ユージェニーの帰領
これから、ユージェニーの話になります。
戦争シーンが多くなり、ユージェニーの苦悩が始まります。
時系列が揃った時に、セリア、モードリンが出てきます。
ユージェニーが王都のレプセント邸を出立したところから始まります。
ユージェニーは馬を走らせながら、別れた妹を思いやっていた。
連れて行った方が良かったのか?
可愛い妹だ、死なせたくない。
自分は、これから蜂起して常に死と隣り合わせになる。手薄になる領地に置いておくのも危険が大きい。
葉は森に隠すのが一番というではないか。
だが、末っ子のセリア、母のケイトリア、共に貴族の生活しか知らない。街の生活に溶け込めるかが心配だ。
もう、サイは振られた。
まず優先させるのは、父と妹モードリンの奪回。
土煙があがっているのを見て、王国軍が来たのだと理解する。
このままレプセント邸に向かわせてはならない。セリアと母の逃げる時間を稼ぐのだ。
ユージェニーは馬の手綱を大きく引くと、馬が半身を立ち上げて嘶く。
どんなにバカな王国兵であっても、馬の嘶きは聞こえたろう。
馬の腹を蹴ると、馬はスピードを上げる。舞い上がる土煙、響く蹄の音。
王国軍が方向を変え、追いかけて来るのが見えた。
そうだ、こっちだ。
先行する部下達とユージェニーは、馬を大きく蛇行させ、王国軍と距離をつめさせる。
距離をつめては離し、それを繰り返して、ユージェニー達は王国軍を王都の外部街へと誘導する。
そして、一気に距離を離して、逃走する。
ユージェニー達の馬も、魔獣討伐に同行するのだ。軍馬の中でも飛び抜けて体力もスピードもある。
馬も主人も不眠不休で駆け抜けて、翌日にはレプセント領にたどり着いた。
すでに伝書鳥で知らせを受けていたレプセント軍の準備は出来ている。
「ユージェニー様、侯爵閣下は?」
領地の軍を預かっているロンバルが駆け寄って来る。
「全くわからない。そっちに届いているか?」
ユージェニーは馬を使用人に預けると、速足で歩きながら報告を受ける。
血走った眼は、ロンバルから受け取った書類を読んでいる。
「よくやった、これならすぐに蜂起出来る」
ユージェニーが後ろに書類をやれば、王都から同伴したトリスタンが受け取る。ユージェニーの副官として、常に行動を共にしている。
「2時間後に、王都に向けて立つ。近隣領に伝令を出せ。
我、ユージェニー・レプセントは、ジェイコム・レプセント、モードリン・レプセント奪還の為に、兵をもって王宮に向かう!」
張り上げるユージェニーの声に、待機していた騎士達から大地を震わすような大声があがり、ロンバル、トリスタンが片膝をつく。
それぞれが部署へと走り、兵糧を荷馬車に詰め込む使用人達も騒乱となっている。
誰もが初めてのことなのだ。
ガイザーン帝国の支援が無ければ、長くはもたない。
いかに精鋭が集まったレプセント軍であっても、イグデニエル王国軍数万を相手には、歯が立たない。
イグデニエル全軍が集まる前に、決着をつけるのだ。
短期決戦である。
レプセント領から王都に移動するレプセント軍は、それだけで体力の浪費であり、途中の領主が通過を拒んだ時は、そこで戦闘をして領土を奪い取って通過せねばならない。
しかも、二人を助けるためには時間が勝負である。
休憩を取りながらの進軍など、許されない。
不利はわかっていても、取り戻さねばならない。
気持ちが高揚して、ユージェニーは胸に手を当てた。
ドクンドクン、心臓の音が聞こえるようだ。
戦闘をしたことはある。
命を奪ったこともある。
だが、それは魔獣であった。
これから、王国軍の兵士の命を奪うのだ。
父と妹を奪還するために、たくさんの命を奪うだろう。
レプセント軍も無傷ではあるまい。
その矛盾が、ユージェニーを、蝕む。
部下の命を盾に、妹を取り戻そうとしているのだ。
ユージェニーは拳を握りしめ、その責は自分にあるのだ、と心に刻む。




