王太子エルモンド
会議は早々に終了になり、息子のいる貴族達は足早に王宮を辞した。
戦を否定的な家も、好意的な家も巻き込まれていく。
「殿下、何故に、とお聞きしても?」
シェラドール公爵は、王太子エルモンドと対面していた。
会議の後に、残るように言われたのだ。
王も退出し、他の人間を人払いしたエルモンド王太子と、ギネビア・シェラドール公爵だけだ。
「飾り言葉はいらないな」
王太子は、コツンと一歩、公爵に近づく。
「モードリンをどこにやった?」
低い声は、囁くように公爵に届く。
「あの状況で、助けに入れる手兵は限られている」
先ほどまでとはうってかわり、エドモンドの眼は血走り余裕がないようだ。
「僕のモードリンをどこにやった?」
シェラドール公爵は、レプセント辺境侯爵令嬢の行方が分らなかったが、これで全てを納得した。
王宮で、レプセント辺境侯爵と令嬢がどのような拘束をされていたかはわからないが、辺境侯爵は令嬢を逃がす盾となったのは、容易に想像できた。
辺境侯爵の遺体は、損傷がひどく致命傷だろう傷も数多くあった。
娘を逃がす為に、戦ったのだろう。
王太子は手兵と言った。
公爵は、侯爵令嬢を助ける者があった、と認識する。
辺境侯爵が討死するほどだったのだ。助けに来た者も、かなりの手練れだろう。
一番考えられるのは、レプセント軍、そしてガイザーン帝国だが、どちらも時間的に無理だ。
昼に拘束されて、夜に救出する。
すでに王宮に入り込んでいる者にしかできない。
「僕のモードリン?」
思わずギネビアは、聞き返してしまった。
王太子は男爵令嬢に熱を上げ、婚約者の辺境侯爵令嬢を蔑ろにして側妃にすると言ったはずだ。
言葉の違和感がある。
「もうすぐ結婚する婚約者なんだ、当然だろ?」
先程の会議の進行も、王太子はスムーズに行っていた。徴兵の事だって、横暴であったが王族らしい威厳をもって話をしていた。
公爵の中で、男爵令嬢を侍らす前の王太子の姿と重なる。
そして会議中の王を思い出した。王太子に全権譲ったかのような存在になっていた。
「殿下、もしかして?」
最後の言葉を濁したが、公爵は違和感を感じていたと伝えたのだ。
「僕の不徳の致すところだった」
あの女は近づいた男に麻薬を使って常習化させ、関係をもった時に強い麻薬を摂取させて、思考を破壊し女の操り人形にさせるのだ。
父上の状態をみると、父上もあの女と関係をもったのであろう。
「あの女は、王族を操ろうとした。決して楽には死なせない」
麻薬を供給した背後関係も、まだ分かっていない。
「殿下、シェラドール公爵家はレプセント辺境侯爵令嬢の居場所を知りません」
シェラドール公爵は、偽りなく答えた。探しているぐらいなのだ。
「そうか、時間を取らせたな」
エルモンドが退出の許可を出すと、公爵は一礼をして部屋を出て行く。
シェラドール公爵は会議に出席するにあたり、戻ってこれない覚悟をしての登城だった。
「誰か」
エルモンドが言うと、音を立てずに男が数人現われた。
「公爵をつけて、探れ。
必ずレプセント家とコンタクトを取るはずだ」
「はい」
返事した男は、現れた時と同じように音もなく消えた。
次に侍従を呼ぶと、馬の仕度を申し付ける。
「国境に行ってくる」
もしかして、モードリンが国境に現れるかもしれない。
国境に現れたのは、モードリンでなくセリアなのだが、モードリンを探しているエルモンドにはセリアの姿は映らなかった。




