チェイザレの告白
チェイザレが用意した馬車は、王家にしては派手さがなく、貴族よりも裕福な商人が乗る馬車のようだった。
ルドルフが馭者をして、チェイザレ、セリア、眠るケイトリアが馬車に乗っていた。
「チェイザレ、ごめんなさい。家族を・・」
チェイザレはセリアが言いたいことを悟って、手で制して止めた。
「俺はセリアを選んだのを後悔していない」
ガタガタと揺れる馬車は、王宮こそは隠れるように出たが、その後は街の往来に溶け込むように普通の速さで走っている。
「多分、想像がついていると思うが、俺は3年間、他国の情報を集めてシェルステンに送っていた」
セリアもそれは思っていたから、驚きはしない。どこの国でも間諜をはなっている。
「それまでは、軍司令官として公務についていたんだが」
チラッとセリアを見て、チェイザレは頭を抱えた。
「兄と違って、俺は女性受けの容姿はしてないだろう?」
そんなことない、と言いかけてセリアは口を閉じた。チェイザレの話を聞こうと思ったのだ。
「俺には婚約者がいて、それなりに仲がいいと思ってたし、令嬢も好意を言ってくれていて、王宮に頻繁に出入りをしていた。それは後になって、兄に近づく為の口実だったとわかるんだが・・」
はぁ、と頭を抱えたままチェイザレは溜息をつく。
「だが、兄は結婚していて子供もいる。それでも諦められないと、兄の寝室に忍び込んで媚薬を飲ませたんだ」
あまりの事に、セリアは息を飲んだ。
「無骨な俺と結婚するのはどうしてもいやだ、兄の第2妃にしてくれと泣き叫ぶ彼女は、衛兵に取り押さえられた。
だが、それだけではなかったのだ。彼女は兄の子の王女に毒の入った菓子を与えていた。自分が兄の妃になるには、子供が邪魔だと考えたのだろう」
セリアの脳裏に王妃の言葉が浮かぶ。
王太子妃を哀れな立場と言った。
チェイザレが婚約者として連れてきたセリアに、同じようになることを恐れたのかもしれない。
「俺がもう少し彼女の苦悩に気がついていたら、と後悔しかない。王女に解毒剤を投与したが、後遺症として運動障害がある」
セリアはチェイザレに抱きついて、その髪をなでた。年上のチェイザレが寂しそうに思えた。
「それもあって、国の外に出ることにした。
もう女性を信じないだろうし、受け入れないだろうと思ってたんだ」
チェイザレは、頭をセリアに預ける。
「なのに、得体の知れない年下の女の子から目が離せなくって。押しかけ妻になるって言うし。
こんな綺麗な子が、って思うさ。
もうその時は、この娘から間違いだったと言われたらと、不安になる自分に気がついていた。
何よりセリアが大切だって、早々に自覚してた。
だから、家族を捨てさせたと後悔しないでくれ。とうにお互い不信になっていた」
セリアは頷いて、チェイザレを見つめる。好みの問題だろうけど、美男子の部類に入ると思うけどなぁ。
「身体が大きいのは認める。私を守ってくれてカッコいい身体。
眉が太いのは知ってる。とっても男らしくって好き」
チュッ、チュッ、とセリアはチェイザレの額、頬とキスをする。
「セリア」
チェイザレは、セリアの頭に手を添えてキスをする。何度も角度を変えて、チェイザレはセリアの甘さを味わう。
「あ、ら」
チェイザレとセリア以外の声が聞こえて、二人はギョッとして飛び上がた。
目が覚めたケイトリアが、じっと見ていた。
「きゃああああ!」
母親にキスシーンを見られて、セリアは悲鳴をあげてチェイザレを突き飛ばし椅子から転げ落ちた。
馬車は王都を出て、隠密行動の拠点として使っている山の中の館に向かっていた。




