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夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
未来に向って
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イリオスの采配

翌日は歩兵部隊と合流し、早めにテントを張ったおかげで、雨になっても兵士達の体力をそがれることはなかった。

イリオスは、モードリンを観察していた。

モードリンは、休憩時にはその地の草花を観察していた。最初は、女性は花が好きだからと思っていたが、そうではないとすぐに気がついた。

空気に湿気があるというのも、葉の裏についている露をみていたようだ。


レプセント辺境侯爵領で軍を身近に見ていたせいか、進軍に支障となるような行動をすることはない。

だが、軍の方に問題があった。

女性が混じっているという事に、反感を持つ者もいれば、不埒な行動に出る者もいた。

それは護衛達が排除したが、女性がいることの不信感は残った。


「皇太子殿下の命により、シャード・セブリエ、及び、ゲーリック・ダウトマン、この隊に合流します」

モードリンをイグデニエル王国から連れ出した二人の騎士である。


それを快く思っていないのはファルティウッドだ。

「殿下、令嬢の護衛として私が不可だということでしょうか」

強い口調でファルティウッドがイリオスに詰め寄っていた。


イリオスは、この軍にも皇妃の手駒が紛れていることを恐れている。

ファルティウッドだという証明はないが、モードリンに反感を持っているのは確実だ。それで、兄のアンセルムに手紙を書いた結果が、モードリンの護衛に二人を送ってきたのだ。

「そういうことではないが、ファルティウッドはモードリン嬢の警護では不満のように見える。

ならば、騎士として戦線に立つ方がよかろう。

彼女は皇太子妃となる人物であり、この戦線に必要と陛下が判断した重要人物だ、警護なしではいられない」

モードリンに何かあれば、皇帝よりもアンセルムの方が恐ろしい、とイリオスはわかっている。


「それだから、陛下から直々に私が護衛に選ばれたのです!」

しつこく食い下がるファルティウッドに、違和感を覚える。

普段のファルティウッドは、事あるごとにモードリンを侮蔑するから、モードリンからの信頼はないに等しい。モードリンから離した方がいいと判断したが、皇妃から指示を受けているから離れたくないのか?


イリオスは国境を超える時に信頼できる人材が来て安心したが、モードリンはそれだけではなかった。

ファルティウッドと入れ替わるように、イリオスのテントを尋ねてきたのはモードリンだ。


「明日、国境を越えたらホルグブロウ王国軍と戦闘になるでしょう。

私は、その混乱に乗じて麻薬を燃やしに行ってきます」

モードリンの後ろにはシャードとゲーリックが立っている。

「皇太子からの情報で麻薬の事を知って、ガイザーン帝国は戦後は麻薬を手に入れようと思われたのではありませんか?

麻薬と言えど、他者を操ることはできません。せいぜい暗示がかかりやすくなったり、強迫観念が強くなるぐらいです。

その麻薬は突然変異でしょう。

人間にとって、残ってはいけないものだと思います」


「陛下はこのことを御存知なのか?」

イリオスは出陣前の皇帝との会話にはなかった、と思いいだしながら確認する。


「根絶の許可はありませんでした」

が、とモードリンは続ける。

「魔草は瘴気の地に生える草ですが、瘴気のない地では普通の草です。瘴気で変異するのです。

その草のリスクをコンコンと説明させていただきましたら、この隊に同行の許可がおりましたの。

護衛はつけてくださいましたが、戦力として動いてくれる人ではなかったようです。この二人がきてくれたので、行ってきますわ」

モードリンがニッコリ微笑んで『行ってきますわ』というのを、イリオスは驚きで見ていた。


「怖くはないのですか?」

思わず、そんな言葉がイリオスから出た。


「怖いです。

でも、イグデニエル王国で監禁されて男達に襲われそうになった時、私は抵抗するしか出来ませんでした。

私にもっと力があったらと思いましたが、力がないのはどうしようもありませんもの。

だから、私の出来る事を頑張ろうと思ってますの。麻薬の効能を調べることはできます。

もちろん、火矢を射るのは私には無理です」

そういうモードリンは、シャードとゲーリックを見る。


はは、と笑いかけて、イリオスはテントの外に声をかけた。

「こういうご令嬢だ、わかったか? ファルティウッド」

入れ違いに出て行ったはずのファルティウッドが、テントの外で聞き耳を立てていたのだ。

シャードとゲーリックも気がついていて、ファルティウッドがどう行動するか気を張っていた。


「怖いなら、行かなければいい!」

ファルティウッドは、モードリンを(にら)むようにしながら、テントに入って来た。



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