セリアの抵抗
イグデニエル王国に行く途中の荒野に、傭兵や軍人が集まっている場所があった。
この集団から、あの男達は置いていかれたのだろう。
大軍だが覇気がなく、ほとんどが麻薬の中毒になっているように思われる。
街からは離れていて、野営をしているが座り込んでいる者が多い。
この数の人間が全部、レプセント軍に背後から襲い掛かるというのか。
セリアは、遠くまで続く人の群れを見ていた。
「5~6000ぐらいでしょうか」
ルドルフが、大雑把な人数を推測する。
「イグデニエル王国軍が3万、苦戦を強いられているところに、背後からこの数は脅威ですね。
ましてや、この軍は麻薬で操られて死ぬまで戦う人間達です。簡単に倒れてくれません」
「この国に、この軍がいるってことは、この国も麻薬と関係があるということね」
セリアが忌々しそうに言うのを、ルドルフもケイトリアも聞いている。
「もしくは、この国の幹部も操られている、可能性がありますね」
ルドルフが付け足すように言う。
大軍に近づくことは出来ないので、遠目に眺めていたセリアが、後ろの山を振り返った。
「ルドルフ、山にはキノコが生えているわよね!」
「毒のあるキノコを知りませんよ」
セリアが毒キノコを盛ろうとしていると考えて、ルドルフは答える。
「私も知らないわ。だから全部集めれば、食べれるキノコも毒キノコもあると思う。
あそこが麻薬中毒者の集まりなら、絶対に隙があるはず、忍び込めるはず」
セリアは山に向かって駆けだしていた。
痛みを感じなくって死ぬまで戦うのだとしても、最初から体力を減らしておいたら・・
お腹を壊していたらいいのよ。
あれだけの兵士の食料よ。
きっとどこかに備蓄しているはず。そこに紛れ込ませるのよ。
山にはキノコはたくさん生えていた。
食べれるかは分かりにくいが、毒を持っているキノコは簡単には分かった。
色鮮やかで毒々しいのだ。
手当たり次第にキノコを袋に入れていく。
ルドルフとケイトリアも、キノコ集めを手伝う。僅かな時間で何袋もキノコが収穫できた。
キノコを収穫中に、ケイトリアは湿疹ができていた。
毒性のキノコの汁が付いたのだろう。
手や顔に赤い発疹で腫れている。まるで伝染病のようだ。
「セリア、夫人を連れて目立つように歩いてください。
そちらに気を取られている間に、俺が材料庫にキノコを入れます」
ルドルフは、ケイトリアに伝染病の振りをさせろと言っているのだ。
「分かったわ。十分に距離を取って、注目を引くわ」
軍に近づかなくとも、注意を向ければいいのだ。
セリアはケイトリアの手を引き、離れた街道を歩くが、周りの人がギョッとして声をあげている。
伝染病だと、逃げ出す者もいる。
ケイトリアの症状は痛々しく、かなり痒いはずだ。
「上手くいったわね」
ケイトリアが笑みを浮かべるが、ケイトリアが一番肌が弱かったのだろう。
それを我慢しているのが、よくわかる。
痒いのを耐えているため、歩くのも弱々しい。それが余計に伝染病らしくみえるのだ。
軍からも見えたのだろう。
中毒にはなっていない指令らしい男が確認に来て、セリアとケイトリアを追い払う。
湿疹で赤く腫れているケイトリアの顔は、美貌を隠してしまっている。
誰も、レプセント夫人だとは気がつかない。
セリアとケイトリアに注目がいっている隙に、ルドルフがキノコの袋を食糧庫に紛れ込ました。
もう一度森に入ると、木陰に隠れてセリアはケイトリアに魔核の粉を飲ませて、湿疹を治療する。
ユージェニーが持たせてくれた魔核は、この前にケイトリアが飲んだが、その魔核の粉が少しだけ袋に残っていたのだ。
粉を飲むと、ケイトリアは意識を失った。
この前ほどではないが、しばらく意識が戻らないだろうと、わかっていた。
しばらく待っていると、袋を食糧庫に置いたルドルフやって来て、ケイトリアを抱き上げた。
馬に乗せて、ここから離れるのだ。
麻薬中毒の兵士が多いから、認知能力が落ちているだろう。食糧庫にあるからと、キノコを調理に使うことを願って、ケイトリアを抱えて馬に乗るルドルフとセリアの馬は走り出した。




