集まる男達
夜の闇に紛れて忍び寄る影に、ガイザーン帝国の警備兵が反応した。
皇太子アンセルム・ガイザーン、ユージェニー・レプセント、二人の警備は厳重にされている。
モードリンの情報を収集する為に、イグデニエル王国軍に潜入していたシャード・セブリエ、ゲオルグ・ダウトマンはこの戦に参戦している。残りのメンバーはイグデニエル王国軍に潜入したまま、軍内部から崩壊させる機会を狙っている。
そのシャードが、暗闇の中から出てきた人物と対峙していた。
両手を上にあげ、無抵抗の意思表示をしながら暗闇から出てきたのは、チェイザレ・シェルステン。
「ユージェニー・レプセント殿に、この手紙を渡して欲しい」
懐から取り出したのは、セリアが書いた手紙と、ユージェニーがセリアにお金を入れて渡した袋だ。袋の中には、ケイトリアの髪飾りが入っている。
シャードはそれを受け取ると、部下にチェイザレを見張らせてアンセルムと打合せをしているユージェニーのいるテントに向かう。
ユージェニーはシャードが持ってきた袋を見ると、中身を確認した。
「これは、母が父から贈られていつも身に付けていた髪飾りだ」
魔獣の角で作ったそれは、身を護ると言われて常に身に付けていた。他にはない唯一のものだ。
ユージェニーの言葉に、アンセルムも身を乗り出して、ユージェニーが広げた手紙を除いた。
『親愛なるお兄様。
私とお母様は、その手紙を持って行ったチェイザレ・シェルステンのおかげで逃げ延びることができ、とあるところで密かに暮らしております。
チェイザレは各国の情報を持っており、きっと役に立つに違いありません。
セリア・レプセント』
ユージェニーとアンセルムは急いで、チェイザレを捕らえているテントに向かった。
チェイザレは駆けてきた二人を見て、左側にいるユージェニーを指さした。
「貴殿がユージェニー殿だな? セリアと瞳の色が同じだ」
ニヤ、と笑うチェイザレに、ユージェニーが手を差し出した。
「いかにも。私がユージェニー・レプセントだ」
チェイザレがその手を握る。
「チェイザレ・シェルステン。シェルステン王国の第2王子か?」
アンセルムが横から口をはさむ。
「はい。ガイザーン帝国皇太子殿下とお見受けします。
ガイザーン帝国軍が合流しているのは知っていましたが、皇太子殿下がおいでとは驚きました」
それから、チェイザレは大雑把な事情を説明した。
「第2王子殿下、妹と母を救ってくださったことに感謝の言葉もない。
それに、広場に晒されていた父の遺体に火を点けたのは、貴殿だったのか」
ユージェニーはバレンティーナの手紙を思い出していた。
「火を点けたのは我々だが、セリアの願いだった。
いつまでも晒していたくない、と」
当人でないと知りえない情報を告げられれば、チェイザレの言葉に偽りはないと確信する。
チェイザレは、ユージェニーがレプセント辺境侯爵家当主だと聞くと、頭を下げた。
「断られても引き下がる気はないが、セリア・レプセント嬢との婚約を認めて欲しい」
「ちょっと待て! 私の方が先だ! ユージェニー、私とモードリンの婚約を認めてくれ」
あわてたのはアンセルムである。
「二人とも、頭を上げてください。
妹達が望んでいるのなら、私に異はありません。
それにしても、我が妹ながら、二国の王族との婚姻ですか・・・
アンセルム殿下、モードリンはまだ前の婚約が解消になっていないかもしれません」
婚約解消の話し合いの途中で、王太子が服毒したのだ。
「分かっている」
というアンセルムは何か含める事があるのだろう。
「まずは、伝えたいことがある」
チェイザレが人払いを、とユージェニーを見れば、ユージェニー、アンセルム、チェイザレだけがテントに残される。
「イグデニエル王は麻薬におかされているのではないか?」
チェイザレは、机に地図を広げた。




