セリアの逃走計画
部屋に戻って来ると、セリアは隠してあった袋を取り出す。
チェイザレのおかげで、ほとんど使わなかったが、今こそこのお金を使う時だわ。
屋敷を出る時に兄から渡されたお金の入った袋。現金だけでなく、換金性の高い宝石も入っている。
あんな話を聞いて、この王宮にいられるはずもない。
兄ユージェニーの戦死を願い、何らかの手を打とうとしている王と王太子。
兄にこの危機を伝えて、注意を促さねばならない。
その問題のケイトリアはまだ眠ったままだ。
ケイトリアの目が覚めたら、すぐに逃げる算段をする。ケイトリアを連れて、荷物は持てない。
この王宮は警備が厳しく、逃げるのも難しい。
王宮ではなく、離宮とか別荘とかに移動したい。
セリアは考えて、手紙を書いた。
汚れたタオルを見て知っている王太子に、少し大袈裟に手紙を書いた。
『侍女達は誰かの指示で、母と私の世話を放棄するだけでなく、危害を加えようとしているようです。
せっかく招いていただいた王宮ですが、安心して過ごすことが出来ません。
どうか、静かで安心できる場所で母の介護をしたい、という願いを叶えていただきたいです。
セリア・レプセント』
宛先をチェイザレでなく、王太子にしたのは、王太子の信用を得る方が王宮から出やすいと判断したからである。
王と王太子は、チェイザレに知られたくないと密談をしていたが、本当にチェイザレは全く関係してないのか?
チェイザレを信じたい気持ちは大きいが、ここに連れてきた事が罠だったのなら?
チェイザレと結婚したいと思ってた。
チェイザレを置いて、逃げるのか?
現実問題は、意識のないケイトリアを一人で連れて逃げるのは、不可能に近い。
悩んだセリアは、チェイザレに出会った自分の運を信じることにした。
そして、チェイザレにも手紙を書いた。
『恋人としての話があります。』
こう書けば、人払いもしやすいだろう。
チェイザレは返事の代わりに、夜遅くに本人が来た。
ケイトリアの介護は侍女に任せて、セリアを外に誘う。
『忙しくって、一人にしてしまった。悪かった』
チェイザレは、開口一番にそんな事をいうから、セリアは、大丈夫と言う代わりにチェイザレの腕に飛びついた。
『寂しくさせて、怒ってるのかと思った。恋人を解消すると言われるかと、心配した』
セリアの様子にホッとしたように、チェイザレは言った。
なんだかその姿が可愛くって、セリアは、やっぱりこの人がいい、と思うのだった。
「誰もいない所に二人で行きたい」
セリアがそう言えば、チェイザレは期待したようにセリアの手を引いて、王宮の庭の奥に連れて行く。
ふと見上げると、夜空の星が輝いて、どこで見ても星は綺麗だな、と思う。
庭の暗闇の中に、セリアを連れて行ったチェイザレは、セリアを抱きしめて、口づけをしてくる。
セリアに他者の気配を探る能力はないが、こんな事をしていれば、監視者がいてもごまかさせるだろう、とセリアは計算したが、チェイザレは本気のようだ。
深くなる口づけに、セリアはチェイザレを引き離した。
「ちょっと、待って。話があるの」
「これ以上に、大切な事はないだろう」
チェイザレは、もう一度セリアに口づけしようとして、セリアに拒否された。
「話があるって言ってるのが、わからないの?」
完全にセリアが主導権を握っている。
セリアは迷い込んだ部屋で聞いた話を、チェイザレにした。
そうして、チェイザレが出した結論は、
「夫人の意識が戻る前の方が、父上達も油断していて、逃げ出しやすい」
という事だった。




