貴族議会
王宮では、緊急会議が開かれていた。
王、王太子を筆頭に王都にいるすべての貴族議員が出席している。
シェラドール公爵も王から離れて着席している。
毒を盛られたはずの王太子が、元気に出席しているのは魔核を服用して回復したからだと、誰もが理解している。
だが、その魔核を献上したのは、昨夜処刑されて広場に晒されているレプセント辺境侯爵である。
最近、王太子が男爵令嬢を侍らせて、婚約者のモードリン・レプセント令嬢を蔑ろに扱っていたことは誰もが知っている。
そして、一部の高位貴族はレプセント辺境侯爵が、娘の婚約を解消する為に動いていたことも知っている。
王太子を暗殺する理由がないのだ。
反対に、王家がレプセント辺境侯爵家を手中に収めたい理由はある。
その為に冤罪を作ったと考えられ、高位貴族にとっては他人事ではない。
シェラドール公爵は動じていないが、周りの貴族の方が公爵に接点を持ちたそうである。
シェラドール公爵令嬢が、レプセント侯子の婚約者であるのは周知されていて、その動向も注目されているのだ。
「16歳以上の貴族子弟は、全員徴兵する。領地にいる者も至急、呼びつけるように」
王太子の言葉に、一斉にざわめきが起きる。
王太子エルモンドは、議員たちの様子を観察していた。
その視線を感じた何人かは口を閉ざす。
もとより控えに徹していたシェラドール公爵は、すぐに気がついた。王太子は試している。
エルモンドも信用できる人間かどうかをチェックしているのだ。
これだけの兵士の数量差があっても、レプセント軍は脅威となっているのだ。
シェラドール公爵はどうしたものかと思考して、中途半端な態度をみせる結果にした。
レプセント家との婚約関係が公になっている以上、王家にすり寄るのも不自然。レプセント家を擁護するのは、この場では避けねばならない。
ならば、有利になる方に着くような優柔不断であれば、疑われまい。
幸いにして、身分だけは高い優柔不断な夫を身近でみているだけに、まねは出来そうだ。
「シェラドール公爵の意見はどうかな?」
エルモンドがふってきたので、シェラドール公爵は思案気に答える。
「私も柵がありますからね。
娘が心を寄せる男の家門を蔑ろに出来ませんが、我が家は王家の血族である公爵家ですから、深く考えねばなりません」
「まるで叔父君のようだな」
エルモンドは予想が外れたとばかりに、片口をあげる。
「綺麗な言葉で飾ってはいるが、外から見ているだけ、と言っているのが分かる。
あまりに正直な言葉で、驚いたよ」
存外にそんな人間ではないだろう、と言われているのだ。
今までの王太子と雰囲気が違い、公爵は内心で驚く。
いつも侍らせていた男爵令嬢の姿はなく、王は言葉を発せず、座っているだけだ。精気もないように見える。
レプセント辺境侯爵の遺体を広場に晒すよう指示したのも王太子なのであろう、と想像できる。
ギネビアは、嫡男ブラウンに王太子の変化も探るように指示しよう、と考えながら王太子を見ていた。
「殿下、貴族の子弟は剣術を身に付けているとはいえ、軍に在籍の者ばかりではありません。
人数を集めたとしても、かえって軍の規律を乱すことになるのでは、ないでしょうか?」
横から声をかけてきたのは、フロランス侯爵である。
エルモンドの母である王妃を輩出した家門だ。
情報を集めるとしても、一番気を付けねばならない人物である。
今回の争いで功績を立て、レプセント領の恩恵の一部でも得ようとしているのは間違いないのだ。
それは、ここに出席している貴族の多くがそうだろう。
王家に不信がありながらも、王家に逆らう事などしないのだ。
シェラドール公爵は、改めてここが敵地であると心引き締めるのだった。




