅に茶をすすめる。
王妃は国内の公爵家出身であるが、レプセント辺境侯爵家の格式は王妃でも気を使うのだ。
「皇帝陛下にご挨拶をして、実家の公爵家を継いでいる兄にもモードリンの婚約を報告してきましたわ。
祝いの言葉をいただきました」
ケイトリアの結婚相手がイグデニエル王国王太子となれば、その結婚は違う意味を持って来る。ガイザーン帝国皇家とイグデニエル王国王家が縁戚になることだ。
ケイトリアの実家であるメルデルエ公爵家は、何度も皇女が降嫁しており皇家に最も近い血筋なのだ。
ケイトリアの兄のメルデニエ公爵は、皇位継承順位が3番目である。
「遅くなりました」
モードリンの横に座ったのは、王太子エルモンドである。
謁見の後、王とエルモンドは別室で、王家から派遣した随行者の報告を受けていたのだ。
王妃もエルモンドとモードリンが並んで座っていることに笑顔を見せると、侍女にエルモンドの茶器を用意させた。
モードリンの婚約は、皆に祝福されていた。




