表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夕陽が沈む国のレプセント  作者: violet
未来に向って
67/91

モードリンの道

話しを聞いたモードリンは、礼を言うと侍女と護衛を連れて自室に戻って行ったが、イリオスは、モードリンが納得して引き下がったとは思ってなかった。

だから、モードリンの後を追いかけて、モードリンの部屋近くまで来ていた。


「きゃああ、誰か!」

悲鳴が聞こえて、飛び込んだのはモードリンの部屋だ。

すでに護衛がモードリンを取り押さえていた。その手には(はさみ)を持ち、侍女がモードリンの腕にしがみ付いている。

「モードリン様が髪を切ろうとされてます!」

叫んでいるのは侍女の一人だ。


うわぁ、イリオスは頭をかかえた。

絶対に話を聞いて何かしようとしているんだ、としか考えられない。


護衛が鋏を取り上げると、モードリンは諦めたようにソファーに座った。

「ごめんなさい、こんな騒ぎにするつもりはないの。

ちょっと髪を切ろうと思って」

ニッコリ微笑むモードリンは冷静に見える。


「侍女の様子からみると、少しそろえる程度ではないですよね?」

イリオスはモードリンの正面に座ると、モードリンの髪が少しだけだが肩程度に切れているのが目についた。

侍女がすぐに気がついて、止めたからあの程度で済んでいるのだろう。


「ええ、男装をしようと思って。このままだと危険だと分かってますから」

モードリンの言葉は、イリオスの理解を超えている。


「問題の根本にある畑を、燃やしに行こうと思ってますの」

侍女や護衛が聞いているので、麻薬の畑とは言わないモードリンであるが、イリオスには正しく伝わっている。


軍でホルグブロウ王国を制圧したら、麻薬の栽培地は処分する予定でいたが、まず畑を燃やすと言うモードリンにイリオスは驚きを隠せなかった。

すでに製造している分は仕方ないが、最初に供給源を断つのはいい考えである。

だが、軍で動くには目立ちすぎる。だから、モードリンは自分で行こうとしているのだろう。

「モードリン嬢、その案は僕から陛下に進言しましょう」

だが、とイリオスは続ける。

「我が国には、隠密行動の出来る部隊があります。

モードリン嬢は、兄のためにもここにいて欲しい。その髪を切ったら、兄の落胆はどれほどになるか・・」


うーん、とモードリンは考えるふりをして、口元に人差し指を当てた。

塔に閉じ込められ、凌辱されかかり、目の前で父を殺されての逃亡。

いつまでも清廉な令嬢ではいられない。

力がなければダメだ、と思い知った。

「髪を切るのは止めますから、私を同行させてください。足手まといにならないようにします」

イリオスが首を横に振り、返事をする前にモードリンは言った。


「心配してくれるのは嬉しいし、お世話になっている身は分かっています。

女性だから安全な場所でと言われても、知りたい。

私が当事者です!

この目で、結果も私が負うべき責任も見せてください」

真っ直ぐにイリオスを見るモードリンの気迫は、武将たちのもつものに劣らない。


「モードリン様、髪は切らないでくださいまし。私が編み込みをして邪魔にならないようにいたします。男装しても違和感ないようにいたします。女性であっても知りたいという気持ちはわかります」

侍女がモードリンの味方をしだした。


「私はレプセント辺境侯爵令嬢です。魔核と魔草の知識は誰よりも深い」

魔草の言葉にイリオスが反応するのを見て、モードリンは言葉を続ける。

「瘴気が(ただよ)う魔獣生息地に生える草です。魔獣はこの魔草の中毒になっているので、生息地から出て来ないのです」

まるで麻薬のように、と言葉の裏はイリオスに届く。


「モードリン嬢に勝てる気がしない。陛下の謁見を取り付ける」

イリオスは、イグデニエル王国はこの令嬢を手放したのだ、と正しく理解した。

モードリンは王妃になるべく教育を受けた、知識も生半可ではないだろう。

そして、外国の貴族の令嬢であるモードリンにとって、皇太子妃と認められる戦果となるのである。



王は、ケイトリアに似ているモードリンには弱い。

モードリンの希望は聞き入れられ、国でも有数の騎士が護衛として付けられた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ